錦織圭が、ATPファイナルズに帰還し、ロジャー・フェデラーから約4年半ぶりの勝利をつかみ取った――。 ロンドンで開催されるATPファイナルズは、シーズンの年間成績上位8人だけがプレーを許されるエリート大会で、いわば年間王者決定戦。今回…

 錦織圭が、ATPファイナルズに帰還し、ロジャー・フェデラーから約4年半ぶりの勝利をつかみ取った――。

 ロンドンで開催されるATPファイナルズは、シーズンの年間成績上位8人だけがプレーを許されるエリート大会で、いわば年間王者決定戦。今回は、フアン・マルティン・デル・ポトロ(ATPランキング4位、11月5日づけ/以下同、アルゼンチン)が、右ひざ膝蓋骨の骨折によってファイナルズ欠場を表明したため、錦織(9位)が繰り上がって2年ぶり4度目の出場権を獲得した。



初戦のロジャー・フェデラーを相手に勝利を収めた錦織圭

 今シーズンは、WTAファイナルズで大坂なおみが初出場を果たし、錦織がATPファイナルズに出場。日本テニス界では初めて男女共にツアー最終戦に出場を果たすというエポックメイキングな年となった。

 28歳の錦織にとって2018シーズンは、2017年に負傷した右手首のケガからの復帰イヤーとなった。1月の開幕戦やオーストラリアンオープンに錦織は間に合わなかったが、USオープンではベスト4に進出。それ以降、錦織は安定した成績を残してポイントを積み重ね、11月5日のランキングでは2017年9月以来のトップ10復帰を果たした。復帰当初、ファイナルズ出場は現実味が薄かっただけに、ここまで辿り着いたという事実だけでも称賛に値する1年と言えるだろう。

「トップ8で終われなかったので、若干ラッキーはありました。でも、すごくうれしいですね。ここ(ファイナルズ)に来るのはもちろん簡単ではないです。トップ10に入ることは、今年の第一の目標だった。本当に(シーズンの)途中ぐらいから、少しずつ自信をつけて、ここまで来ることができました。今年1年プレーして満足しているので、ある意味ボーナスだと思って戦いたいですね」

 マスターズ1000(以下MS)・パリ大会の後、練習を少な目にして休養をとり「あと1週間頑張るために、体とメンタルの準備をしていた」という錦織は、ラウンドロビン(総当たり戦)のレイトン・ヒューイットグループ(※ヒューイットは、オーストラリアの元世界ナンバーワン選手。最終戦ではグループ名に、過去の名選手を使用することがある)に入った。

 第7シードになった錦織は、初戦で第2シードのフェデラー(3位)と対峙した。これまでの対戦成績は錦織の2勝7敗で、近々は6連敗中。勝利は2014年3月のMSマイアミ大会まで遡らなければならない。今季は、MS上海大会とMSパリ大会で対戦し、いずれも錦織がストレートで敗れている。

 さらに、最終戦では2度対戦したことがあり、2014年にはストレートで、2015年にはフルセットで錦織が敗れた。

 一方、37歳になったフェデラーは、最終戦は2002年から2016年を除くすべての年でプレーしており、今年で16回目(史上最多)の出場。6回の優勝(史上最多)を誇る。さらに、今年2月には、最年長(36歳)で世界ナンバーワンに返り咲き、依然としてツアーで大きな存在感を示している。

 そのフェデラーは、錦織戦の2日前の練習で、イワン・リゥビチッチコーチからヒッティングポイントがよくないことを指摘され、セブリン・ルシーコーチも含めて3人で、いつになく厳しい表情で話し合いをしていた。

 今回の対戦では、フェデラーが「両者共に、第1セットでは苦しんでいた」と振り返ったように、お互いリターンミスが多いことも手伝って、ロングラリーがほとんどない状態が続いた。そして、共にサービスをすべてキープしてタイブレークに入ると、錦織が4回目のセットポイントをものにしてセットを先取した。

 第2セットでは、第1ゲームでいきなり錦織がブレークを許すが、第2ゲームですぐにブレークバック。「先に得たリードを残念ながらキープできなかった」とフェデラーは悔やみ、少しずつラリーが増える中で、錦織が徐々にプレーのリズムをつかんでいった。

「タイブレークを取れたことと、本当に少ないチャンスを第2セットで取れたことが大きかったのかなと思います」

 結局、錦織が7-6(4)、6-3でフェデラーを破り、初戦を制して幸先のいいスタートを切った。

 もともとフェデラーは超攻撃的プレーヤーのため、ウィナーも多いがミスも多い。この試合でも、19本のウィナーを決めながら、ミスが34本と、さすがにミスが多過ぎた。一方、ウィナーこそ6本だったが、ミスを22本にとどめて勝利を手にした錦織は、フェデラーのプレーに対して心がけていることがあった。

「先手を取らないといけない場面もありますし、じっくりプレーしないといけない場面もある。とくに、(自分のボールが)浅くなってしまうと、(フェデラーは)誰よりも展開を早くプレーできる選手なので、ボールの深さを一番大事にしないといけない。攻められないためにも、自分が攻撃の展開をつくるためにも」

 ジュニア時代から、錦織がもっともリスペクトする選手はフェデラーだ。だが、「今は勝たないといけない相手でもあるし、今日は勝たないといけない試合でもあった」と肝に銘じて、錦織はフェデラーとの10度目の対決を制した。

 準決勝進出のために、錦織が初戦で勝ったのは大きなアドバンテージだ。「正直内容はそんなによくなかったですけど、それでも1試合目を勝てたことは自信にはなるのかなと思います」と錦織は胸を張る。

 第2戦で錦織は、第4シードのケビン・アンダーソン(6位、南アフリカ)と対戦する。

 フェデラーから約4年半ぶり3回目の勝利を獲得し、ファイナルズの大舞台で初めてフェデラーを破った意味は、これから錦織が戦いを積み重ねていくなかで、さらに大きくなっていくのではないだろうか。錦織がまだ到達したことのないファイナルズの決勝や初タイトル獲得への起爆剤になるかもしれない。