「自分は過去に降格を経験しているので、とにかく守備の安定を、というのはありますね」 そう語るMF山田大記は、2013年にジュビロ磐田がJ2に降格したときのメンバーだ。その口惜しさは、誰よりも身に染みている。「今シーズンは、ボールを持てて…
「自分は過去に降格を経験しているので、とにかく守備の安定を、というのはありますね」
そう語るMF山田大記は、2013年にジュビロ磐田がJ2に降格したときのメンバーだ。その口惜しさは、誰よりも身に染みている。
「今シーズンは、ボールを持てても落とした試合があった。(第29節)エスパルス戦みたいに、自分たちがボールを回していても負けてしまった。その後で、(第30節)長崎と”守備対守備”みたいな試合で勝ち点を拾って、そこからは連勝して、プラスアルファを積み上げてきています。攻撃の選手としては、もっと高い位置でプレーしたいのはありますけど、今は(守備との)バランスが大事で……」
磐田はJ1残留に向けてチーム一丸、腹をくくっている。
11月10日、味の素スタジアム。12位の磐田は、5位FC東京の本拠地に乗り込んでいる。12位とはいえ、降格圏の16位との勝ち点差はわずか4。この試合を落とせば、残留に向けて黄信号が灯る。
FC東京に引き分け、ホッとした表情を見せるジュビロ磐田の選手たち
立ち上がりは、磐田のペースだった。積極的なプレスがはまって、球際で先手をとって、FC東京を押し込む。前線の大久保嘉人や山田が起点になった。
しかし10分を過ぎると、FC東京が目を覚ました。チーム力の差を見せ、磐田の両サイドを容赦なくえぐる。3バックとウィングバックの結合部分を攻め立て、クロスから際どいシーンを作っている。
「磐田のウィングバックはストロングであり、ウィークでもある、という情報は分析からあったので、3バックのサイドの裏を積極的に突いていこうと、話をしていました。センターバック3枚のうちの2枚を釣り出せれば、中の枚数も減りますし」(FC東京・橋本拳人)
アジアチャンピオンズリーグ出場を目指すFC東京は、残留を争う磐田を戦術的に手玉に取った。室屋成が右サイドを鋭く切り裂き、ディエゴ・オリベイラにクロスを折り返すと、ヘディングシュートはバーを直撃。左サイドでは太田宏介が何度も攻め上がり、深い位置からクロスを供給し、磐田DFを狼狽させている。
そして34分だった。高萩洋次郎が右サイドで起点になって、磐田のディフェンスを食いつかせると、抜け出した室屋がスルーパスを受ける。ペナルティエリア内に侵入して切り返したところ、DFの足が引っかかった。判定はPK。これでFC東京の先制かと思われたが、タイミングをずらしたオリベイラのキックは左に外れた。
「(相手の)プレッシャーやボールを奪った後の動き出しが早くなって、(自分たちの)後ろがだいぶ重たくなってしまった。室屋、太田のサイドバックにあそこまで頻繁に上がられてしまった。ギリギリで失点を回避することができて、PKのところはゲームのポイントになった」(磐田・名波浩監督)
凌いだ磐田は後半、戦いを修正した。前線からのプレスを強めつつ、回避されたらリトリート(後退)し、人海戦術でスペースを消して守備を固め、状況を挽回。攻撃は単発ながら、相手を警戒させるだけの力はあった。山田がひとりで切り込み、惜しいシュートを放つ。大久保は遠目から無回転のシュートを狙っている。分厚い守備と一発のカウンターで、消耗戦に持ち込んだ。
「今は(残留争いだから)しょうがない。まず守備から入って、ゴールが無理なら、下がってキープして、ゲームを作って。そこは(監督から)『自由に(判断して)』と言われているから」(磐田・大久保嘉人)
たとえ個人の持ち味を殺しても、今はチームとして結果をつかむ必要があるのだろう。チームの共通意識として、その気持ちの強さは見せた。どうにか戦術、戦力の劣勢を補った。
最後は、総力戦になっている。
リンス、永井謙佑、矢島輝一と、FWを3枚も投入してきたFC東京に対し、磐田はまさに風前の灯火だった。勝ち点1の確保を優先したのだろうが、気持ちまでが守りに入ってしまい、全体が下がる。クリアもクリアにならず、自陣に押しやられてしまう。波状攻撃を受け、決定的なシュートを立て続けに打たれている。
それでも球際で食らいつき、身体を張った。この気迫が乗り移ったかのように、GKカミンスキーがどうにかピンチを救った形だ。
スコアレスドロー。どちらのチームが勝ち点1を拾ったのかは明らかだった。
磐田は執念を見せた。13位に順位を下げたものの、降格圏とは勝ち点4差をキープしている。残りは2試合。次がホームでコンサドーレ札幌、そして最終節はアウエーで連覇が決まった王者、川崎フロンターレと戦う。