アジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝。ペルセポリス(イラン)に対し、ホームでの第1戦を2-0で折り返した鹿島アントラーズは、テヘランで行なわれた第2戦を0-0で切り抜け、クラブとして初のアジアチャンピオンに輝いた。 アウェー独特の…

 アジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝。ペルセポリス(イラン)に対し、ホームでの第1戦を2-0で折り返した鹿島アントラーズは、テヘランで行なわれた第2戦を0-0で切り抜け、クラブとして初のアジアチャンピオンに輝いた。

 アウェー独特の雰囲気に覆われるなか、危なそうに見えるシーンはいくつかあった。自分たちが打った本数の倍以上のシュートを浴びることになった。GKクォン・スンテが活躍する回数は多かったが、決定的に崩されたり、パニックに陥るシーンはなく、わりと安心して見ていられる引き分け劇だった。



ペルセポリスを破りアジア王者の座についた鹿島アントラーズ

 第1戦の前半、引き気味に入ってしまったことを大岩剛監督は悔いていた。「ボランチの2枚がディフェンスラインに取り込まれる形になり、重たい戦いを強いられることになった」と。

「後半はディフェンスラインを上げ、両サイドバック(SB)に高い位置を取らせ、それによりサイドハーフがワイドに開けるようになった」と述べたが、その言葉はそのまま、この第2戦の注目ポイントになっていた。引いて後方で構えてしまうと危ない。両SBがどれほど高い位置を保てるか。勝負のポイントはそこにあった。

 鹿島の両SB、西大伍と山本脩人は、右の西のほうが攻撃的で、平均ポジションも5mほど高い。第1戦のとくに後半は、その西と同サイドの一列高い位置で構える右サイドハーフ、土居聖真とのコンビネーションが光っていた。そしてその一連の動きに、ペルセポリスの選手は苦手意識を持っているようで、その繊細なボールタッチを見てしまい、足を止める傾向があった。

 そのコンビネーションが第2戦では立ち上がりから披露された。西はかなり意図的に、ライン際の高い位置に進出。ペルセポリスに嫌なムードを浴びせかけることに成功した。第1戦の後半から流れるムードは、この第2戦にも引き継がれることになった。

 この状態を確認することができればひと安心だ。第1戦でいい終わり方をした鹿島と、そうでないペルセポリスの差が、2戦目のピッチにストレートに反映されることになった。

 ペルセポリスが守備の堅いチームであることは、データによって示されている。その実は、守りを固めて強力な2トップを走らせる典型的なカウンター戦術だ。

 ホーム戦を2点ビハインドで迎えたチームには悩ましいスタイルである。攻めなければならない状況なのに武器はカウンター。個々の技術は高いのにパスワークに難がある。西と土居、さらにはその周辺で、鹿島がしばしばコンビネーションプレーを発揮すると、彼らの自信はさらに揺らぐことになったかのように見えた。

 大違いだったのが、ボールへの反応だ。鋭かったのは、もちろん鹿島のほうで、その結果、鹿島はいいボール奪取を再三にわたって決めた。これも第1戦から続く傾向なのだが、奪われるたびに、ペルセポリスはますますボールのつなぎに自信を失っていくように見えた。ペルセポリスは前半の早い段階から、手詰まり感を露呈することになった。

 ペルセポリスに不足していて鹿島に備わっているのは3人目の動きだ。ペルセポリスのパスワークがパスの出し手と受け手の関係に終始したのに対し、鹿島は多くの選手がプレーに絡める状況にあった。ピッチ上に小さな三角形ができやすいサッカーをしていた。また相手ボール時に、隊列をコンパクトに維持することができていたこととも、それは大きな関係がある。

 鹿島が最後までパニックに陥らなかった理由は、サッカーの質で相手に上回られなかったことに尽きる。相手の攻撃の大半がパワープレーだったことに、鹿島は逆に安心したという印象だ。勝つべくして勝った順当勝ち。そう言い切っていいだろう。

 いまの鹿島は、自ら崩れることがない、まさに頭脳明晰な賢いサッカーをしている。Jリーグの年間順位では浦和レッズ、川崎フロンターレに続く3位に終わりながらチャンピオンシップを制し、そして開催国枠で出場したクラブW杯で決勝まで上り詰めた2016年シーズンの終盤と似たムードにある。

 マックス値は当時より上かもしれない。ジーコの口利きで入団した外国人選手、セルジーニョがチームにハマり、その彼と2トップを形成する鈴木優磨も2年前とは見違えるほど立派に成長した。

 土居のシャープな動きは健在。左サイドハーフには同様にシャープな動きの19歳の安部裕葵が座る。大柄な外国人選手が苦手とする身長171cmの小兵だ。

 そしてもっとも強力なのは、22歳の日本代表・三竿健斗と、レオ・シルバが組むボランチだ。群を抜くのはそのボール奪取力で、奪ったボールを生きたパスにする展開力も見逃せない。

 そしてSB。西と山本はともに30オーバーのベテランながら、替えが利かない重要な役割を果たしている。業(わざ)師と言うべき西。冷静沈着で賢い鹿島のサッカーを象徴する山本。現代サッカーはサイドバックが活躍したほうが勝つと言われるが、この2人は、それを証明するプレーを見せている。

 センターバックも韓国代表の若手、チョン・スンヒョンの加入でパワーアップした。ロシアW杯後、ケガで戦線離脱していた昌子源のコンディションがもう一段上がれば、鹿島の後方はいっそう安定する。GKクォン・スンテの高い能力は言うに及ばず、だろう。2年目を迎えて日本に慣れたせいなのか、圧倒的な存在感を発揮し、手堅い鹿島のディフェンスリーダーになっている。

 安西幸輝、永木亮太をはじめとするサブ選手のクオリティも高いうえ、大岩剛監督の使い回し方も上々。過密日程によって逆に鍛えられているという印象がある。

 ペルセポリスとの第2戦の終盤は、永木の投入と同時にレオ・シルバを1トップ下に置く4-2-3-1も披露。伝統的に4-4-2しか選択肢がないかに見えた鹿島だが、布陣の選択肢が増えれば、戦術的交代の幅は広がる。層の厚さを明確な形で見せつけることができる。

 UAEで行なわれるクラブW杯には、いい流れで入っていけそうだ。

 オークランド・シティ(オセアニア代表)、マメロディ・サンダウンズ(アフリカ代表)、アトレティコ・ナシオナル(南米代表)を撃破。レアル・マドリード(欧州代表)と決勝を戦い、延長までもつれ込んだ2年前を経験している選手が数多く残っていることも心強い。

 初戦(準々決勝)の相手はグアダラハラ(メキシコ)。もしこの試合に勝利すれば、準決勝でレアル・マドリードとの再戦が待っている。鹿島がそこで、日本のクラブサッカーの模範となるような、いいフットボールを展開することに期待したい。また、その可能性は高いと思う。