イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の第10日は女子シングルス準決勝などが行われ、第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)と第4シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)が決勝進出を決めた。…

 イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の第10日は女子シングルス準決勝などが行われ、第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)と第4シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)が決勝進出を決めた。

 女子ダブルスは第1シードのマルチナ・ヒンギス(スイス)/サーニャ・ミルザ(インド)の最強ペアが第5シードのティメア・バボス(ハンガリー)/ヤロスラーワ・シュウェドワ(カザフスタン)に2-6 4-6で敗れる波乱。

 なお、ジュニアの部で勝ち残っていた日本勢は、男子ダブルスで綿貫陽介(フリー)/ルーカス・クライン(スロバキア)が第8シードのジョン・マクナリー/ジェフリー・ジョン ウルフ(ともにアメリカ)を6-0 7-6(2)で破り、準々決勝に駒を進めた。

 しかし同じコートに続けて入った堀江亨(関スポーツ塾・T)と清水悠太(パブリックテニスイングランド)の日本人ペアは第4シードのベンジャミン・シグイン(カナダ)/ルイス・ベッセルス(ドイツ)に4-6 2-6で敗退。 全仏オープンのダブルスでベスト4入りした相川真侑花(テニスユナイテッド)は同じパートナー、エレナ・イン アルボン(スイス)とふたたび組んで今大会に臨んだが、2回戦で敗れた。

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 わずか48分の勝負だった。ノーシードながらここまで勝ち上がってきたエレナ・ベスニナ(ロシア)をセレナは6-2 6-0で粉砕。これまでグランドスラムは4回戦が最高だった29歳の勢いを封じ、格の差を見せつけた。特に第2セットはサービスゲームでの失ポイント0という圧倒的なサービス力。このセット、ベスニナは自分のサービスでも5ポイントしか奪えず、もう手の打ちようがなかった。

 これではまた記者会見でこんな質問が出るのも無理はない。「男女の同額賞金はおかしいと、またソーシャルメディアなどで話題になっています。女子がその額をもらう価値があるのか、あなたの意見を聞かせてほしい」

 シングルスのベスト4の賞金が50万ポンド(約6500万円)で、決勝に進出すると少なくとも100万ポンド(約1億3000万円)。つまり、単純に言って時給6500万円という計算になるが、この手の質問に、おおかた女子選手は不愉快になるもので、セレナも例に漏れないが、対処は慣れたものでこう返した。

 「もちろん価値はあるわ。あなたは自分の記事が短いとき、後ろにいる美しい女性の方と同じだけ払われる資格はないと思うのかしら?」

 反論したくなった記者は大勢いたはずだが、おそらく額の問題ではない。仕事の時間や量で報酬を測ることの矛盾を、セレナは皮肉たっぷりに指摘したのだ。

 もう一方の準決勝は少なくともそれよりは見応えがあった、6-4 6-4の1時間12分の内容。セレナの姉のビーナスをケルバーが倒した。

 2試合を合わせて2時間ちょうど。例えば前日の男子準々決勝は半分の2試合がそれぞれ3時間以上戦っている。ケルバーにも同じような質問が飛んだ。

 「今日来たファンにはチケット分の価値があったと思う?」 ケルバーは、「私たちはコートですべてを出すだけで、その結果、2時間で終わるか8時間になるかはわからないわ」と答えた。

 この日のセンターコートはこの2試合以外に、男子ダブルス準決勝があった。それを入れたとしても、126ポンド(約1万6000円)のチケットは、同じ価格に設定された木曜日のロジャー・フェデラー(スイス)対マリン・チリッチ(クロアチア)、アンディ・マレー(イギリス)対ジョーウィルフライ・ツォンガ(フランス)の2試合、合計7時間以上を見た人たちを思えば、損をした感じが否めない。

 ウィンブルドンのチケットは購入時に日を指定することはできず、抽選によって日が割り当てられるシステムだ。ファンにとっては、男女の賞金が同額なのはかまわないとして、むしろチケットの価格を考えてほしいところだろうが、男子の準々決勝日と女子の準決勝日を同じ料金にしているのが精一杯の配慮なのだろう。なお、金曜日の男子準決勝になるとセンターコートは、木曜日の女子準決勝より19ポンド(約2500円)高い。

 土曜日に行われる女子決勝は、この準決勝の話題を忘れさせる内容になるだろうか。セレナが勝てばシュテフィ・グラフ(ドイツ)に並んでオープン化以降最多となる22回のグランドスラム優勝を達成、ケルバーにはそのグラフがここウィンブルドンを20年前に制して以来のドイツ人の優勝がかかるが、歴史的瞬間の目撃だけではなく、その過程にチケット代の価値はある。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)