大阪・ITC靱テニスセンターで開催されている「三菱 全日本テニス選手権」は、11月4日に男子シングルス決勝戦が行なわれ、第1シードの伊藤竜馬が第2シードの徳田廉大を6-3、6-0で破り、5年ぶりの天皇杯を抱いた。また男子ダブルス決勝は第1シ…

大阪・ITC靱テニスセンターで開催されている「三菱 全日本テニス選手権」は、11月4日に男子シングルス決勝戦が行なわれ、第1シードの伊藤竜馬が第2シードの徳田廉大を6-3、6-0で破り、5年ぶりの天皇杯を抱いた。また男子ダブルス決勝は第1シードの仁木拓人/今井慎太郎が第4シードの清水悠太/羽澤慎治を破り、ノーシード同士の戦いとなった女子ダブルス決勝は内島萌夏/林恵里奈が寺見かりん/首藤みなみを下して、それぞれ初優勝を飾った。

両の拳を振り上げながら身体を反らせ、天へと激しく咆哮を上げた。優勝を決めた一撃は、伊藤の代名詞とも言える、火を噴くようなフォアハンドウイナー。次の瞬間「ゾーンに入っていた」という彼は、高ぶる闘争本能を、秋晴れの大阪の空へと解き放った。

試合中盤から終盤にかけては、9ゲーム連取にも無自覚なほどに「目の前のポイントのみに集中できていた」という伊藤。ただ試合を通しての青写真は、戦前に周到に描かれていた。ストローク戦を得意とする徳田が、ペースを落とした打ち合いに持ち込もうとすることは想定内。その上で、コイントスに勝った伊藤はレシーブを選び、あえて相手の打ち合いに付き合う策を取った。本人が後に明かすところによれば、その真意はこうだ。

「相手は粘ってくると予想していたので、どっしり構えて、自分がミスしないというのを見せたかった。そこからどんどんギアを上げて、攻める構えはできていた」

自ら相手の土俵に乗り、なおかつ互角以上に戦えることを示した第1ゲーム。さらに伊藤は狙い通り、5度のデュースを繰り返した末に、むしろ相手のミスを誘ってブレークに成功した。

もっともこの時点で若い徳田は、「自分のリズムで打てている」と、手応えを覚えていたという。だがそれが、伊藤に植え付けられた"思い違い"であることは、試合が進むにつれ明かされていく。

徳田にブレークバックを許した直後の第7ゲームで、伊藤は明らかにギアを上げた。フォアの逆クロスやスライスで相手を押し下げるや、すぐに前に出てボレーを叩き込む。突如の攻勢に出る伊藤の強打と速い展開に、徳田は「相手のパワーに押され」始め、気付けば「ついていくのがやっと」という状態に陥っていた。そんな相手の戸惑いを尻目に、伊藤はベースライン遥か後方から放つフォアの豪打や、華麗なジャックナイフで勢いに乗る。兵略、手札、そして集中力――全ての側面で、伊藤が相手を上回った完勝だった。既にタイトルを手にしている全日本に伊藤が再び出た訳は、優勝で得られる賞金400万円を、来年以降の軍資金にしたいとの明確な目的意識からだ。その目的を果たした今、彼はかつて居たグランドスラム本戦の舞台を、そして開催まで2年を切った東京オリンピックを目指し、新たなスタートラインに立つ。(リポート=内田暁 ©スマッシュ)

※写真は大会の様子

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