全公式戦を通じて4連勝のあと、引き分けを挟んで3連敗。先週のルヴァンカップ決勝で惜敗した横浜F・マリノス(以下マリノス)が、続くFC東京とのリーグ戦にも競り負けた。 今季のマリノスが、これまでにも連勝と連敗を繰り返してきたのは事実だ。…

 全公式戦を通じて4連勝のあと、引き分けを挟んで3連敗。先週のルヴァンカップ決勝で惜敗した横浜F・マリノス(以下マリノス)が、続くFC東京とのリーグ戦にも競り負けた。

 今季のマリノスが、これまでにも連勝と連敗を繰り返してきたのは事実だ。ただし、新監督のもとでドラスティックな方針転換に挑んでいるチームにとって、中盤戦までの浮き沈みはそれなりに予想できたことである。夏場はとくに苦しんで、リーグ戦で4連敗を喫した。

 しかし、9月下旬の第27節ジュビロ磐田戦から、鹿島アントラーズとのルヴァンカップ準決勝第1戦まで勝ち続けていた頃(第2戦は引き分けて決勝進出)は、勢いだけでなく、チームの完成度の高まりを感じさせた。アンジェ・ポステコグルー監督の目指す先鋭的なアタッキングサッカーを、ピッチ上の選手たちがいよいよスムーズに表現できるようになりつつある、と。


マリノスを率いるポステコグルー監督

 

 ところがその後、ガンバ大阪に逆転負けを喫し、先週にはルヴァンカップ決勝で湘南ベルマーレに敗北。反発力が試されたこの日のFC東京戦でも、ホームでゴールを奪えずに0-1で敗れてしまった。マリノスは早々にFC東京のチャン・ヒョンスのヘディングで先制され、その後は短いパスで相手の牙城の外堀を埋めるだけの時間が長かった。

 この試合に限って言えば、敗戦の要因は堅守が武器のFC東京にセットプレーから先制を許し、相手の望む展開になってしまったことが大きいだろう。また、ガンバ大阪戦で負傷離脱した遠藤渓太の不在が影響したかもしれない。あるいはルヴァンカップ決勝でタイトルを逃したことが尾を引いているのか……。

 そんなことを思案しながら、記者会見で両監督の見解を聞いた。まずはFC東京の長谷川健太監督は、どんなマリノス対策を講じたのか。

「(マリノスのことは)十分にリスペクトして、4-2-3-1で臨みました。中盤で振り回されるとゲームを組み立てられなくなるので、そこを厚くして、バランスを保てるように」

 先週末のマリノスの対戦相手、湘南のチョウ・キジェ監督は「ボールを回してくる相手にはまず、『なんか今日はプレスがきつくて引っかかるな…』と印象づけさせたかったので」前線からの激しいプレスを選択したと話していた。FC東京の長谷川監督は中央をケアするという異なるアプローチで、マリノスのパスサッカーの威力を抑えようとした。結果的に、それぞれの対策は奏功している。

 長谷川監督が去った後、会見場に現れたポステコグルー監督は、フラストレーションを抱えているようだった。連敗の要因を尋ねると、質問がすべて訳される前に次のように語り始めた。

「チームは良いプレーをした。すべてを出し尽くしてくれたので、不満は一切ない。ただピッチがとてもひどく、我々のフットボールが展開できなかった」

 別の記者が「無得点が2試合続くのは、今季のマリノスとしては寂しい気がしますが」と聞くと、ポステコグルー監督はまたも通訳者を途中で遮るようにして、強い口調でこう述べた。

「私はフットボールの見方が(あなたたちとは)違う。今日のスコアはたしかにゼロだ。もしかしたら人々はそこだけを見るのかもしれない。しかし私が見たのは、厳しいコンディションのなかでゴールを奪おうと全力を尽くしたマリノスの姿だ」

 会見後、取材エリアへの通路で会ったコーチのピーター・クラモフスキーに声をかけたところ、彼の方から「今日のうちの敗因は何だと思う?」と逆に質問された。そこで前述の3つの要因に加え、今日は中盤からの配球にミスが多くてリズムが生み出せていなかったと思う、と伝えたところ、彼は首肯しながら、「審判(の判定)がひどかったよ」と同意を求めるように言って去っていった。

 実際、先週も今週もマリノスのPKになっていてもおかしくない場面で、笛は吹かれていない。ウーゴ・ヴィエイラは「今日の審判は5部リーグ並み。Jリーグはレフェリーを改善すべき」と怒りを滲ませながら言った。

 もちろんそれはひとつの局面であり、すべてを説明するものではない。その意味で、チアゴ・マルチンスの言葉にはより説得力があった。

「今日は自分たちのサッカー、ポゼッションはできた。ただゴールを決めるときにどんな工夫をするのか。それを決定するのは僕ではなく監督だから、彼のイメージをきちんと理解する必要がある。あと、選手が各々で考えることも大事だ」

 チアゴとCBコンビを組んだドゥシャンも前向きに言った。

「シーズンには浮き沈みがあるものだけど、このチームは以前と比べて、大きく成長している。監督の要求は高いが、だからこそ、選手が成長できているとも言える。自分たちがやっていることを信じて、厳しいトレーニングを続けるしかない。そしてディテールを突き詰めていかないと」

 今季のマリノスは、同じ「シティ・フットボール・グループ」の筆頭、マンチェスター・シティの手法に大きな影響を受けている。そのシティも、ペップ・グアルディオラ監督の就任一年目には成功を収められなかった。中盤戦から終盤戦にかけて思うように勝ち星が挙げられず、グアルディオラは監督キャリアで唯一、このシーズンだけ無冠に終わっている。

 それをふまえると、この連敗は成長の停滞というよりも、成功に必要なステップの途中にある踊り場、くらいに捉えることもできるだろう。当然、相手の対策も進んでいるし、ピッチの状態やジャッジに泣くこともある。

 リーグ戦は残り3試合で、対戦相手のなかには、V・ファーレン長崎(18位)や鳥栖という残留争いの直接のライバルがいる。悠長に構えてはいられない。

「いま一度、チームの意思統一をしっかりやらないと」と喜田拓也は言う。「苦しいのは確かだけど、これは自分たちがつくった状況なので、自分たちで責任を持って乗り越えたい。結果に対する執着心を高めるべき。次の長崎戦は、死ぬ気で戦います」

 アンジェの「要求の高いフットボール」(ドゥシャン)が完成するまでは、まだまだ時間がかかりそうだけど、選手たちの戦意は旺盛に見える。トリコロールの激変の一年目はいかなる終幕を迎えるだろうか。