福田正博フォーメーション進化論 日本代表監督への就任が決まった直後、さまざまなメディアが森保一監督は3−4−2−1で戦うだろうと予想した。だが、蓋を開けてみれば、森保ジャパンのここまで3試合の布陣は、いずれも3バックではなく、4バックを…

福田正博フォーメーション進化論

 日本代表監督への就任が決まった直後、さまざまなメディアが森保一監督は3−4−2−1で戦うだろうと予想した。だが、蓋を開けてみれば、森保ジャパンのここまで3試合の布陣は、いずれも3バックではなく、4バックを敷いている。

 以前、森保監督と話をした際、サンフレッチェ広島で3バックを敷いた理由を訊ねると、彼は「選手が運動量を多くして攻守で数的優位をつくることが目的で、広島でそれを実現するのに4バックでやれる選手がいなかったから」と説明してくれた。



強豪ウルグアイにも勝利してここまで3連勝の森保ジャパン

 日本では、サッカーを語るときにフォーメーションだけがひとり歩きすることが往々にしてあるが、重要なのは3−4−2−1や4−3−3などの布陣の『狙い』にあるのだ。フォーメーションは、チームが勝利するための表現方法に過ぎず、大切なのはそのフォーメーションにした『意図』を読み解くこと。1トップ下に入る南野拓実(ザルツブルク)の捉え方によって、4−2−3−1にも4−4−2にも4−4−1−1にも受け取れるが、その違いはたいした問題ではない。

 では、森保監督が日本代表でもっとも重視している『狙い』がなにかと言えば、会見などで何度も発する「いい守備から、いい攻撃」になる。これは森保監督だけが考える特別なものではなく、現代サッカーにおいては世界中の指導者が目指しているものである。

 コミュニケーション方法や、選手起用などでのアプローチは異なっていたものの、日本代表のハリルホジッチ元監督も西野朗前監督も、目指していたのは「いい守備から、いい攻撃」にあったと言える。

 森保監督が「いい守備から、いい攻撃」を実現するために大切にしているのが、「選手同士の距離感を保つこと」。これは日本人選手の特性を最大限に生かし、フィジカル勝負では不利な局面が多くなる弱点を補うためだ。

 攻撃では日本人選手の高い俊敏性とボール技術を活かして、近い距離でパス交換しながら相手との真っ向勝負を避け、屈強な相手DFを振り回して崩していく意図がある。同時に、相手陣でボールを失っても味方同士の距離感が近いため、相手のボール・ホルダーに素早くプレッシングをかけていく狙いもある。

 サッカーで守備について考える時に、4−4−2などのフォーメーションでブロックをきっちりセットして守ることを想定しがちだが、現代サッカーにおいてより重視される守備はトランジション、つまり攻守の切り替えの部分にある。

 相手陣に攻撃を仕掛けていったとき、守備側の意識は『守ること』にある。そこでこちらがボールを失うと、相手チームの意識は反撃に出ようと守ることから離れ、重心は前がかりになる。そこですぐにボールを奪い返すことができれば、ピンチを未然に防げるばかりか、相手の意識と陣形が崩れているため、ゴールを奪うチャンスは最初の攻撃時よりも増しているのだ。

 ただし、試合の局面を、『攻撃/トランジション/守備』と厳密に区分することは難しい。最先端のサッカーにおいては、攻撃から守備、守備から攻撃にかけて『シームレス化』が進んでいるからだ。

「攻撃は最大の防御」という言葉のとおり、攻撃と守備は表裏一体。だからこそ、攻撃的なポジションの選手は「ボールを失ったら仕事は終わりで、あとは守備陣に任せる」と考えるのではなく、攻撃と守備を『ひとつながりのもの』と認識して、再び攻撃に転じるために素早くプレッシングをかけていく必要があるということだ。

 こうした意識は、練習時から必ずゴールを置いてトレーニングをしなければ養えないものだ。ただ、日本では育成年代からトップレベルまで、練習の時に「攻撃は攻撃」、「守備は守備」と区分しているケースがまだあるように思う。これでは攻守の切り替えの『トランジション』の意識を高められない。ユース年代の選手を指導するコーチには、どんな練習であってもゴールを必ず置いてもらいたいと思う。

 森保ジャパンは、この攻守一体の意識を選手全員が高いレベルで共有し、攻撃時には守備への備えをし、守備のときは攻撃への準備もしている。前線に起点となる1トップの大迫勇也(ブレーメン)がいて、その周囲を衛星のように動く役割の南野がトップ下に位置し、両サイドMFの中島翔哉(ポルティモネンセ)と堂安律(フローニンゲン)が中央に絞ってプレーする。両サイドMFが中に絞ることで空くスペースは、左右のサイドバックがオーバーラップをして埋めるという整理がきちんとできている。そのため、選手同士の距離感を保って「いい守備から、いい攻撃」を実現できているのだ。

 この土台を支えるのが、攻撃と守備のリンクマンとしてセントラルMFに入る選手だ。このポジションに2選手を起用する場合の理想形は、ひとりが青山敏弘(広島)や柴崎岳(ヘタフェ)、大島僚太(川崎フロンターレ)のように長短のパスで攻撃を組み立て、ズバッと最前線に縦パスを通すなど、ボールを捌けるタイプの選手。もうひとりは、遠藤航(シント・トロイデン)や三竿健斗(鹿島アントラーズ)のようにボール奪取能力が高く、自陣ゴールエリアから相手陣のゴールエリアまでプレーできるタイプの選手になる。

 実際、ウルグアイ戦で先発に起用されたのは前者タイプの柴崎と後者タイプの遠藤だった。遠藤はアグレッシブにボールに食いつき、ボールを奪うと前へと攻め上がり、味方が相手陣で失ったボールを何度も奪い返して再び攻撃へとつなぐプレーを見せた。彼は足下の技術もあって、縦パスも入れられるし、ヘディングも強く、果敢にゴール前へ出ていく運動量もある。三竿や山口蛍(セレッソ大阪)、井手口陽介(グロイター・フュルト)などのライバルのなかではレギュラーに近いアピールをしている。

 もう一方のタイプでは、広い視野と戦術眼で1本の縦パスで戦況を一気に変えるパスが出せる青山の存在感が大きい。このポジションは「ボールと味方を走らせる」のが役割で、スプリントの回数はさほど求められないために、年齢を重ねても務まる。それでも4年後を見据えた場合、現在32歳のベテラン・青山に代わる選手が必要不可欠なだけに、柴崎や大島、あるいは新たな才能が台頭することを心待ちにしたい。

 森保ジャパンは3連勝という順調な滑り出しをしたが、これが森保監督の志向する攻守一体となったサッカーの完成形ではないし、まだまだ成長の余地はある。フォーメーションだけでは見えてこないものに目を配りながら、森保監督のもとで日本代表がどう進化・発展していくのかをしっかり見守っていきたい。