現代NBAのビッグマンは、大きく2種類に分類できる。恐竜(ダイナソー)と一角獣(ユニコーン)だ。 昔ながらの、活動範囲がゴール下だけのダイナソー・タイプはまだ若干生き残っているが、スピードと機動力が求められる現代では以前ほど重宝されな…
現代NBAのビッグマンは、大きく2種類に分類できる。恐竜(ダイナソー)と一角獣(ユニコーン)だ。
昔ながらの、活動範囲がゴール下だけのダイナソー・タイプはまだ若干生き残っているが、スピードと機動力が求められる現代では以前ほど重宝されなくなり、活躍の場が年々減ってきている。いくらゴール下を支配できても、それだけでは生き延びられない。
フェニックス・サンズにドラフト1位で入団したデアンドレ・エイトン
代わりに台頭してきたのが、サイズがあっても活動範囲が広いユニコーンだ。高さがあるだけではだめで、攻守で機動力があり、ボールハンドリング力や外からのシュート力も持つオールラウンド型ビッグマンだ。
今年6月のドラフトでフェニックス・サンズから1位指名されたデアンドレ・エイトンは、NBAに入る前から、次の『ユニコーン』だと期待されてきた。実際、216cmの長身と敏捷性の組み合わせは、大学バスケットボールでは圧倒的な存在感を示した。
しかしそんな彼でも、潜在能力を認められて故郷バハマを出て、アメリカに渡った直後には、ただ単に大きいだけで、チームメイトから「TFN」とのあだ名で呼ばれていたのだという。TFNはTall for Nothing(無意味に長身)の略。異国の地に出てきたティーンエイジャーの少年にとって、なかなか残酷なあだ名だ。
もっとも、それも仕方なかった。なにしろ、渡米直前の12歳のときにバハマで開催されたバスケットボールのキャンプに参加するまで、エイトンは本格的にバスケットボールを学んだこともなく、スポーツといえば草サッカーをしたことがあるだけだったのだ。
それでも、当時すでに203cmだったという規格外の長身と、高い運動能力などの潜在能力を認められ、カリフォルニア州サンディエゴのコーチから求められて渡米。当時はそれがNBAにつながるなんて考えてもおらず、ただ単に、自分が渡米することで母と義父の経済的負担が減るなら、と考えての決断だったのだという。
エイトンは、当時のことをこう振り返る。
「よく笑われていた。泣いたこともあった。ハードワークが大変だったんだ。うまくなるのがそんなに大変だとは知らなかった。でも、あきらめたくなくて泣いた。両親のことを考え、失敗したくなかった。自分に与えられた機会が当たり前だと思ったことはなかった」
高校に進学するころには、誰もエイトンをTFNと呼ぶことはなくなっていた。むしろ、エイトン自身、サイズや身体能力を使えば周りを圧倒できてしまうことを、物足りなく感じ始めてもいた。
「高校でプレーするのはあまり好きではなかったんだ。退屈していた、とまでは言わないけれど、よく手を抜いたりしていた。相手の力にあわせてしまっていた。そこまで興味がなかった。大学に行くこと(大学からリクルートされること)だけを考えていた」
身体能力だけで周りを圧倒できるゲームは、一見、何でもできて楽しそうに思えるかもしれないが、実のところ、競争心の強い彼らにとってはまったく楽しくない。もっと高いレベルでの競争をするためには、大学、そしてNBAと進むまで、時間が流れるのを待つしかなかった。
10月17日、ダラス・マーベリックスとのホームゲームが、エイトンにとってNBAデビュー戦だった。相手には、ドラフト3位で指名されたスロベニア人ルーキー、ルカ・ドンチッチもいた。マッチアップはオールスター・センターのデアンドレ・ジョーダン。
試合が始まって30秒もたたないうちに、エイトンはプロ1本目のリバウンドを奪取。その直後に、ドンチッチにファウルされながらレイアップを決め、フリースローも沈めた。その後も、ジャンプシュートやフックシュートなど、多彩な攻撃力を見せた。
もちろん、うまくいったことばかりではない。ヘルプに少し気を取られた瞬間にジョーダンにダンクを決められた場面もあった。それでも、エイトンは36分半の出場時間で18得点・10リバウンド・6アシストと活躍し、サンズは121−100で快勝した。
試合後のロッカールームで、エイトンは言った。
「バスケットボールをプレーしてきて、一番面白かった! 最初の試合。これから何試合もこういう試合をできるなんて、すごくハッピーだ」
プロの世界は、競争を楽しむメンタリティがないと生き延びることはできない。なにしろ、毎試合、気を抜くことができる相手はいない。サンズもマブズ戦後の3試合は、ビジターにとっての難関――高地デンバーでのナゲッツ戦、2連覇中の王者ゴールデンステート・ウォリアーズとのアウェー、そしてホームに戻ってレブロン・ジェームズ率いるロサンゼルス・レイカーズ戦と、息をつく間もなかった。
ナゲッツ戦で巧者ニコラ・ヨキッチを守るのに苦労してファウルトラブルに陥れば、王者ウォリアーズのバスケットボールには翻弄され、勝ちに飢えていたレイカーズにも突き放された。その後、メンフィス・グリズリーズとオクラホマシティ・サンダーにも負けて5連敗(現地10月30日時点)。エイトン自身は6試合平均17.5得点・10.3リバウンド・3.8アシストと十分に活躍を見せているが、それでも開幕早々、相手から狙い打ちされるのを感じたという。
「みんな僕のところから攻めようとしてくる。僕がどれくらいできるか見てみたいんだと思う。ルーキーに対しての、本物かどうか試すようなものなのだろう」とエイトン。
「でも、僕は負けず嫌いだ。競うことが大好きだ。それが僕の性格。ただ、それをチームとしてやらなくてはいけない」
実のところ、エイトンがNBAでも「本物のユニコーン」と呼ばれるのに価(あたい)するかどうかは、まだこれからコート上で証明していかなくてはいけないことだ。現状、プレースタイル的には、ポストアップからの攻撃を好むダイナソーに見える。
ただし、インサイドが主な戦場であっても、それはまだプレー経験が浅いからであって、この先プレーの幅を広げるに従い、ユニコーンになりそうな潜在能力も感じる。いや、エイトンなら、たとえダイナソーのままだったとしても簡単に死滅することはなく、進化型ダイナソーとして新たなタイプを作り出していくのかもしれない。
何にしても、まだルーキーシーズンの82試合は始まったばかり。競争好きというエイトンは、退屈する暇もないような究極のステージで競い続けることで、この先いったいどれだけ成長していくのだろうか。今シーズンのNBAの楽しみのひとつだ。