長い長い泥沼のトンネルにハマってしまった。 男子テニス世界ランク11位の錦織圭(28)がまたも「決勝の壁」にはね返された。10月28日、エルステバンク・オープン(オーストリア)決勝で、世界8位のアンダーソン(32=南アフリカ)に3-6、6…

 長い長い泥沼のトンネルにハマってしまった。

 男子テニス世界ランク11位の錦織圭(28)がまたも「決勝の壁」にはね返された。10月28日、エルステバンク・オープン(オーストリア)決勝で、世界8位のアンダーソン(32=南アフリカ)に3-6、6-7のストレートで敗れた。2016年2月のメンフィスオープン優勝以来となるツアー通算12勝目はならず、決勝では9連敗となった。

 

錦織圭 Getty Images

 

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 「勝負は紙一重だった。100%は出したつもり。相手のプレーがとても良かった」と錦織。アンダーソンには対戦成績で4勝2敗と勝ち越していたが、相手のビッグサーブに苦しみ、得意の打ち合いに持ち込もうとしたが、要所のミスも響いて力尽きた。

 今大会の錦織は絶好調だった。準々決勝で世界7位のティエムにストレート勝ち。「今週は特にすごくいいテニスができた。この1年で一番いい試合がいくつかあった」。昨年8月に右手首を故障し、復帰したのが今年の1月。世界ランクも自己最高4位から39位まで落ちたが、右肩上がりに復調して迎えた今季3度目の決勝。「今度こそ」の思いは強かったはずだが、なぜか勝ちきれない。

 決勝9連敗の内訳はランク上のナダルとジョコビッチに敗れたのが2回ずつで計4回。それ以外がチリッチ、ディミトロフ、ドルゴポロフ、メドベージェフ、そして今回のアンダーソン。ランク上位の「ビッグネーム」に負けるのは仕方ないにしても、下位相手の取りこぼしも目立つ。傾向として、準決勝までは伸び伸びとプレーして格上も撃破しながら、決勝では、要所で集中力が切れ、守りに入るなど、らしくないプレーも散見される。

 

 決勝までに体力を消耗し、疲労が蓄積すれば、これまでと同じように打ったつもりでもミスが増える。一大会を戦い抜く体力面も課題の1つ。だが、それ以上に「決勝」という特別な舞台が影響していると考えられる。苦手を意識すればするほど、普段通りの力を発揮できない。錦織は専門的なメンタルトレーナーをつけ、知識も豊富だが、それでも決勝で勝てない現実を打破できない。

 01年ウインブルドンを制覇したイワニセビッチは言った。「圭には世界一の実力がある。でも勝負どころのメンタルが弱いままでは、グランドスラムはとれないだろう」。

 そもそも日本人のメンタルは弱いのか。脳科学トレーニングの研究では、欧米人に比べて、外界の影響を受けやすい遺伝子物質が日本人(アジア人)には多いという報告がある。こうした不安を軽減させ、自分に自信をつけさせるために、日本人アスリートの練習量は総じて多くなるという。ただ「練習量=メンタルの強さ」になるとは限らない。

 日本サッカー界のレジェンド、メキシコ五輪得点王の釜本邦茂氏は、日本人のメンタリティーをこう話している。「日本と欧州の根本的な差異は、農耕民族と狩猟民族の違いだ。ゴールを決めて試合に勝とうという強いモチベーションを持った本田圭佑のような、狩猟民族の選手が何人も出てこなければ、世界の強いチーム相手に勝つことはできない」。リスクを避け、シュートの直前でパスを選択してしまう日本人の欠点を指摘したものだ。

 メンタルに関する考え方はさまざまだが、不名誉な記録を阻止したいのは誰より錦織に他ならない。9連敗について質問されると「今回も別に悪いテニスはしていない。挑戦し続けるだけ」と話した。弱音は吐かないが、問題と向き合い、必死で闘っている。

 これまでの日本人ならツアー決勝進出だけでも十分な成績だが、錦織の実力は世界的に認められているからこそ、勝負弱さがクローズアップされる。課題を克服し、2年8カ月も続く「決勝の呪縛」から解放されたとき、初のグランドスラム制覇も見えてくるだろう。

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[文/構成:ココカラネクスト編集部]