27日になでしこリーグ第17節が行なわれ、首位の日テレ・ベレーザがAC長野パルセイロレディースに2-1で勝利し、最終節を待たずに4連覇を達成した。最後は笑顔で喜び、優勝を分かち合あった日テレ・ベレーザのメンバー 16節では、ホームで味…
27日になでしこリーグ第17節が行なわれ、首位の日テレ・ベレーザがAC長野パルセイロレディースに2-1で勝利し、最終節を待たずに4連覇を達成した。
最後は笑顔で喜び、優勝を分かち合あった日テレ・ベレーザのメンバー
16節では、ホームで味の素フィールド西が丘に5000人近い観客を集めながら、2位のINAC神戸レオネッサとスコアレスドローに終わり、優勝を決められなかったベレーザ。
何としてもホーム最終戦である、AC長野戦で優勝を決めたいという想いは強かった。にもかかわらず、優勝が決まったその瞬間、ピッチ上は意外にも静かだった。ただの一人も歓喜の表情を見せなかったのである。不思議な光景だった。
答えはこの試合の中にあった。長野は優勝を阻止したい。ベレーザの巧みなパス回しに惑わされることなく、フィニッシャーを徹底的にマークする。前線で懸命にシュートを狙い続けるエース田中美南がその餌食となるが、当然その周りのスペースは空いてくる。ベレーザの先制点は混雑するペナルティエリア内ではなく、「今までにないゴールだった」と語った長谷川唯がダイレクトで放ったミドルシュートだった。
しかし、前半終了間際に同点にされると、後半はカウンターを食らう場面もしばしば。このアップダウンで徐々に体力を消耗していく時間帯に決勝弾は生まれた。右サイドからのクロスにニアサイドで長谷川が合わせたシュートはGKに弾かれるも、自ら拾って小林里歌子につなぎ、中へ入れたボールを田中がスルーして、その先にいた籾木結花が決めた。
得点だけを振り返れば、相手の隙を突いた長谷川のゴールも、混雑するペナルティエリア内で互いの動きを掌握して生まれた決勝ゴールも、歓喜に値するゴールだった。ただ、それ以外の時間帯が選手たちにとって納得できる展開ではなかったのだ。
今シーズンのベレーザが取り組んでいるのは、選手たち自身が「誰もやっていない唯一のサッカー」を表現するというもの。システムこそ4-1-4-1だが、それに加えて止まらない動きが要求される。攻撃では中央に吸収されるように、選手の距離が近くなったかと思えば、すぐさまサイドへ散らしたりと、ピッチ上でまるでポンプのように圧縮膨張を繰り返す。それをテンポのいいパスと、的確なポジショニングでつないでいくのだから、全員のイメージの共有が強固でならなければ、ゴールにはつながらない。
さらに、ひとつのポジションの仕事だけをこなしていればいいということは、このサッカーではあり得ない。たとえばサイドバック。縦へのビルドアップで、攻撃参加でも十分アクティブな印象を与えるが、ベレーザのサイドバックは中に入り込むスイッチを持っていなければ務まらない。
この日、左サイドバックに入った宮川麻都は、なるべく高い位置を取るように意識をしていたし、後半には最前線の真ん中で長谷川からのパスを受け、フィニッシャーにもなっていた。当然、サイドハーフとの連係も重要だが、宮川が侵入するスペースを作り出す意識を全員が持っていなければ、最前線まで上がり切ることは不可能だろう。
「あえて相手の強度の高いところ(中央)を割っていくというのが今日のテーマでもあった。ゴールへの最短距離を要求してしまい、(納得できる時間帯が多くなかったのは)僕の行き過ぎた要求が引き起こした」とベレーザの永田雅人監督はこの試合を振り返った。
確かに、長野も奪いどころと位置づけていたフィニッシャーのところだけではなく、後半にそのポイントをサイドにも置いたことで、本来はボールを回して相手を動かしながら、間を割っていくベレーザのリズムはなかなか生まれなかった。しかし、それ以上に選手たちが問題視したのは自分たちの”試合中の判断”だった。
「今までできていたことが、(この試合で)できなかったことが悔しい」と苦い表情を見せたのは長谷川。これまで、新しい課題に取り込んでもマイナスに感じる試合はなかったという。試合は、相手の動きひとつでプランを練り直さなければならない場面の連続だ。その都度、ピッチ内でそれぞれが判断しなければ成り立たないサッカーなだけに、わずかなズレが命取りとなる。ピッチの中でしかわからないことは選手たちで判断する。そこがコントロールできれば、おのずと流れはやってくる。それこそベレーザの目指すサッカーだ。勝利はしたものの「20点」と長谷川の自己評価は厳しかった。
それでも攻撃に入った際、常に数的有利を作るためのポジショニングや、味方と相手のバランスを見ながら、間に顔を出すことで自然とボールホルダーと進行方向に選択肢を多く含んだ三角形が形成されている回数が増えてきている。タイミングを合わせて人数をかけることができれば、選択肢は無限に広がっていく。
春先にチームの取り組みを見た時は、少なくとも3年ほどの時間は要するのではないかと思っていた。ところがチャレンジしながら最も重要である土台を築き、2冠(リーグカップ、リーグ)を達成してしまうのだから、ベレーザの選手たちの技術は当然のことながら、そのサッカー理解度の高さは計り知れない。
笑顔なき優勝ではあったが、それもいいではないか。選手がすぐさま修正箇所を話し合えるということは、すでに次への一歩を踏み出した証拠。彼女たちが笑顔で自分たちの試合に納得する瞬間を迎えたとき、ベレーザは女子サッカーで唯一無二のスタイルを築き上げているはずだ。それはきっとそんなに遠い将来のことではないだろう。