試合における内容と結果。どちらも重要なのは間違いないが、内容に頓着せず、結果ばかりにこだわっていれば、いずれ結果もついてこなくなる。その意味において、より重視すべきは内容だ。 しかし、ときに内容を度外視してでも、絶対に結果を出さなければい…
試合における内容と結果。どちらも重要なのは間違いないが、内容に頓着せず、結果ばかりにこだわっていれば、いずれ結果もついてこなくなる。その意味において、より重視すべきは内容だ。
しかし、ときに内容を度外視してでも、絶対に結果を出さなければいけない試合がある。この日、U-19日本代表が臨んだ試合が、まさにそれだった。
10月28日、インドネシア・ジャカルタで行なわれたアジアU-19選手権準々決勝。勝てば、来年ポーランドで行なわれるU-20ワールドカップの出場権を手にできるが、負ければ、その瞬間に世界への道は断たれる。
そんな大一番で日本は、多くの困難に直面することとなった。
まずは対戦相手が、開催国のインドネシアであったこと。スタジアムには、満員札止めの6万人を超える観衆がつめかけ、地元チームを後押しした。A代表のワールドカップ予選ならともかく、ユースレベルの大会では見たことのない光景である。
ふたつ目は、ボールが大きくイレギュラーする劣悪なピッチ状態。そして最後に、ハーフタイムに降り始めた雨。それも雷鳴をともなった豪雨である。
この大会が現行方式(16カ国が出場し、上位4カ国が世界大会に出場できる)になって9回目。日本は、そのすべてで世界行きをかけた準々決勝を戦ってきたが、ここまで悪条件がそろった例は過去にない。プロのサッカー選手としては、決して経験豊富とは言えない19歳以下の選手たちにとっては、相当過酷な環境だったに違いない。
だがしかし、そんな環境下でも、日本の選手たちは落ち着いていた。華麗なパスワークや鋭いドリブルで相手ディフェンスを崩したわけではなかったが、よく走り、よく戦った。MF安部裕葵(鹿島アントラーズ)が語る。
「得点というのは、(シュートを)何本打っても入らないときもあるし、逆に1本打ったら入るような試合もある。でも、得点が入る、入らないにかかわらず、常にやらなければいけないことはある。90分間、何をしているか。どんな声で、どんな表情でプレーするかが大事だと思う。100%(やれた)とは言わないが、それを相手よりやれたことが勝因ではあると思う」
はたして日本は、自国開催で勢いに乗るインドネシアを2-0で下した。2大会連続10回目のU-20ワールドカップ出場である。
見事に世界切符を手にしたU-19日本代表
90分間をおおまかに振り返ると、前半は日本が、後半はインドネシアが、主にボールを保持して、試合を進めた。両チームが互角に攻め合ったと言ってもいい試合で、日本が勝利を手にすることができたポイントを挙げるとすれば、「先制点」と「堅守」だろう。
キャプテンのMF齊藤未月(湘南ベルマーレ)が、「まずは前半を1-0で折り返せたのがよかった」と話すように、日本が攻勢だった前半、もしも無得点に終わっていたら、その後の試合はまったく別物になっていた可能性はある。前半は守備を固めて日本の攻撃をしのぎ、後半勝負。そんな思惑が見て取れたインドネシアの思うツボだったはずだ。
だが、引いて守るインドネシアに対し、「焦れることなく、慌てずにやれた」(齊藤)という日本は、ピッチを横に広く使い、丹念にサイド攻撃を仕掛け続けた。
そして、迎えた40分。左サイドバックのDF東俊希(サンフレッチェ広島ユース)が、右サイドからつながれてきたパスを受けると、左足で強烈なミドルシュートを叩き込んだ。こう着状態を打ち破る、「自分でもビックリした」というスーパーゴールだった。
しかし、後半に入ると一転、インドネシアが積極的に前へ出てきたことで、日本は守勢に回る時間が長くなった。殊勲の左サイドバックは喜びも控えめに、反省の弁を口にする。
「(インドネシアは)事前の分析でも、ドリブルでどんどん仕掛けてくるとわかっていたが、後半は自分のサイドでピンチが多かった」
それでも日本の守備は、最後まで破綻することがなかった。安部が振り返る。
「ハーフタイムにみんなで話していたのは、こういうゲームは我慢勝負になるので、我慢して、集中して、スキがあったら得点を狙うが、最悪1-0でもいい、ということ。1-0の状況が長く続いたが、変な雰囲気にもならなかった」
影山雅永監督が「リスク管理は我々のひとつの課題だった」と語るように、日本はグループリーグの第1、2戦、いずれもリードしたあとに守備が甘くなって失点を喫していた。だが、この試合では最後まで気を緩めず、インドネシアの攻撃を防ぎ続けた。
象徴的なのは、後半62分のシーンだ。
この試合、再三キレのいいドリブル突破を見せていたインドネシアの15番、サディル・ラムダニが右サイド(日本の左サイド)を突破。ゴール前には1トップの19番、ハニス・サガラ・プトラが走り込んでおり、クロスのコースも開いていた。
ついに同点か。そう思われた瞬間、ボランチの位置からカバーに戻ったMF伊藤洋輝(ジュビロ磐田)が、ギリギリのところでクロスをカットした。伊藤が語る。
「(アウェーの)雰囲気に飲まれないようにと、みんなで言っていたが、後半はインドネシアが圧力をかけてきて、ボールも支配された。でも、ボランチ、DFラインを含めて、みんなでじっくり守れた」
そして、濡れたピッチに何度も体を投げ出し、堅守を支え続けた背番号7は、誇らしげにこう続けた。
「今日が今大会のベストゲームだと思う」
今大会の日本は、圧倒的な強さでここまで勝ち上がってきた。グループリーグの3試合すべてで、前半なかばまでに先制点を奪うなど、点を取ることには苦労がなかった。FW久保建英(横浜F・マリノス)ばかりが大きな注目を集めるが、その他にも、すでにJ1で出場機会を手にしている選手が多いこの世代は、タレントぞろいとの前評判に違わぬ強さを見せつけていた。
だがその一方で、楽な勝ち上がりに不安もあった。なかなか点が取れない展開になったとき、焦りが生まれ、完全アウェーの雰囲気も手伝って、我を失ってしまうのではないか。
しかし、彼らは競り合っても慌てなかった。耐える時間はしっかりと耐え、来るべきチャンスを待ち続けた。
最後は逆に、焦るインドネシアのスキを突くように、久保とのパス交換で右サイドを突破したFW宮代大聖(川崎フロンターレU-18)が2点目を決め、勝負の決着をつけた。齊藤が笑顔で振り返る。
「最後のところで体を張るとか、シュートブロックをするということはできていたので、そんなに失点の心配はしていなかった。もう1点取れたら、試合は終わるなと思っていたし、結果的にそういうゲームになってよかった」
影山監督も「個人としても、チームとしても、まだまだ未熟」と言いつつ、選手たちが見せた大人びた対応を「頼もしかった」と高評価。「ある程度、内容よりも結果に針を振って、天候も天候だったので、シンプルに(相手の攻撃をクリアで)切って、もう一回守備をするとか、このゲームに必要なことをみんながやってくれたんじゃないかなと思う」と、彼らの戦いぶりを称えた。
言うまでもなく、結果は100点満点の試合でも、内容に目を向ければ、物足りなさは残る。決して見栄えのいい勝ち方ではなかった。
だが、裏を返せば、彼らは必ずしも自分たちの思いどおりに試合を進められたわけではなかったが、それでも勝利を手にした。タレント集団ゆえの軽さや脆さは見られなかった。
タレントぞろいと期待高まるチームが、これほど泥臭く、勝負に徹して戦い抜いたことに、圧勝以上の価値があるのではないかと思う。