「レアル・マドリードは、今もトップレベルのチーム。ただ、クリスティアーノ(・ロナウド)を失った。それは50~60得点を失ったことに等しい」 バルセロナの指揮官として、何度もクラシコ(バルセロナとレアル・マドリードが対戦する伝統の一戦)を…
「レアル・マドリードは、今もトップレベルのチーム。ただ、クリスティアーノ(・ロナウド)を失った。それは50~60得点を失ったことに等しい」
バルセロナの指揮官として、何度もクラシコ(バルセロナとレアル・マドリードが対戦する伝統の一戦)を戦ったジョゼップ・グアルディオラは、仇敵の現状をそう語っている。シーズン50得点以上を記録してきたロナウドがユベントスに移籍。その損失はとてつもなく大きかった。
10月28日、カンプ・ノウで行なわれたクラシコは、まさに象徴的な一戦になった。
失点を重ね、呆然と立ちつくすルカ・モドリッチ(左)らレアル・マドリードの選手たち
「マドリードは手負いのほうが危険だ」
試合前、バルサのエルネスト・バルベルデ監督はそう警戒していた。
今シーズン、レアル・マドリードは国内リーグ戦で深刻な低迷を見せている。クラシコを前にメディアやファンから痛烈な批判を浴び、フレン・ロペテギ監督には”負ければクビ”が用意されていた。決戦を前にした記者会見でも、ロペテギ監督は針のむしろに座らされた。
「えー、決まり文句はなしにお答え下さい。決戦を前に……」
記者が挑発気味に訊ねる。
「おい、決まり文句って言ったのか? それはおまえの強要か?」
ロペテギが不機嫌そうに質問を遮った。
「いえ。それなら、自由にお答え下さい」「よろしい」
険悪さは十分に伝わってきた。指揮官は孤立を深めており、負ければ確実にクビだった。
背水の陣のはずだったにもかかわらず、選手たちは「笛吹けど踊らず」。前半の立ち上がりからバルサの攻撃を浴び続けた。前線は迫力に欠け、中盤は後手に回り、バックラインも不安定。ほとんどすべてがちぐはぐだった。
バルサはセルヒオ・ブスケッツ、イバン・ラキティッチ、アルトゥールの3人のボール回しでリズムをつかむ。そして11分、中央のラキティッチが左サイドを駆け上がるジョルディ・アルバに長いパス。アルバはゴールライン近くまで持ち上がり、深みを作ってからマイナス方向に戻し、フリーで入ってきたコウチーニョがゴールに突き刺した。ボールも人も動く、バルサらしい模範的得点だった。
レアル・マドリードはその後もボールを握られ、”厳しいレッスン”を受けた。プレスを外され、横に振られ、そうかと思えば縦を破られる。セルヒオ・ラモス、ラファエル・ヴァランは、一流のディフェンダーとは思えない混乱ぶりだった。30分、ヴァランのエリア内でのルイス・スアレスへのファウルはその表われだろう。PKによる失点で、2-0とリードを許した。
これで試合の趨勢は決したかに思われたが、追い込まれたロペテギは後半、起死回生の手を打った。MFカゼミーロをバックラインに下げて3バックにし、不調のヴァランに代えてルーカス・バスケスを投入して、ワイドに配置。4-3-3から3-4-3にシステムを変更し、両サイドに幅を取って、バルサを高い位置で押し込む。
50分、バスケス→イスコで右サイドを崩すと、折り返しを逆サイドから絞って入ったマルセロが決め、1点を返した。
戦術家として名高いロペテギの面目躍如だった。バスケス、マルセロが両翼になって、バルサを苦しめる。その采配は、前任のジネディーヌ・ジダンをも上回っていた。ルカ・モドリッチのポストを叩いたシュートが決まっていれば、バスケスのクロスをカリム・ベンゼマが仕留めていれば……結果は変わったかもしれない。
「前半も、そこまで決定機は作られていない。後半は、試合をひっくり返せるだけのチャンスは作っていた」(ロペテギ監督)
しかし、策を打つことはできたが、ゴールを確実に決めるストライカーはいなかった。ベンゼマは前線のプレーメーカーとしては役割を果たすが、決定力に欠け、ガレス・ベイルは沈黙。イスコはスキルの高さこそ見せたものの、いたずらにボールをこね回し、効率的ではなかった。チームに数々の栄光をもたらしてきたゴールゲッター、ロナウドはもういないのだ。
60分を過ぎると、レアル・マドリードは押し返される。ゴールを決めきれずに受け身に回ると、5-4-1のような形になって、お尻が重く、反撃に転じることができない。そこで無理して前に出ると、ことごとく裏を取られた。
そして75分からは、バルサのゴールショーになった。セルジ・ロベルトのパスをスアレスが力強く首を振って、ネットに叩き込む。これで3-1。その後、またもセルジ・ロベルトのパスをスアレスが引き出し、GKティボー・クルトワとの1対1を技巧的なキックで制し、ハットトリック。終了間際には、交代出場したウスマン・デンベレのクロスを、同じく途中出場のアルトゥーロ・ビダルが豪快に押し込んだ。
リオネル・メッシがケガで不在だったバルサには、スアレスという世界的ストライカーがいたということだろう。
「このような形でクラシコを勝利することは、(今後に向け)大きなメリットになる」(バルベルデ監督)
一方、もうロペテギにレアル・マドリードでの未来はないだろう。宿敵に5-1の大敗は重く、最後通牒を覆すことができなかった。「ロシアW杯直前にスペイン代表を捨てた不誠実のツケ」と言われ、「王者レアル・マドリードを率いるだけの度量がなかっただけ」とも言われる。
後任にはユベントス、イタリア代表、チェルシーなどを率いたアントニオ・コンテが噂されている。しかし、それで劇的に状況は改善するのだろうか。
「息子は50得点を奪われたのだ!」とは、ロペテギの父親の悲痛な叫びである。