イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)は、女子シングルス4強が出揃った。 2人合わせて「28」のグランドスラム・シングルスタイトルを誇る、セレナとビーナスのウイリアムズ姉妹(アメリカ)、全豪オープ…

 イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)は、女子シングルス4強が出揃った。

 2人合わせて「28」のグランドスラム・シングルスタイトルを誇る、セレナとビーナスのウイリアムズ姉妹(アメリカ)、全豪オープン優勝のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)の中にまじった唯一のノーシード----一番のサプライズは世界ランキング50位のエレナ・ベスニナ(ロシア)だ。昨年末にはランキングを111位まで落としていたが、29歳という年齢を考えれば、そのキャリアはもう下り坂にさしかかったと考えられて当然だった。

 2006年の全豪オープンから昨年の全米オープンまでグランドスラム連続40大会に出場していたベスニナだが、昨年は予選を含めても1大会で3試合以上勝った大会が一つもなく、ランキングは急落。今年の全豪オープンは予選の1回戦で敗れた。それが突然のブレークだ。ベスニナは記者会見で「自信」という言葉を繰り返した。

 その自信を一定のレベルに保つため、あるいは膨らませるために重要だったものとして、ベスニナは〈ダブルス〉を挙げる。ダブルス巧者のベスニナはグランドスラムの全大会(全豪、全仏、ウィンブルドン、全米)で決勝進出の経験があり、そのうち全仏と全米では頂点に立っている。シングルスが不振だった昨年も、優勝こそ1回だったもののウィンブルドンやマイアミ、インディアンウェルズなどのビッグイベントで準優勝。効果は大きかったという。

 「一年を通していつも準決勝や決勝にいけるわけじゃない。みんな、いいときもあれば悪いときもある。でもたとえ1回戦や2回戦で負けたとしてもダブルスに出ていれば、多く試合をこなせる。大会に残って練習もできるし、勝ち進めば自信にもなるわ。ポジティブになれるし、自分のショットに確信が持てる。若い選手たちはみんな早い時期からもっとダブルスに出るべきだと思う。コート全体を使ったプレーができるようになるし、技術の向上にとても役立つわ」。

 シングルスは予選で敗れた全豪オープンですら、ミックスダブルスで優勝したことで前向きな気持ちを保てたという。そしてその翌月、ドーハのプレミア大会で予選からベスト4に進出。世界ランキング4位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)、同22位のカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)などを破っている。さらにマイアミ、チャールストン、マドリッドと、出る大会出る大会ほとんど予選から本戦の上位に進出、チャールストンでは決勝進出の快挙を遂げた。ベリンダ・ベンチッチ(スイス)やサラ・エラーニ(イタリア)といったトップ10、トップ20の選手にも勝っている。

 今の女子ツアーは下剋上が日常茶飯事。2回戦で世界17位のカロリーナ・プリスコバ(チェコ)に勝ち、4回戦でケルバーに敗れた土居美咲(ミキハウス)は言っていた。 「男子でビッグ4やビッグ5と呼ばれているような絶対的な人たちは女子にいない。私にとってもすごくチャンスがあると思う」。

 全仏オープンでは8強の顔ぶれのうちノーシードが半分、その中でも60位以下が2人いた。そしてそのチャンピオン、ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)がウィンブルドンの2回戦で敗れる現状。そればかりではない。全仏とウィンブルドンの8強を見比べれば、重なっているのはセレナただ一人で、他は全員が3回戦までに敗れている。こうした混沌の中から今回のベスニナが生まれた。そしてベスニナが信じ、叶えた夢は次の誰かの勇気になるだろう。

 センターコートで尊敬するセレナに挑む準決勝を前に、少女のように目を輝かせた。 「これ以上、特別なことがあるかしら。私にとっては大きな挑戦だけど、勝ちにいく」。 聖地で見る夢はまだ終わっていない。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)