全日本大学対抗王座決定試合(王座)決勝という大舞台で、ワセダの『えりなおペア』が躍動した。リーグでも対戦した亜大との天王山。ダブルス1で今季団体戦無敗を誇っていた絶対的エースペアがまさかのストレートで敗戦し、チームに嫌な雰囲気が漂う中で、…

 全日本大学対抗王座決定試合(王座)決勝という大舞台で、ワセダの『えりなおペア』が躍動した。リーグでも対戦した亜大との天王山。ダブルス1で今季団体戦無敗を誇っていた絶対的エースペアがまさかのストレートで敗戦し、チームに嫌な雰囲気が漂う中で、早大に再び流れを呼び戻したのがダブルス2で出場した清水映里(スポ2=埼玉・山村学園)・下地奈緒(社2=沖縄尚学)組だった。関東大学リーグ(リーグ)では第3戦まで1勝2敗と不安定だった2年生ペア。そんな二人が試合を重ねるにつれて『勝ち方』を覚え、日本一を引き寄せる大きな1勝を挙げるまでに飛躍を遂げた。その成長の過程を追う。


 リーグの慶大戦で勝利し、喜ぶ清水(右)と下地

 清水と下地がペアを組み始めたのは1年の冬。それまでは二人とも上級生とペアを組んでおり、同期と組むのは昨年の全日本学生室内選手権(インカレインドア)が初めてだった。予選から勝ち上がり、準々決勝では筑波大の森崎可南子(4年)・牛島里咲(4年)組を破って4強入り。準決勝では惜しくも先輩ペアに敗れ決勝進出とはならなかったものの、初めての全国の舞台でベスト4という結果は1年生ペアにとっては大きな自信となったことだろう。新たな年を迎え、2年生になって迎えた最初の大会・関東学生トーナメント。大きな期待を受けて臨んだ清水・下地組だったが、ここではベスト16と振るわない結果に。しかし、「インカレインドアはある意味勢い『だけ』で勝ってしまった。今回負けてこのままじゃダメなんだと気づいた」(清水)と振り返るように、あくまで二人はこれをポジティブにとらえた。二人で話し合いを重ね、自分たちのダブルスのかたちを再度見直すことに。夏のダブルス強化練習をこなし、実績のある先輩たちからの助言も受けて課題を修正。全日本学生選手権(インカレ)に向けてペアの成熟度を高めていった。迎えたインカレではフルセットの試合を勝ち切るなど成長を見せ、ベスト8進出。決して満足のいく成績ではなかったが、それ以上の収穫を得て2年目の夏を終えた。

 レギュラーとして迎えたリーグ戦。清水・下地組にとってターニングポイントとなったのが第4戦・慶大戦だ。全試合に重要なダブルス2として出場し、第1戦こそ順当に勝利したものの、第2、3戦では連敗。どちらもファーストセットを大差で取り切っているにもかかわらずその後相手にペースを奪われる逆転負けだった。「うまくいかない、どうしよう、という不安はあったと思う」(大矢)と不安を抱えた中で迎えた早慶戦。ここでもファーストセットは奪い、セカンドセットで追いつかれるそれまでの2戦と同じ展開となったが、ここで二人は変わった。変わったのは気持ちの面だ。「これまでとは違う。清水を信じて、応援と一体となってプレーできれば必ず勝てる」(下地)。これまでは相手ではなく大事な場面での自分へのプレッシャーに負けてしまっていた。プレッシャーのかかる場面でいかに思い切ったプレーが選択できるか。そのためには自分に勝つしかない。緊張感のある中で吹っ切れたことが、清水・下地組を一段階成長させたのだ。ファイナルセットも先にブレークを許したものの、2-3から意地の4ゲーム連取で逆転。チームにとっても二人にとっても大きな1勝を挙げ、ここから二人だけでなくチーム全体が勢いづいた。最終戦でもフルセットの接戦の末、逆転勝利を果たし、チームも6-1で筑波大を一蹴。勢いに乗ってリーグを通過した。


 清水(左)が後ろでつなぎ、下地が前衛で動き回る

 清水・下地組のダブルスの特徴として、二人の役割がはっきり分けられていることが挙げられる。清水は持ち前のストローク力を生かし、後ろでしっかりとラリーを続ける。下地は得意のボレーを生かして前でボールを拾う、ポイントを決めることが自身の仕事だ。「清水が後ろでつないで私が前で決めるのが私たちのポイントパターン」(下地)。清水が強烈なスピンをかけた深いボールで相手後衛のポジションを下げ、浅くなったショットを下地が見逃さずボレーで仕留める。夏以降はこのかたちがハマっており、清水・下地組は得意のパターンでポイントを量産している。加えて上唯希副将(スポ4=兵庫・園田学園)が、「下地はリーグを通して団体戦における大事なポイントでの感覚をつかめてきた」と評したように、特に今年は下地が格段に成長した。それはセカンドサーブ、ポーチボレーといった技術面だけでなく、むしろ重要な場面でビッグプレーを決めるメンタル面が大きい。前衛としてどのように動くか、どのタイミングで前に出るか、どんな陣形でリターンゲームに臨むか。経験を積んで『勝負勘』を身に付けていった。そして『えりなおペア』には乗せたら止められない勢いがある。これまではミスが続くと気持ちも落ちていくことが多かったが、ベンチコーチの森川菜花(社3=山口・野田学園)の支えもあってピンチの場面でも強気なプレーを続けられるように。声を出し、チームの応援とも一体となることで、団体戦ではより強さを発揮する。『勝負勘』と『気持ち』。この二つを兼ね備え、清水・下地組は一躍早大ダブルスの主力へと成長したのだ。


王座決勝でポイントを取り、ガッツポーズを見せる清水(右)と下地

 迎えた王座でも、二人は成長した。準決勝では関大の実力あるペア相手に6-2、6-1と圧勝。チームの勝利を大きく引き寄せた。決勝の亜大戦は松田美咲(2年)・南文乃(2年)組との2年生ペア対決に。ファーストセットを3-6で落としたが、それでも冷静だった。それはリーグ戦での経験があったからだ。セカンドセット以降、隣のコートの劣勢に気を取られることもなく、ガッツあふれるプレーで応援を盛り上げる。時にツーバックを採用するなど泥臭くポイントを重ね、主導権を取り戻した。ファイナルセットではチームの応援、会場に集まった観客の視線を一身に受ける中で、清水、下地が今季ベストともいえるパフォーマンスを披露。コンビネーション抜群のダブルスで相手を翻弄(ほんろう)し、文字通り『躍動』した。「組むたびによくなっていった」(下地)、「今後の自信にしていけると思う」(清水)。大舞台でさらに一つ殻を破ったダブルス2が、チームの窮地を救う大きな1勝を挙げた。

 長きに渡って早大ダブルスを支えてきた大矢、上がチームを去り、今後はさらに二人にかかるプレッシャーも重くなるだろう。それでも、二人なら難なくはねのけてくれる気がする。この一年で幾度となくカベにぶつかり、それを二人で乗り越えてきたのだから。上級生となる来年、同じ愛媛の地でどれだけ強くなった姿を見せてくれるのか。早大自慢の『えりなおペア』のさらなる成長から、目が離せない。

(記事 松澤勇人、写真 松澤勇人、森迫雄介)