オースティンの予選Q1で、ピエール・ガスリーは3強チームに次ぐ7番手のタイムを叩き出してみせた。 3度のアタックを行なった結果とはいえ、同じタイミングでのアタックで、中団グループのトップに立ったのは事実だ。そして、グリッド降格ペナルテ…
オースティンの予選Q1で、ピエール・ガスリーは3強チームに次ぐ7番手のタイムを叩き出してみせた。
3度のアタックを行なった結果とはいえ、同じタイミングでのアタックで、中団グループのトップに立ったのは事実だ。そして、グリッド降格ペナルティで最後列スタートが決まっていたため、予選の1周アタックパフォーマンスは気にせず、決勝でのタイヤマネージメントを最優先に考えてのセットアップであったにもかかわらずのパフォーマンスだった。
最後尾からスタートとなったアメリカGPのトロロッソ・ホンダ
「Q1しか走れないのは最初からわかっていたから、Q1をすごく楽しんだよ。ここはとてもクールなサーキットだし、走れる周回はすべて楽しむようにした。クルマには昨日からいいフィーリングを感じていたし、ウェットでもドライでもマシンのフィーリングはよくて、予選自体もうまくいった。
Q1のパフォーマンスはすごく良かったと思うよ。Q3のカットオフラインは僕のQ1のタイムの0.3~0.4秒増しくらいだった。路面のインプルーブ幅を考えれば、Q3進出を争う力はあったんじゃないかな」
トロロッソ・ホンダはオースティンに、待望の空力アップデートを持ち込んできた。
とはいっても、それはフロントウイングの翼端板とポッドフィンだけで、「とても小さなアップデートでしかない」(ガスリー)もの。現状では1セットしか用意できておらず、ガスリー車に装着して感触を確かめてはみたものの、金曜がウェットコンディションで本格的なデータ収集ができなかったこともあり、予選・決勝では従来型のパッケージに戻して走行した。
「フリー走行3回目の後に取り外したんだ。フリー走行3回目でしかドライで走ることができなかったから、このパッケージの性能をフルに引き出すための準備が十分にできたとは言えなかったからね。
きちんと理解してゲインを得るためには、もっと走る必要がある。だから予選・決勝ではブレンドン(・ハートレイ)と同じパッケージにして、メキシコGPがドライならもっとデータ収集を進める予定だよ」
鈴鹿での失敗をもとに、さらに煮詰めたセットアップによってSTR13の空力性能を最大限に引き出したこともあるが、やはりこのシーズン終盤にきてのトロロッソ・ホンダのパフォーマンス向上には、ホンダのスペック3パワーユニット投入が大きく貢献していると言うべきだろう。
「鈴鹿でもすでにスペック3のパフォーマンスは発揮されていたけど、これだけのパフォーマンスを発揮できたのはとてもポジティブなことだと思うよ。ホンダはすごく開発をプッシュし続けているし、新スペックもうまく機能してくれている」
ただし、手放しで喜んでばかりもいられない。
第17戦・日本GPで使用したスペック3を検査した結果、とくにセットアップが不十分なまま走らなければならなかったガスリー車のICE(エンジン本体)に大きなダメージが見つかった。残り4戦を走り切れる状態ではなく、ハートレイ車のICEも対策が必要な状態であることが判明した。
そのため、第18戦・アメリカGPには耐久性を向上させたICEを用意しなければならず、2台揃って最後列グリッドからスタートすることになったのだ。
ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。
「ICEに若干の変更を入れました。基本スペックは同じで、信頼性を向上させるために手を加えました。日本GPのレースで使ったのと、ベンチテストをしているなかで若干の懸念があった部分に手を入れた形です。レースでオシレーション(回転数のブレ)を避けるための使い方をした影響も含めて、それに起因するものです。ガスリーのほうは今後、レースで使いたくないくらいのダメージがありました」
こうしてアメリカGPには「スペック3改」とも言える対策品が持ち込まれ、実際の走行では「スペック2以前のようにスムーズになった」(ガスリー)とドライバーたちも好評価を与えた。
パワーが向上しているのは、たしかだ。しかしその反面、スペック3は保たない。
アメリカGPに持ち込んだスペック3改にしても、鈴鹿で使用したICEがもう使えないガスリーは金曜から投入したが、ハートレイは1日引っ張って土曜日からの投入とした。
「残り4戦で最大限にパフォーマンスを発揮するためのやりくりです」
田辺テクニカルディレクターはそう説明するが、裏返せばそれは、「スペック3改でもフルに4戦を保たせるのは苦しい」ということになる。
当初はもちろん、第16戦・ロシアGPから最終戦まで、6戦をフルに戦えるつもりで設計されたものだ。しかし、ホンダ関係者によれば、「実際に走ってみるとスペック3のダメージは想定以上で、マイレージはかなり厳しい」という。
アメリカGP以降の4戦でさえ、「(ストックされている)旧スペックも含めて、どういう形でやりくりしていくのがいいか、ということをチームと相談して決めた」(田辺テクニカルディレクター)といい、スペック3改だけで走り切ることは難しそうだ。
つまり、現状のルノーを上回るパワーというのは、信頼性を犠牲にしたうえに成り立っているものであって、イコールコンディションで比較した本来の力ではない。
年間3基で賄(まかな)うことを前提に、7戦保つメルセデスAMGやフェラーリのパワーユニットと比べて、4戦も保たないようなホンダのパワーが及んでいないというのは、実は深刻なことだ。彼らが4戦しか保たなくてもよいパワーユニットを作れば、おそらくもっとアグレッシブな使い方でパワーを絞り出してくるだろう。
「ルノーに比べていい進歩が果たせたとはいえ、まだメルセデスAMGやフェラーリに比べて遅れを取っていることは確かなんだから、この現状に興奮するというわけにもいかないよ」
ガスリーはスペック3のパフォーマンスについてそう語っていたが、メルセデスAMGやフェラーリとの差はまだまだ見た目以上に大きいということになる。
決勝ではキミ・ライコネンがライバルの自滅もあって5年半ぶりに優勝を飾った
もちろん、シーズン終盤のこの時点で投入されたスペック3は来季型のパイロット版であり、トロロッソ・ホンダにとってのシーズン終盤戦は実走テスト的な位置づけでもある。
「もし壊れたなら、その壊れっぷりが学習の素になるんです」
スペック3について、ホンダのある開発者はそう語る。
現状のスペック3改は数戦しか保たないが、ここで学んだことを生かして来季型ではさらなるパワーアップ、ならびに寿命と信頼性の確保を徹底する。それが今、ホンダのやろうとしていることだ。
最後尾グリッドから臨んだアメリカGP決勝では、予選で見せたトップ10をうかがう速さを混走状態のなかでフルに発揮することができず、ハートレイが11位、ガスリーが14位フィニッシュに終わった。上位勢の失格による繰り上がりで9位2ポイントは手にしたが、決して満足のいく内容ではなかった。
パワーユニット単体での性能についても、田辺テクニカルディレクターはこう語った。
「まだまだ追いかける立場だと思っています。まぁ、まだ負けているということです」
スペック3は次に向けた光明ではあるが、年間3基という規定の前では、それはまだ幻想でしかない。幻想を現実のものにするためにも、残された3戦をしっかりと戦い、研鑽を積み、来季へとつなげなければならないのだ。