守田英正インタビュー@前編 昨シーズンのJ1王者であり、今シーズンも優勝争いに名を連ねる川崎フロンターレの攻撃は、日々の練習の賜物であると同時に、即興で生み出されることも多い。ピッチにいる11人が瞬時に同じ絵を描けるからこそ、魅力的とも…
守田英正インタビュー@前編
昨シーズンのJ1王者であり、今シーズンも優勝争いに名を連ねる川崎フロンターレの攻撃は、日々の練習の賜物であると同時に、即興で生み出されることも多い。ピッチにいる11人が瞬時に同じ絵を描けるからこそ、魅力的ともいえる、あのパスワークは可能になる。だから、そのなかにパッと飛び込み、呼吸を合わせるのは難しいとも言い換えられる。
だが、今シーズン流通経済大学からフロンターレに加入したルーキーの守田英正は、それをやってのけた。J1王者のフロンターレでボランチとして台頭し、日本代表にまで登り詰めた守田の軌跡に迫る。
森保ジャパンの初陣で代表デビューを飾った守田英正
―― ルーキーながらフロンターレで出場機会を増やすと、9月11日のコスタリカ戦で日本代表デビュー。猛スピードで階段を駆け上がっているように思います。まだシーズン途中ですが、プロ1年目のここまでを振り返ると、どんな日々でしたか?
守田英正(以下:守田) フロンターレは(中村)憲剛さん、(小林)悠さんをはじめ、長い間ここでプレーしている選手たちが中心となって、他のクラブとは異なるサッカーのスタイルを築いているので、やっぱり最初は、戸惑う部分もありました。そのサッカーに対しても、クラブとしての在り方にしても、徐々に学んできて、(ワールドカップによる)中断明けくらいからですかね。やっと、自分のなかにプロサッカー選手という自覚ができてきたように思います。
半年もかかるのは遅いって思われるかもしれないですけど、それまでは新人としてやれているだけで、ひとりの選手として見たとき、まだまだ活躍できていないところがあった。そうした新人の垢(あか)みたいなものが、中断明けからようやく取れてきたのかなって思います。
―― フロンターレは独自のスタイルを築いていると話してくれましたが、自分自身ではどう理解、解釈していますか?
守田 僕は、フロンターレこそ日本のバルサ(バルセロナ)だと思っているんです。「俺たちはこういうサッカーを貫いて勝つ」という明確な哲学というか、サッカーに対するしっかりとした考え方がある。それは他にないというか、僕たちだけのものだとも感じているんですよね。
―― そうしたスタイルが確立されているチームに飛び込む難しさもあったのでは?
守田 まさにそのとおりで、最初は大変でした(苦笑)。キャンプのときはもう、自分のよさが消えてしまっているような気がして、本当に自分が何をしていいかわからない状態でした。ピッチにいても、どこかひとりだけさまよっているような感じがして……。
―― さまよう……わかりやすい表現ですね。
守田 ポジションによって、それぞれ役割というものがあるとは思うんですよね。僕だったら、まずは守備であったり、運動量。でも、フロンターレではそれとは別に、基本的な(ボールを)止めて蹴る動作、さらには相手や味方の状況を把握しておくこと。それをどのポジションでもできなければならない。僕は守備が得意だから、守備だけをやっていればいいというわけじゃない。
だから、自分ができることにプラスして、他にもできることがないかを探さなければいけない。だけど、そこにチャレンジしようとしすぎて、逆にそれがアダとなって、チームに迷惑をかけてしまうことも多々あったんです。何がよくて、何が悪いのか。その判断が(中断明けから)少しずつできるようになってきているんじゃないかなと。
―― その葛藤というか悩みは、試合に出られるようになってからも?
守田 ありました。最初は本当についていくのが精一杯で、自分の特徴がまったく出せなくなってしまって。ずっと試合には帯同させてもらっていましたし、途中出場する機会もありましたけど、初めて先発した(J1第8節の)ベガルタ仙台戦だったり、(J1第10節の)サガン鳥栖戦では、どんどん自分が消えていくような感覚でした。やっていても、何をしていても、チームの足を引っ張っている感覚しかないというか……何をすればいいかがよくわからない感覚というか……。
―― その原因というか、理由を見つけることはできたのですか?
守田 名古屋グランパスに移籍してしまいましたけど、エドゥアルド・ネットが僕にとって、お手本とも言える選手だったんですよね。だからシーズン当初は、ずっとネットのプレーを間近で見たり、憲剛さんや(大島)僚太くんと一緒にプレーしている姿を見て、憧れまではいかないですけど、目指しているところがあったんです。
でも、そのネットの真似をしようとしすぎて、逆に自分のよさが消えていってしまったところもあった。それで悩んでいたとき、(武岡)優斗さんから、「このサッカーに合わせようとしすぎて自分を見失ってしまう人も多いけど、自分は自分なんだからな」って言われて。憲剛さんからも、「自分を別に殺す必要はない。自分のいいところもあるんだから、そこを活かせばいいんだよ」って言ってもらえて、自分を見つめ直せたところはありましたね。
―― 迷いみたいなものから抜け出すきっかけとなった試合はありますか?
守田 シーズン前半で言えば、(J1第9節の)4-1で勝った鹿島アントラーズ戦は、ちょっと自信がつきました。でも、次の鳥栖戦ではうまくいかず、自分が孤立してしまうような感覚だったんですよね。仙台戦も鳥栖戦も、相手のシステムやサッカーに対応できず、自分に対して相手がプレッシャーをかけてきたところをかいくぐろうとしたんですけど、それができずに終わってしまったところがあった。
そうした波みたいなものがなくなってきたと感じられたのは、(J1第14節の)柏レイソル戦ですかね。僕が奪ったボールがきっかけになって、悠さんがゴールを決めたんですけど、そこから自信がつきはじめました。最近で言えば、(J1第20節の)横浜F・マリノス戦や(J1第23節の)サンフレッチェ広島戦。ちょっとずつ自分がやりたいこともできるようになってきて、ここぞというタイミングではチームに合わせられるようにもなってきました。
―― 主に大島選手とボランチでコンビを組んでいますが、ふたりの間ではどういったコミュニケーションを取っているのでしょうか?
守田 僚太くんですか? 僚太くんとは……あんまり(笑)。周りの人ほど会話はしていないんですけど、試合中に相手がシステムを変えてきたり、ハーフタイムで人が変わったりしたときには、「こうしよう」「ああしよう」という話はしています。たまに僕からも提案しますけど、基本的には僚太くんから声をかけてくれますね。
―― そうなんですね(笑)。実は守田選手のインタビューをする前に、中村選手から大島選手と守田選手について話を聞かせてもらったのですが、そのときに「僚太とネットが話しているのを見たことがない」と言っていたんですよね。守田選手と大島選手の間にも、それほど会話はないんですね(笑)。
守田 あっ、たわいもない会話のことも話したほうがよかったですか(笑)? 毎試合のように話すことと言えば、後半になると「きつい?」って必ず聞かれます。それで僕が「きついです」っていうと、「じゃあ、ここのエリアに立っていてくれればいいよ」って言ってくれたり、「きつくないです」と答えれば、「じゃあ、攻撃に参加して」って言われたり。そうやって、いつもカバーしてくれるんです。
―― その大島選手のとなりでプレーしているからわかる、大島選手のすごさとは?
守田 一緒にやらないとわからない部分もあるとは思いますけど、僕は日本一うまい選手だと思っています。このクラブに携わっている人ならば、10人に聞けば10人が一番うまい選手に挙げるんじゃないですかね。そのうまさを言語化できないところがまた、僚太くんのすごいところなんですけど、試合中、僚太くんのプレーを見て思わず、「うまっ!」って口に出して言ってしまうことすらありますからね(笑)。
―― ふたりの前に位置し、中盤のトライアングルを形成している中村憲剛選手は、どのような存在ですか?
守田 プレーに関して言えば、あのスルーパスは誰も太刀打ちできないですよね。そこには悠さんとの関係性もあると思いますけど、本当にすごいですよね。
でも、それ以上に一緒にプレーするようになって驚いたのが、憲剛さんは「プレーのキャンセルができる」ということ。自分がボールを受ける前には、チラッと周囲の状況を確認しているんですけど、数秒経てば、その状況は変わっているもの。でも、憲剛さんはそれすら瞬時に把握して、誰がどこにいるかをわかったうえで、直前に考えていたプレーをキャンセルすると、違う選択肢でボールを通してしまえる力がある。
覚えているプレーで言えば、(J1第17節の)V・ファーレン長崎戦。悠さんに背中を向けながら出したパスはヤバかったです。得点にこそならなかったですけど、あのプレーは憲剛さん以外にはできないと思う。僕もそうしたパスを出したいなと思って実行しようとすると、途中でやめることができないというか。パスを出した後に相手に引っ掛けられて初めて、「やってしまった」ってなるんですよね。
―― その中村選手からは、どんなアドバイスを受けているのですか。事前に、中村選手から話を聞いているだけに、『アンサー』みたいになって申し訳ないですが(笑)。
守田 これは当たっていないとまずいですね(笑)。でも、憲剛さんには自分から話を聞きにいくことも多いんですよね。その時々で言ってくれることは違うのですが、よく言われるのは、「自分からプレースピードを上げすぎたり、相手陣内に入りすぎたりしない」ということ。「一歩、二歩下がるだけでも、安心してボールを持てる。その一歩を疎(おろそ)かにすれば、相手のプレッシャーを受けてしまう」とも教えてくれました。
―― 武岡選手のアドバイスではないですけど、フロンターレのスタイルは、選手によって合う、合わないがあるようにすら思います。こうした表現は適切ではないかもしれないですが、そのなかで守田選手は、1年目にしてうまくチームにハマっているように見えます。
守田 正直、うまくハマっているという感覚は、自分のなかにはないんですよね。もちろん、チームとしてのリズムは崩したくないですし、チームに迷惑はかけたくないですけど、あまりハマりたくないという思いもある。
―― 逆にハマりたくない?
守田 それでいいんじゃないかな、とも思うんですよね。もちろん状況によりますけど、憲剛さんのように攻撃に特化している選手もいれば、僚太くんのように攻撃も守備も両方できる選手もいる。ふたりはチームに合わせているようで、それだけかといったら、決してそうじゃない。ふたりとも個性的じゃないですか。だから、僕もチームに合わせるだけではダメなんじゃないかなって。自分の特徴を出さなければいけない、とも思うんですよね。
(後編に続く)