最後はメンタル面にも疲れが出てきてしまった大坂なおみ 1972年から始まった女子プロテニスワールドツアー最終戦では、長年続く歴史の中で、大会最多8回優勝のマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)をはじめ、5回優勝のセリーナ・ウィリアムズ(アメ…



最後はメンタル面にも疲れが出てきてしまった大坂なおみ

 1972年から始まった女子プロテニスワールドツアー最終戦では、長年続く歴史の中で、大会最多8回優勝のマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)をはじめ、5回優勝のセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)やシュテフィ・グラフ(ドイツ)、4回優勝のクリス・エバート(アメリカ)といった錚々(そうそう)たるメンバーが、現代テニスの歴史の縮図と言えるようなこの大会に、チャンピオンとしてその名を刻んできた。

 日本女子では、伊達公子(1994、95、96年)と杉山愛(2003年)が、シングルスで出場したが、それ以来、15年ぶりとなる日本勢の出場を大坂なおみが果たした。

 シンガポールで開催されるWTAファイナルズは、シーズン年間成績上位8人だけがプレーを許されるエリート大会で、いわば年間王者決定戦だ。通常のトーナメント方式と異なり、ラウンドロビン(総当たり戦、以下RR)方式で行なわれる。8人を4人ずつの2グループに分け、RRでは1人3試合戦う。各グループの成績上位2人が準決勝に進み、Aグループ1位対Bグループ2位、Bグループ1位対Aグループ2位の組み合わせで試合をして、それぞれの勝者が決勝進出となる。

 獲得できるランキングポイントも大きく、RRで1試合勝つごとに250点を得ることができ、もし全勝優勝なら最大1500点を獲得できる。

 そして、伊達と杉山と決定的に異なるのは、大坂が、日本人女子初のグランドスラムチャンピオンとして、WTAファイナルズに臨むという点だ。

 大坂のファイナルズ初出場は、USオープンでの初優勝を含むツアー2勝、自己最高のWTAランキング4位、マッチ40勝17敗、シーズンをとおしてトップレベルで大きな成績を残してきた勲章であり、名実共に超一流のトッププレーヤーの仲間入りを果たした証しでもある。さらに、21歳の大坂は、2018年大会の最年少出場者であり、女子テニス界に新風を巻き起こして、完璧主義者の彼女らしく高みを見据えている。

「(ファイナルズ出場の)このポジションに立つことができて、もちろんとてもうれしいです。でも、満足するのは早いというか、私はここで立ち止まりたくないです。この大会でプレーするからには、優勝することが自分の中のゴールです」

 シンガポールへ入る前に大坂は、WTA香港大会を腰痛で欠場し、東京に戻って休養をとってから、ナショナルトレーニングセンターで練習していた。けがからの復帰であるため、テニスの練習だけでなく、合わせてコンディショニングトレーニングも行ない、フィジカル面を万全にしようとした。練習再開2~3日後には、いつもの調子を取り戻したという。

 ファイナルズは、インドアハードコートで行なわれるが、サーブやストロークのパワーショットを武器にしている大坂にとっては、アドバンテージにできる要素があり、今季からツアーに帯同しているアレクサンドラ・バインコーチも期待を寄せる。

「どの大会に出場する時でも、彼女はタイトルを取ることができると考えています。とりわけインドアのハードコートなら、なおさらです。速めのハードコートなら、強打できるなおみにチャンスがあります」

 第3シードになった大坂は、RRでレッドグループに入り、アンゲリク・ケルバー(2位、ドイツ)、スローン・スティーブンス(6位、アメリカ)、キキ・バーテンズ(9位、オランダ)と同じ組になった。

 RR初戦を「ナーバスではなく、勝ちたい気持ち」で臨んだ大坂は、第5シードのスティーブンスと対戦し、5-7、6-4、1-6で敗れ、WTAファイナルズのデビュー戦を勝利で飾ることはできなかった。

 2人の対戦成績は大坂の0勝1敗だが、2017年USオープンチャンピオンのスティーブンスは、ディフェンスがよく、ミスの少ない選手で大坂との試合でも、スティーブンスがロングラリーになるとほとんど主導権を握り、大坂をコートの左右に振って、走らされた大坂は多くのミスを強いられた。また、大坂はベースライン後方に下げられて、本来の攻撃的なテニスをさせてもらえなかった。

「(大坂に)多くのボールを打たせようとした。彼女がいいショットを打っても、できるだけ多くのボールを何とかラケットで捕らえて、彼女に一球でも多くプレーをさせた」(スティーブンス)

 大坂は、ファーストサーブの確率が全セットで50%台にとどまり、コート上で「全然入らないよ」と嘆く場面もあった。

「ファーストサーブに関してフラストレーションはなかったですが、(サーブの出来に)少しがっかりしていた」と大坂が振り返ったように、なかなかプレーのクオリティーを上げられなかった。そのためミスも減らすことができず、何回もラケットをコート上に投げたり、苛立ちからくる悲鳴を上げたり、首を垂れてうなだれたりした。

 オンコートコーチングを使って、バインコーチを2回呼んでも根本的な修正はできず、ファイナルセットに入ると、大坂は疲労からフィジカルだけでなくメンタルもダウンし、2時間25分に及んだ試合の最終ポイントは、大坂の7本目のダブルフォールトだった。

 RR第2戦では初戦の敗者同士の組み合わせとなり、大坂はケルバーと戦うことが決まった。対戦成績は、大坂の1勝3敗で、今季はウィンブルドン3回戦で対戦して敗れている。RRで2敗すると、準決勝進出の可能性がゼロになるわけではないが、かなり厳しい状況になるので、大坂としては負けられない一戦になる。

 バインコーチは、大坂とタッグを組んだ1年目で、USオープンでのグランドスラム初優勝や、WTAファイナルズ初出場というめざましい結果を残した2018年を次のように振り返っている。

「ここまで素晴らしい年だった。でも、まだ終わっていない。あと1大会ある。この大会が終わってから祝いたいね」

 大坂も、バインコーチと気持ちは一緒だ。

「今大会が終わってから、満足できるか考えたいし、今は本当に負けたくないと感じています」

 今シーズン最後の大会であるWTAファイナルズを戦い切るためのエネルギーが、果たして大坂にどれぐらい残されているかわからないが、後悔しないためにも、全力を振り絞ってケルバー戦に臨んでもらいたい。