12月の末から女子は翌年の10月、男子は11月まで、プロスポーツ界で最も長いシーズンを戦い抜いた末に、今シーズンのランキング・ポイント上位8人だけが出場することのできる「ATP/WTAファイナ…

12月の末から女子は翌年の10月、男子は11月まで、プロスポーツ界で最も長いシーズンを戦い抜いた末に、今シーズンのランキング・ポイント上位8人だけが出場することのできる「ATP/WTAファイナルズ」。ATP(男子ツアー)では2017年から、21歳以下の選手を対象とした「Next Gen ATPファイナルズ」も開催されています。2018年の「全米オープン」後に錦織も「出たい」と語ったこの大会の意義を紐解いてみましょう。

■シングルスは2グループに分かれて総当たり、その後トーナメントへ

シングルスに出場する8選手は4人ずつの2グループに分かれ、総当たりのリーグ戦で一人3試合を戦い、各グループの1・2位が準決勝に進出。一方のグループの1位と他方のグループの2位がそれぞれ戦い、準決勝を勝ち抜いた2選手で決勝を争います。

「ATP/WTAファイナルズ」でもランキング・ポイントが獲得できます。男子(ATP)は、リーグ戦では一勝につき200ポイント、準決勝に勝てば400ポイント、決勝に勝てば500ポイントが与えられるので、全勝優勝すれば最大の1500ポイントが得られる計算に。一方、女子(WTA)はリーグ戦では一勝につき250ポイント、敗れても125ポイントが得られます。準決勝で勝てば330ポイント、優勝すれば420ポイントが加算され、全勝優勝の場合はやはり1500ポイントを獲得できます。

気になる賞金。男子の場合、まず出場すれば$203,000、リーグ戦では一勝につき$203,000、準決勝に勝てば$620,000、決勝に勝てば$1,280,000で、5連勝なら$2,712,000を獲得。

一方、女子の場合、リーグ戦で一勝につき$153,000、準決勝進出でプラス$40,000、さらに準優勝者は$700,000、優勝者は$1,850,000を獲得できます。

ただし、ダブルスに総当たりはなく、普通のトーナメント形式で争われます。

■各地を転々とした「ファイナルズ」、その始まりは東京

「ATP/WTAファイナルズ」は、場所も大会方式も変容しながら継続してきましたが、その最初の大会は1970年に東京で開催された「ペプシ・グランプリ・マスターズ」。その後パリ、バルセロナ、ニューヨークなど世界を転々とした後、2009年から2020年まではロンドン開催が決まっています。女子は1972年にフロリダで開催された「バージニアスリム選手権」を起源とし、ニューヨーク、イスタンブールなどを転々とした後、2014年から2018年まではシンガポールで、2019年からの10年間は中国深セン市で行われます。

■最多優勝者、男子はフェデラー、女子はナブラチロワ

男子シングルスの大会最多優勝はロジャー・フェデラー(スイス)の6回(2003、2004、2006、2007、2010、2011年)、次いで5回優勝が3人、ノバク・ジョコビッチ(セルビア、2008、2012、2013、2014、2015年)、イワン・レンドル(チェコスロバキア)、ピート・サンプラス(アメリカ)。現役選手で他に優勝を遂げているのは2016年のアンディ・マレー(イギリス)と2017年のグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)だけ。

女子シングルスの大会最多優勝はマルチナ・ナブラチロワ(チェコスロバキア/アメリカ)の8回、次いでセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)の5回(2001、2009、2012、2013、2014年)。現役で他に複数回優勝を遂げている選手はおらず、マリア・シャラポワ(ロシア、2004年)、ビーナス・ウイリアムズ(アメリカ、2008年)、ペトラ・クビトバ(チェコ、2011年)、アグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド、2015年)、ドミニカ・チブルコバ(スロバキア、2016年)、カロライン・ウォズニアッキ(デンマーク、2017年)が各1回。

■出場8人は、開催ギリギリまで決まらない

2018年の「WTAファイナルズ」は10月21日から始まりますが、10月15日時点で出場が決まっていたのはシモナ・ハレプ(ルーマニア)、アンジェリック・ケルバー(ドイツ)、ウォズニアッキ、大坂なおみ(日本/日清食品)、クビトバ、スローン・スティーブンス(アメリカ)の6人。最後の2枠にエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)とカロリーナ・プリスコバ(チェコ)が決まったのは大会開始4日前の10月17日でした。また、ハレプが直前にケガにより欠場を発表したため、繰り上がりでキキ・バーテンズ(オランダ)が出場することに。滑り込みで出場の決まった3人以外はいずれもグランドスラム覇者。とはいえ群雄割拠、戦国時代の続いているWTAでは誰が勝ってもおかしくありません。日本人として3人目の大会進出を決めた大坂にも十分に勝機はあるでしょう。

「ATPファイナルズ」は11月11日から18日まで。10月16日の時点では、ラファエル・ナダル(スペイン)、ジョコビッチ、フアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)、フェデラー、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)の5人が出場決定。6~8位はマリン・チリッチ(クロアチア)、ケビン・アンダーソン(南アフリカ)、ドミニク・ティーム(オーストリア)で、9位は錦織圭(日本/日清食品)。ただ、10月中旬にケガをしたデル ポトロがファイナルを欠場することになれば、このままの順位なら錦織は繰り上がりで自身4度目のATPファイナルズ出場が決まります。

■やり方も雰囲気も一種独特なお祭り騒ぎ

「ATP/WTAファイナルズ」はポイントの大きさでも四大大会に次ぐ大きな大会という位置づけですが、負ければ終わりの他の大会と違って最初は総当たりなので、1敗、最悪2敗しても準決勝に進むチャンスはあります。しかも、四大大会で優勝するためには男子なら5セットマッチで7試合を戦わなければなりませんが、「ATP/WTAファイナルズ」では3セットマッチで5試合と、短期決戦であることも特徴の一つ。

もともとシーズンを通して好成績を収めた上位8人しか出場できない大会なので、出場できること自体が栄えあること。会場もインドアなので、演出も派手で、観客の歓声も場内に反響します。シーズン最終戦という開放感も手伝い、一種独特なお祭り騒ぎの雰囲気が楽しめるのです。シーズン最後の大会で、年間最強の王者を決める大会とも言える「ATP/WTAファイナルズ」。その一種独特なお祭り騒ぎの中で繰り広げられる真剣な死闘にぜひ注目してください。(文/月島ゆみ)

※写真は2017年「ATPファイナルズ」優勝のグリゴール・ディミトロフ(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)