シングルス2のマッチポイント。長いラリーの末に中沢夏帆(亜大4年)のショットがベースラインを大きく超えると、大矢希女子主将(スポ4=愛知・名経大高蔵)は大きくガッツポーズを見せるとともに、大粒の涙を流した。これで早大の勝ち星は3つ目。悲願…

 シングルス2のマッチポイント。長いラリーの末に中沢夏帆(亜大4年)のショットがベースラインを大きく超えると、大矢希女子主将(スポ4=愛知・名経大高蔵)は大きくガッツポーズを見せるとともに、大粒の涙を流した。これで早大の勝ち星は3つ目。悲願の13年連続日本一が達成された瞬間だった。全日本大学対抗王座決定試合(王座)決勝で早大は亜大と対戦。リーグでは4-3と苦しめられた相手だったが、日本一を懸けた大舞台では女王の経験が上回り、4-1と快勝。個人戦で結果が出せず、例年以上の危機感がささやかれていた今年の女子部だったが、そんな逆境を伝統のチーム力で、そして最後は気持ちではねのけ、見事13連覇の偉業を成し遂げた。


決勝の舞台でまさかのストレート負けを喫した大矢(左)・上組

 最終決戦で先勝したのは亜大だった。ダブルス1の大矢・上唯希副将(スポ4=兵庫・園田学園)組が5-7、1-6とまさかのストレート負け。相手は全日本学生選手権(インカレ)でも敗れた強敵ではあったが、今季これまで団体戦無敗の絶対的エースペアの敗北に、否が応でもチームには動揺が走っただろう。この苦しい場面で奮起したのがダブルス2の清水映里(スポ2=埼玉・山村学園)・下地奈緒(社2=沖縄尚学)組だった。ファーストセットは大舞台ならではの緊張からか固さも見られ、相手に主導権を握られる。大矢・上組と同様、ダブルス2もファーストセットを献上したが、セット間で気持ちを切り替えた2年生ペアはここからガッツあふれるプレーを見せた。次第に下地が前に出てボレーで決めるポイントが見られるようになると、それに乗じて清水も調子を上げる。清水が深くスピンをかけたボールで相手のポジションを下げ、浅くなった球を下地がボレーで確実に仕留めるかたちがハマり、ポイントを量産。ワンブレークアップでセカンドセットを奪うと、ファイナルセットではツーバックなど様々な作戦で相手を翻弄(ほんろう)。逆転負けが続いたリーグと比べて一回りも二回りも強くなった清水・下地組の逆転勝利で、スコアをイーブンに戻した。「本当に大きな1勝だった」(大矢)。成長を遂げた2年生ペアの活躍で、チームの悪い流れを断ち切った早大。息を吹き返してシングルスへ突入した。


清水(左)・下地組は逆転劇を演じた

 「私たちが取られたのを後輩が助けてくれたんだから、最後は私たちが決めるしかない」(上)。シングルスで最初にコートに入ったのは大矢と上の二人。この1年間チームの先頭に立って引っ張ってきた4年生コンビが、チームの命運を背負って試合に臨んだ。2試合共に4年生対決となり、試合は意地と意地とのぶつかり合いとなったが、そこで勝敗を左右したのが『一本へのこだわり』。12年連続で王座を維持し続けてきた学生テニス界の女王には、日本一を決める大舞台でこそ発揮される勝者のメンタリティが脈々と受け継がれていたのだ。シングルス3の上はダブルスで敗戦したショックを全く感じさせないプレーを見せる。序盤から鋭いショットで相手を揺さぶりゲームを制圧。ファーストセットを大差で奪うと、セカンドセットでも上の勢いは止まらなかった。「隣で競っていた大矢のためにも、私が勝って勢いをつけたい」(上)との思い通り、最高のかたちで日本一へ王手をかけることに成功。最後はこの日一番のガッツポーズで声援に応えて見せた。


応援に向けガッツポーズを見せる上

 そして最も重要な役割を任されることになったのが主将の大矢。勝てば優勝、しかし負ければ亜大エース松田美咲と清水との直接対決に勝敗が懸かってしまうこととなる。後輩にプレッシャーをかけないためにも、意地でも勝利がほしい状況だった。相手はリーグでも対戦した中沢。試合は今回も長いラリー戦となり、序盤は一進一退の攻防が続いた。大矢は先にブレークに成功し5-3でセットポイントを握るが、ここをしのがれ5-5まで追いつかれてしまう。しかし、直後のゲームで再びブレークに成功。「そこで突き放せたのは相手のメンタル的にも大きかった」(大矢)。そのままファーストセットを奪い、セカンドセットも立ち上がりからたたみかけた。5-3で迎えた第9ゲーム、ついに歓喜の瞬間が訪れる。この試合を象徴するような深いボールの打ち合いの末、10本目にして相手のバックハンドショットはアウト。「私の代で連覇を途絶えさせてしまうのが本当に怖かった。勝った瞬間、ようやく全て終わったんだと思ったらホッとして、一気に涙が止まらなくなった」(大矢)。連覇という見えない巨大な重圧と1年間戦い続けた大矢主将。誰よりも先頭に立ち、そして誰よりも弱さを見せなかった主将が流した涙に、サポート・応援の部員たちの目にも思わず涙があふれる。大歓声に包まれる中、ベンチコーチの廣川真由副将(社4=埼玉・浦和学院)と泣きながら抱き合う姿は、名門校の主将という重圧、そして王座13連覇という伝統の重みを感じさせるものだった。


勝利を決め、涙する大矢

 続くシングルス1でも清水がエース対決を制し、これで合計スコアは4-1。今年も王座決勝の舞台で実力以上の力を発揮し、今季勢い真っ盛りだった亜大を退けた。前人未到の王座13連覇。なぜ早大はこれほどまでに強いのか。その要因を尋ねると、大矢主将は迷うことなく『チーム力』だと語った。チーム全員が王座優勝という目標へ心を一つにし、サポートは選手を信じて、そして選手はそれに応える。一戦一戦を経てチームはまとまり、強くなった。夏の個人戦では結果を残せず、大きな危機感が募っていた今季の女子部。しかし、そんな逆境なんぞ簡単に乗り越えてしまうの力が、このチームにはあったのだ。「みんなが支えてくれたからここまで来れた。私たちを優勝まで導いてくれてありがとう」(大矢)。長らくチームは支えてきた4年生はこれを持って引退となるが、その『この一球にかける思い』は確かに受け継がれている。後輩たちは去り行く4年生の姿を目に焼き付け、来年再びこの地へ戻ってくることを誓った。愛媛の地に確かな足跡を残して、女王・早大の系譜はこれからも続いていくことだろう。

(記事、写真 松澤勇人)


王座13連覇を果たした女子部

結果

○早大4-1亜大

ダブルス1
●大矢希女子主将・上唯希副将5-7、1-6中沢夏帆・高橋玲奈
ダブルス2
〇清水映里・下地奈緒3-6、6-4、6-1南文乃・松田美咲


シングルス1
〇清水映里6-4、6-3松田美咲
シングルス2
〇大矢希女子主将7-5、6-3中沢夏帆
シングルス3
○上唯希副将6-2、6-3高橋玲奈


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チャンピオンスピーチ


大矢主将

大矢 まずはじめに今大会を主催してくださった全日本学生テニス連盟の皆さま、愛媛県テニス連盟の皆さま、また愛媛県知事さま、ありがとうございました。また、王座の期間サポートしてくださった土橋監督(登志久、平元教卒=福岡・柳川)をはじめとするコーチ陣の皆さま、OB・OGの皆さま、保護者の皆さま、ありがとうございました。準決勝を戦いました関西大学、そして決勝戦を戦った亜細亜大学の皆さまもありがとうございました。今年は本当に王座連覇できるのかという危機が周りからもささやかれていて、本当に苦しい1年間ではありましたが、こうして13連覇を達成することができ、またたくさんのライバルたちに囲まれてスピーチすることができて本当に素晴らしい経験をさせていただいたなと思います。来年は後輩たちが14連覇に向けて頑張ってくれると思います。これからも早稲田大学庭球部の応援をよろしくお願いします。本日はありがとうございました。


大会MVPの清水

※コーチと出場選手、4年生のコメントはこちらから