イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の第7日。 セカンドウィークの初日は日本にとっては魔の1日となった。第5シードの錦織圭(日清食品)は第9シードのマリン・チリッチ(クロアチア)との4回戦を第2…
イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の第7日。
セカンドウィークの初日は日本にとっては魔の1日となった。第5シードの錦織圭(日清食品)は第9シードのマリン・チリッチ(クロアチア)との4回戦を第2セットの途中で棄権。また、グランドスラム自己最高の4回戦に挑んだ土居美咲(ミキハウス)は、全豪オープン覇者のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)に3-6 1-6で敗れた。
土居はエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)と組んだダブルス2回戦も戦ったが、ダリア・ガブリロワ(オーストラリア)/ダリア・カサキナ(ロシア)に6-3 3-6 1-6の逆転負け。そのほか青山修子(近藤乳業)/二宮真琴(橋本総業ホールディングス)が第5シードのティメア・バボス(ハンガリー)/ヤロスラーワ・シュウェドワ(カザフスタン)との2回戦に1-6 3-6で敗れた。これで男女単複を通して日本勢は全滅した。
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3回戦のあと、「痛みと戦っている時間がほとんどなので、テニスをしていても楽しくない」と話していた錦織の言葉を思い出せば、途中棄権は思いがけないことでは決してなかった。むしろ、3回戦よりも悪化したケガを抱えて43分も戦い続けたことのほうが不思議だったかもしれない。
異変は初めから明らかだった。チリッチの4連続サービスエースはともかく、錦織のサービスはあまりに弱々しく、1ポイント目のファーストサービスは94マイル(時速約151km)と表示された。このゲーム、5本のサービスを打ってすべて90マイル台。チリッチも「実は彼のケガの状態はよく知らなかったけど、最初の何ゲームかでおかしいと気づいた」と、あとで話した。
0-5まで一気にリードは広がり、この間に錦織が得たポイントはたったの2ポイント。次のゲームをかろうじてキープしたが、第1セットは1-6。ストローク戦になればいくつかいいポイントもあったが、それが反撃の狼煙でも状況好転の兆しでもないことは誰の目にも明らかだった。むしろケガが悪化するだけ…。しかし錦織はエンドチェンジのたびにベンチを目指し、休憩して次のゲームに向かっていくのだった。
勝てるチャンスが皆無なら、今後のために無理をすべきではなく、一刻も早く決断するのがプロだという考え方はあるかもしれない。しかしやはり、いったん戦いの場に立ったからには何がなんでも戦い続けたいという一徹さもまた一つのプロの精神だろう。
「もう筋肉が切れるところまでやろうと思っていました」 錦織はあとでそう明かした。
この先のオリンピックや夏のハードコートシーズンのことすら考えず、とにかく今、限界まで出し尽くすのだという覚悟の背景には、昨年のウィンブルドンも棄権、前哨戦のハレも2年連続棄権という辛い経歴があったに違いない。ましてやグランドスラム、ウィンブルドンなのだ。
第2セット1-1から4ゲームを奪われて1-5。ここで、スタンドから身を乗り出して強く棄権を促すマイケル・チャン・コーチの言葉を、ようやく聞き入れた。
「人生で一番くらい、ケガの痛みと戦った。その中で、すべて出し尽くしました」。
これからはしばらく治療に専念するという。今後、何をどう決断したとしてもそれを尊重したい。今大会の錦織の覚悟と忍耐には、そうさせるだけの〈力〉があった。
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立ち上がりの土居のプレーに、ケルバーは苦戦を覚悟したという。優勝した全豪オープンの1回戦でマッチポイントを握られた相手ということは考えずに自分のテニスをしたい、そう話していたが、思い出さずにはいられなかったのではないだろうか。土居の得意のフォアハンドがあのときのように、クロスにダウン・ザ・ラインにと突き刺さった。
土居が第2ゲームで早くもブレークポイントを握る。しかしケルバーの高いディフェンス力に阻まれてあと1ポイントが奪えない。逆に、第3ゲームで30-0から早いミスが続いてブレークを許した。ケルバーのように、1ポイントをもぎ取るのがたいへんな相手に対しては、先にリードされると徐々に焦りが出てきてしまう。実際、イージーなフォアハンドのミスが続き、「慌てすぎ!」と自身に喝。そのゲームは2度のデュースの末にキープしたが、ブレークバックのチャンスはないまま第9ゲームで2度目のブレークを許して3-6でセットを落とした。
「彼女のディフェンスを崩したかったけど、厳しいところを狙いすぎたり、焦りが出てしまった」。
その傾向は第2セットにより顕著となり、あれよあれよと0-5。そのうち2ゲームは土居がゲームポイントとブレークポイントを握っている。競ったゲームを取れなかったことが、試合の印象に反してスコアが一方的だった理由だろう。課題はまた見つかったが、トップ20、トップ10が確かに見えてきた今年のウィンブルドンだった。
(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)