9月中旬に行なわれたマンシングウェアレディース東海クラシックで、セキ・ユウティン(20歳/中国)が奮闘。主催者推薦で、レギュラーツアーへの出場は今季2試合目ながら、最終日最終組に名を連ねた。 初日に「70」とまずまずのスタートを切った…

 9月中旬に行なわれたマンシングウェアレディース東海クラシックで、セキ・ユウティン(20歳/中国)が奮闘。主催者推薦で、レギュラーツアーへの出場は今季2試合目ながら、最終日最終組に名を連ねた。

 初日に「70」とまずまずのスタートを切ったセキは、2日目にその日のベストスコアとなる「64」をマークし、首位タイで最終日を迎えた。中国ツアーでの優勝経験があり、「その感覚を覚えている」と語ったセキ。日本ツアーにおける初勝利への期待も高まったが、結局最終日はスコアを伸ばせずに、15位タイでフィニッシュした。



中国出身の人気プレーヤー、セキ・ユウティン。photo by Getty Images

 日本ツアー参戦を目指して、一昨年のQT(※)に臨んだセキ。ファイナルQTへと駒を進めると、見事に16位という成績を収めて、翌年のレギュラーツアーの出場権を獲得した。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。現在はファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの『リランキング』までの大半の試合には出場できる。

 そして、昨季は32試合に出場。日本の女子ツアーでは珍しい身長170cm超えの恵まれた体格と、キュートなルックスによって、中国から来た「美女プレーヤー」として注目を集めた。そもそも、生まれは福井県で、19歳ながらすでに中国国内のツアーで優勝しているという経歴も、多くの人々から関心を集める対象となったのだろう。

 ただ、日本ツアー参戦1年目の結果は芳しくなかった。17試合で予選落ちを喫し、トップ10フィニッシュは一度もなかった。賞金ランキングも78位に終わって、目標としていた賞金シード獲得はならなかった。

 さらに昨季は、QTもサードで脱落。その結果、QTランキング116位という今季は、レギュラーツアーへの出場機会はほとんど得られず、下部ツアーのステップ・アップ・ツアーに参戦しつつ、主に中国を含めたアジアのツアーを転戦している。

 日本ツアー参戦を果たした昨夏、セキは飛距離に悩んでいた。

「今まで、自分で飛距離が足りないと感じことはなかったけど、(日本の)レギュラーツアーだと、20ヤード近く置いていかれることもある」

 そこで、セキはある人物を訪ねた。バイオメカニクス(生体力学)の専門家、テキサス女子大学のヤン・フー・クォン教授である。そうして、同教授が開発した最新機器を使用して、セキの体の動きを分析してみると、力の出し方に大きなロスがあることがわかった。

 セキは、その測定結果を基にした指導を積極的に試し、それをスイングに落とし込んでいった。

 その姿勢には、現場からも「とても吸収力が高い選手」と高評価を得ていた。セキ自身、「こんな体の使い方をしたことはなく、プラスの経験になりそう」と、バイオメカニクスによる指導をポジティブにとらえて取り組んでいた。だが――。

 吸収力や適応能力の高さは、ゴルファーにとってとても大切な能力だ。自らの体形やクラブ、プレーするフィールドが変わっても、それに対応できる者が安定した成績を収めることができる。

 しかし一方で、そういう選手は情報をインプットしすぎるというリスクもある。スイングの構築は、単純な足し算ではなく、新しい動きを取り入れることによって、取り除いていかなければいけないものがあるが、そういう選手は一度吸収したものをなかなか捨て切れないのだ。

 実際、セキもそうだった。昨季後半は、それまでに築いてきたレッドベター流(※世界のトッププロが認める王道の理論)のスイングとは真逆のスイングを提唱するコーチと、スイング改造に取り組んだ結果、彼女の中の情報量がパンク。混乱に陥った彼女は、長所であるショットの正確性を失って、レギュラーツアーでも、QTでも、思いどおりのプレーができなくなっていた。

 それから、およそ1年。セキは一旦、”新たなチャレンジ”を封印していた。今回のマンシングウェアレディース東海クラシックでの好成績は、もともと指導を受けてきた、上海でティーチングを行なっているマイケル・ディッキーのもとでの調整がうまくいった結果だという。

 ショットに関しては、基本的なアドレスや方向性のチェックを行なって、パッティングは右手のグリップをクロウグリップ(※右手をグリップに添えるイメージ)に変更した。それらが功を奏し、とりわけパッティングは、初日が27パット、2日目が26パットという成果を出した。

 セキが語る。

「昨年末、同郷のフォン・シャンシャン(29歳/中国)とともにフロリダに渡って、彼女のコーチを務めるゲーリー・ギルクリストの指導を受けたことが刺激になった」

 米女子ツアーでも活躍する世界ランク9位(※10月8日現在)のフォン・シャンシャンと、一緒にトレーニングを行なったセキ。世界トップレベルのメンタリティーや技術を間近で見て、肌で感じたことは貴重な経験になったに違いない。加えて、ディッキーと同じレッドベター理論を踏襲するギルクリストの指導がプラスに作用したのだろう。



昨年末はフロリダのギルクリストアカデミーで練習を重ねた。photo by Yoshida Hiroichiro

 だからといって、昨季の彼女の”挑戦”が間違っていたわけではない。あくまでも、素直で吸収力の高い選手だったため、問題が生じてしまったにすぎない。逆に言えば、そういう選手であればこそ、適切な取捨選択を行なって、じっくりと腰を据えて”核”となる技術を身につければ、大いなる飛躍が見込める。そんな日が早く来ることを期待したい。

 ちなみに、マンシングウェアレディース東海クラシックを制したのは、最終日にセキが失速する一方で、スコアを大きく伸ばした香妻琴乃(26歳)だった。ここ数年はシードを喪失するなど、苦しいシーズンを送っていたが、少ないチャンスを生かして念願のツアー初優勝を果たした。

 プロ入りして8年。彼女にとっては、長く険しい道のりだっただろうが、これまでのあらゆる経験が”糧”となったことは間違いない。

 プロも、アマチュアも、ゴルフの成長は右肩上がりの直線ではない。進んだと思ったら後退し、そしてまた何かを得て進む。

 セキは今後、日本国内のステップ・アップ・ツアーや、中国で行なわれる米女子ツアーの試合に出場。そのあと、日本のQTを受けて、来季のツアー出場権獲得を目指す予定だ。今回もトップ10フィニッシュはならなかったが、日本ツアー初の最終日最終組という経験が、次のステップへの糧となったはずである。