「ショックはショックですけど……。さっきはショックでしたけど、なるべく気持ちを切り替えないといけない」 楽天ジャパンオープン決勝で、第3シードの錦織圭(ATPランキング12位、10月1日づけ/以下同)は、予選から…

「ショックはショックですけど……。さっきはショックでしたけど、なるべく気持ちを切り替えないといけない」

 楽天ジャパンオープン決勝で、第3シードの錦織圭(ATPランキング12位、10月1日づけ/以下同)は、予選から勝ち上がって来たダニール・メドベージェフ(32位、ロシア)に、2-6、4-6で敗れて、4年ぶり3度目の優勝は実現せず、表彰式の前には、ベンチで首を垂れてタオルに顔をうずめる姿も見られた。



ここまでいい試合をしてきただけに、決勝では悔しい敗戦となった錦織圭

 22歳のメドベージェフは、”Next Gen”と呼ばれる若手期待選手のひとりで、今季は1月のATPシドニー大会と8月のATPウィストン セーラム大会で優勝して、初めてトップ50入りをしてきた。フィジカル強化に励み、オフコートではゲームを夜遅くまでせず、生活態度をあらためて、プロらしく自己管理をするようになって結果も伴ってきた。

 錦織とメドベージェフとは、今年のマスターズ(以下MS)1000・モンテカルロ大会2回戦で一度だけ対戦したことがあり、錦織がストレートで勝っていた。急成長してきたメドベージェフを錦織は、「サーブがよかったり、バックのフラットで打って来るショットだったり、楽な相手ではない」と警戒していた。

 決勝では、「とにかくサーブをよくしよう」と臨んだメドベージェフが、長身198cmから繰り出すサーブが好調で、8本のサービスエースを決め、ファーストサーブのポイント獲得率が93%と驚異的に高かった。さらにセカンドサーブでのポイント獲得率も81%で、「サーブが素晴らしかった。ファーストサーブはもちろん、セカンドサーブでさえもあまりチャンスはなかった」と振り返った錦織に全く反撃の隙を与えなかった。

 錦織は、準決勝でリシャール・ガスケ(25位、フランス)を破った時とは、別人のようにミスの多いテニスをして、メドベージェフのサービスを一度もブレークすることができなかった。また、錦織が有利と思われていたラリー戦でも、メドベージェフが攻撃や守備でいいプレーを見せ、「いずれ確実にトップ10に入るだろう」と錦織は、若いメドベージェフの才能を認めた。

 予選から7試合を戦って、決勝では格上の錦織を破ってのジャパンオープン初優勝に、「とてもうれしい。1週間で驚くほどいいテニスができた。練習してきたことが東京で実を結んだ」と、新婚のメドベージェフからは穏やかな喜びの笑みがこぼれた。

 一方、錦織は、これでツアーの決勝では8回連続で敗れたことになるものの、決して勝ちたい気持ちが強過ぎたわけではなかったという。

「(4月のMSモンテカルロ大会以来の)久しぶりの決勝だったので、うれしかったのもある。勝てていないのは事実ではありますけど、僕はまだそんなに気にしていないので。決勝まで来られたのも評価できる点ではあると思うので、引き続きチャレンジするだけですね」

 決勝だけは完敗だったが、ジャパンオープンの期間中には、錦織らしいコート中へステップインして打つ攻撃的なテニスが見られたのも事実だ。10月8日付けのランキングでは、12位をキープした。

 また、年間成績上位8人しか出場資格が得られないツアー最終戦のATPファイナルズへの2年ぶり4度目の出場にも、まだ望みをつないでいる。

 ATPファイナルズ出場権争いの「レース・トゥ・ロンドン」で、錦織は、2820点になったが、順位は10位のままだ。当面のライバルとなっていくのが、9位のジョン・イスナー(アメリカ、2930点)、8位のドミニク・ティエム(オーストリア、3525点)、7位のケビン・アンダーソン(南アフリカ、3540点)となる。

 今後も戦いは続き、10月第2週に錦織は、グレード500の東京よりひとつ格が上のMS1000・上海大会に出場する。さらに、ATPウィーン大会、MS1000・パリ大会に出場する予定で、残り3大会でATPファイナルズの出場圏内に入れるか挑戦していく。

「目指していますけど、その中に入れなくても今年は充実した1年でした。けがから復帰して、これだけ早く戻って来られたのは、すごく自分の中でも充実感はある。でも、できれば最後の数大会で、いい結果を残して、最後に残れるようにはがんばりたい」

 こう錦織が語るように、けがから復帰当初は、最終戦出場は現実味がなかったが、今季ここまで充分にいいシーズンであるのは間違いない。もし、ATPファイナルズに出場できれば、それはちょっとしたボーナスのようなものかもしれない。

 だが、2014年から3年連続で最終戦に出場した時の錦織は、最終戦でプレーすることを当然のことにしていきたいと、彼にしては少し強気な発言をしたこともあった。今こそ、あの時の強気を思い出すべきではないだろうか。

 長年、ロジャー・フェデラー(2位、スイス)、ラファエル・ナダル(1位、スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(3位、セルビア)は、トッププレーヤーであることの勲章を得るかのように、彼らのプライドをかけて最終戦の出場権を確保し続けて来た。

 また、過去に8位のボーダーライン付近で出場権を争った選手たちも、レギュラーシーズン最後のMS1000・パリ大会まで、押しつぶされそうな重圧の中で普段よりプレーが硬くなりながらも、最後まで死力を尽くして戦ったものだった。

 シーズン終盤に来て、錦織は、心身ともに疲労を感じ始めているかもしれないが、けがに気をつけつつ、何とか力を振り絞って、最後まであきらめずにATPファイナルズの出場権獲得へ挑んでほしい。それもまたトッププレーヤーである証しのひとつなのだから……。