審判が早大の勝利を高らかに告げ、整列の輪がほどけると、伊藤貴世美(スポ2=千葉経大付)は満面の笑みを見せた。この日の伊藤は、7回を投げ切り毎回の9奪三振。被安打はわずか2本と国士舘大打線を完璧に抑え、無四球完封勝利を飾る。しかし、この勝利…

 審判が早大の勝利を高らかに告げ、整列の輪がほどけると、伊藤貴世美(スポ2=千葉経大付)は満面の笑みを見せた。この日の伊藤は、7回を投げ切り毎回の9奪三振。被安打はわずか2本と国士舘大打線を完璧に抑え、無四球完封勝利を飾る。しかし、この勝利は単なる1勝ではなかった。

 大学入学以来、伊藤は思うような投球ができずに苦しんでいた。千葉経大付高時代には、全国高校選抜、全国高校総体、国民体育大会で3冠を達成。鳴り物入りで早大ソフトボール部に入部し、2017年には女子GEM3(U19)日本代表にも召集された。しかし高校と大学とで使用するボールの種類が変わったこともあり、「自分の思うような球があまり投げられなくて」(伊藤)と壁にぶつかることとなる。 抜群のコントロールを武器にボールを操り、打者を翻弄(ほんろう)するのが本来の伊藤の投球スタイル。しかしボールの違いが繊細な感覚を狂わせ、思い描いた通りの投球をすることができなくなっていった。「入学したときは、相手バッターが(自分の投球に)慣れていなくて打ち取れていた部分はあった」と話すように、本調子ではないながらも投手としての責任はきっちりと果たしてきた伊藤。しかし、自身が求める理想像には遠いままでいた。


全日本総合選手権東京都予選では東女体大にコールド負けを喫した

 学年が上がり、2年生として臨んだ春季リーグ戦でも「あまりいいスタートが切れなかった」と暗中模索が続く。そこで現状打破のため、高校時代に取り入れていた練習方法を採用した。「一からつくり直す気持ちで、夏場に疲れてもいいから遠投をしっかりやろう」。体を大きく使うことでバランスを意識し、ほかの練習においても体力面で自分を追い込む意識を持った。その成果が表れたのか、9月1日に行われた全日本大学選手権では2イニングを打者6人で抑える快投を演じ、復活の兆しを魅せる。そして秋季リーグ戦3試合目となる、本日の国士館大戦。伊藤は7回を投げ切り三塁すら踏ませない投球を披露し、努力を結実させたのだった。


インカレでは見事な快投を見せた

 完全復活と言ってもよいか、という問いに伊藤は、「完全復活とまではいかないですけど、前回のリーグ戦(春季リーグ戦)とは全然違って、持っていくべきところに持っていけた」と答えた。自身が理想とする、思い通りにボールをコントロールする投球へ一歩近づいたのだろう。しかし、向上心は忘れない。「今も少し思った通りにいかないところはある」とまだ改善の余地はあるようだ。チームメイトから「真面目すぎる」(廣瀬夏季、スポ3=北海道・とわの森三愛)とも評価される練習の虫は、その努力で1つの殻を破った。「きょうはしっかり抑えられたんですけど、来週もそうなるとは限らない」と次戦を見据える左腕の活躍は、今後も早大の力となるはずだ。

(記事 望月優樹、写真 望月優樹、守屋郁宏)

 

※ 本記事は伊藤投手の特集記事です。試合結果に関する記事は後日改めて掲載させていただきます。

コメント

伊藤貴世美(スポ2=千葉経大付)

――本日の投球を振り返られていかがでしたか

アップの時にあまり調子が良くなかったので、きょうはとにかく丁寧にやるっていうことを心がけていて。(味方が)先制点を取ってくれたので、その裏の回をしっかり抑えようっていう意識をして、ストライク先行でいきました。

――小さく曲がる変化球なども効果的に使われていました。捕手の方と事前の打ち合わせなどもあったのでしょうか

そうですね。最近色んなことに挑戦しているので、それをせっかくの大会という場で試してみようとか。同じストレートでも、自分で少し変化をかけて見たりとか。

――9月で、主に試合に出場されていた捕手の方が2人とも引退されました。新バッテリーとしての呼吸などはいかがですか

やっぱり試合で組んでいたのは4年生だったので、リズムが違う部分はあるんですけど、練習では(今の捕手と)かなり組んでいて。4年生と違った配球とか声かけをしてくれるので、すごく投げやすかったです。

――試合に入る前に意識していたことはありましたか

ボールのキレをしっかり出すことを心がけていて。(ストライクを)入れにいくんじゃなくて、思い切り投げたいいボールがいくようにということと、あとはしっかりストライク先行でリズム良く投げようっていう意識をしていました。

――本日は7回で9つもの三振を奪いました。その点を振り返っていかがですか

審判さんが低めをすごく取ってくれたということと、しっかり気を抜かずにコースの投げ分けをできたということ、あとはキャッチャーとの呼吸が合っていたと思います。

――春からずっと状態が上がらないと口にされていた中で、インカレで快投。そして今回の登板でも無四球完封勝利を飾られました。『完全復活』ということでよろしいでしょうか

完全復活とまではいかないですけど、心持ちとしては前回のリーグのとき(春季リーグ戦)とは全然違って、『持っていくべきところに持っていけた』のが良かったです。あとはやっぱり、自分が投げたいボールが投げられるようになったというところが、成長した部分だと思います。

――高校と大学でのボールの違いに、これまでは苦しんでいたとも伺いました

そうですね。縫い目が大きかったりして、自分の思うような球があまり投げられなくて。ただ入学したときは、相手バッターが(自分の投球を)見ていないから慣れていなくて、打ち取れていた部分はあったんですけど、狙ったボールをしっかり投げるというのがちょっと……。高校の時の方が全然コントロールが良くて、変化(球も)。そのあたりで少し苦労したかなと。今も少し(思うようにいかないところは)あるんですけど、多少投げられるようになってきたかなという印象です。

――うまくいくようになった身体の連動や、そのための具体的な練習方法などを教えてください

高校の時に遠投を長くやって、大きく(身体を)使ってバランスをしっかりするというのをよくやっていたんですけど、大学に入ってからはあまり遠投の時間とかもなくて。(練習)時間も短くなったので、『自分でやること』が多かったんですけど。意識していたのは、リーグ戦で(自身の結果が)悪かったので、一からつくり直す気持ちで、夏場に疲れてもいいから遠投をしっかりやって、アップをしっかりやって投げ切るというようなことでした。体力の面でも自分で追い込むようにして、それが結果的にインカレで良かったのかなというのと、ライズのキレも良かったので。そこが良かったのかなというのはあります。

――きょうの投球に点数をつけるとしたら何点ですか

悪い中でもかなり抑えられたので、80点くらいつけていいかなと思います。

――今後の投球に関する意気込みをお願いします

きょうはしっかり抑えられたんですけど、かといって来週もそうなるとは限らないので。一戦一戦に照準を合わせて段々上げていけるようにするのと、関カレでも調子を維持できるというよりもっと上げていけるようにしたいです。