今年も日本GPの週末がやってきた。ホンダにとっては2015年に復帰してから4回目、トロロッソとタッグを組んで初めての鈴鹿になる。そして、過去4回でもっとも大きな期待を持って臨む日本GPと言ってもいいかもしれない。ホンダは地元・鈴鹿でパ…

 今年も日本GPの週末がやってきた。ホンダにとっては2015年に復帰してから4回目、トロロッソとタッグを組んで初めての鈴鹿になる。そして、過去4回でもっとも大きな期待を持って臨む日本GPと言ってもいいかもしれない。


ホンダは地元・鈴鹿でパワーユニット

「スペック3」の実力を発揮できるか

 前戦のロシアGPで投入したスペック3は、アップシフト時のオシレーション(回転数のブレ)やドライバビリティの問題で予選・決勝での使用を見送ったが、ベンチテストでセットアップの熟成を進めたことで日本GPへの投入準備が整った。

 ホンダのエンジニアによれば、調整作業はあくまで想定の範囲内だったといい、田辺豊治テクニカルディレクターもこう説明した。

「ソチの初日で使ったスペック3を投入します。まだミルトンキーンズでテストをしているんですけど、みなさんにお見せできるようなかたちになりつつあると思います。オシレーションは従来レベルに収めるセッティングをいろいろとトライして、使える見通しは立っています。いずれにしても、明日はスペック3で走って、土曜日からどうするかを最終判断します」

 HRD Sakuraからスペック3パワーユニット、イタリア・ファエンツァからギアボックスとエンジニアを送り、英国ミルトンキーンズでは火曜日からベンチテストが行なわれた。

 それと並行して、ソチから日本へのFOMカーゴ便の一部がキャンセルになった影響により、ホンダの機材も鈴鹿到着が水曜日にずれ込み、ホンダのエンジニアやメカニックは水曜日に大急ぎでパワーユニットの整備・換装作業を行なった。

 今季型は整備性が大幅に向上したとはいえ、ターボチャジャーとMGU-H(※)を載せ換えるには4~5時間を要する。土曜日にスペック2に載せ換えた際、これら新品に換えたハートレイ車のコンポーネントを、スペック3のICE(内燃機関エンジン)に載せ換える作業が必要だったのだ。それでもHRD Sakuraからも応援部隊が駆けつけて、滞りなく作業は進められた。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 まずは金曜フリー走行で基本的な部分のデータをチェックし、ドライバーたちのフィードバックも聞きながら確認を行なうことになる。

「前回課題だったアップシフトや低回転域のドライバビリティ、ローンチ(スタート発進)周りやエネルギーマネジメント系などの確認ですね。スペックが違えばそのあたりのバランスも崩れてきますから、その点を注視しながら確認作業を進めたいと思います」(田辺テクニカルディレクター)

 スペック1やスペック2では初走行時からまったく問題が起きなかったオシレーションやドライバビリティが問題になったというのは、裏返せばそれだけスペック3の燃焼が従来とは異なるものになっているということだ。つまり、それだけパワーアップを果たしている。

 あとはしっかりとセットアップを煮詰めさえすれば、そのパワーが使えるのだ。ルノーを超え、メルセデスAMGやフェラーリにかなり近づくと言われている。

 ソチで金曜日に8番手タイムが記録できたのも、その証拠だ。1周アタックはなんとかオシレーションとドライバビリティに目をつむってまとめることができても、決勝の長い距離を走るのは厳しい。エネルギーマネジメントの問題もある。そのため実戦使用は断念したが、パフォーマンスに対する手応えはある。

「どのくらいかはまだハッキリとはわからないけど、パフォーマンスのゲインがあるのは確実だし、さらにスペック3で走り込んでファインチューニングを進めて、もっとパフォーマンスを引き出すのはポジティブなことだよ。ソチの段階でも、すでに1周アタックのパフォーマンスは向上していたんだ。それがレース週末全体を通して使う今週も生かされることを願っているよ。いずれにしても、パフォーマンスに関しては楽観視している」(ピエール・ガスリー)

 一方でSTR13は風向きの変化に弱く、ダウンフォース発生量が敏感に変化しやすい。長く回り込むようなコーナーや、左右に切り返すコーナーは苦手だ。

 鈴鹿のセクター1は、まさにそんなセクションだ。ましてや、今年は台風の影響で風が強い。

 トロロッソにとっては厳しい条件が揃っているが、それでもガスリーは、いい意味でも悪い意味でも予想はしないと語る。むしろ、この雨を味方につけたいという。

「シンガポール以降はマシンが合うとか合わないとかいうことを考えるのはやめたよ。予想どおりにいくとはまったく限らないからね。でも、今週末は台風の影響で土曜日に雨が降って、日曜日はドライになりそうだから、僕らにとってはチャンスだ。ブダペストでもそうだったけど、僕らにとって大きなチャンスが巡ってくる可能性がある。それをモノにすべく、全力で集中しないとね」

 ガスリーは昨年スーパーフォーミュラに参戦し、日本とのつながりも強い。日本のファンの熱心な応援もうれしくて仕方がないという。

「去年スーパーフォーミュラで何度もレースをしたし、今年はホンダドライバーだから、日本のファンの人たちはフェイバリットドライバーのひとりと見てくれているだろうし、僕自身もそう感じるよ。ヘルメットもアライだし、僕はフル日本仕様だね(笑)。

 今朝も朝7時だったんだけど、サーキットに来るときにファンの人たちが待っていてくれてプレゼントをくれて……。いつも日本に来るときは、いろんなプレゼントをもらうんだ。だから、いつも日本に来るときはカバンにスペースを残してくるんだ、帰る時にはそこに詰めるプレゼントをもらうことがわかっているからね! 僕にとっては、もっとも熱心なファンがいる国だよ」

 ブレンドン・ハートレイも、普段からレース週末は毎日ホンダのホスピタリティで和食を食べるほどの日本党だ。

「ソチからまっすぐ東京へ来て、ホンダのHRD Sakuraの開発陣と会ったり、レース部門だけじゃなく市販車部門や航空機部門などいろんな人たちと会ったよ。すごい歓迎だった。ホンダのこのF1プロジェクトに対する熱心さもすごかった。

 サーキットでもトロロッソ・ホンダのファンがたくさんいて、それはハッキリとわかるよね。僕自身も日本が大好きで、日本の文化も日本食も大好きだから。昨日だって駅やホテルに着いたとき、ものすごく大勢のファンの人が待っていて歩くのも大変なくらいで、そんな国は他にあまりないからね。すごくクールだよ」

 大勢のホンダ従業員に出迎えられ、その規模と熱意にふたりとも圧倒された。そして、自分たちが背負っている想いの大きさも知った。2週連戦の忙しい最中にもかかわらず、ホンダのファクトリーツアーを厳命したのはトロロッソのフランツ・トスト代表で、彼自身もそれに帯同した。日本をよく知るトスト代表のなかには、彼らに日本GPの重要性を身をもって体験させたい、という思いもあったのだろう。

 ガスリーは言う。

「すごく印象的だったね。HRD Sakuraでは300人くらいの人たちが僕たちを待っていてくれて、声援を送ってくれた。その次にいった栃木研究所では8000人もいて、あんなに大勢の人が声援を送ってくれるのを見たのは初めてだよ。とても情熱的で、熱狂的で、本当に信じられない気分だった。今日は鈴鹿工場にも行って、1時間半ほど過ごした。すごく忙しかったけど、本当にすばらしい時間だったよ」

 田辺テクニカルディレクターも、まったく同じ思いだ。

「世界中で働くホンダの全従業員の想いと、応援に応えるレースをしなければならないと思っています。ホンダという名前の重みをひしひしと感じ、鈴鹿という特別な場所に挑むにあたり、背筋が伸びる思いです。とにかく、今週は悔いのないレースをしたいと思います」

 ホンダにとって、大きな、大きなレースが始まる。