3年目のBリーグがいよいよ開幕する--。 残念ながら、新リーグが誕生し、「ついに日本バスケが新たな時代を迎える」と鳥肌が立つような、初年度ほどの興奮はない。田臥勇太(PG)率いる栃木ブレックスが初代王者となり、「今季はどんな物語が用意され…

 3年目のBリーグがいよいよ開幕する--。

 残念ながら、新リーグが誕生し、「ついに日本バスケが新たな時代を迎える」と鳥肌が立つような、初年度ほどの興奮はない。田臥勇太(PG)率いる栃木ブレックスが初代王者となり、「今季はどんな物語が用意されているのだろう」と胸が高鳴った、2年目ほどの高揚感もない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。



2シーズン連続でBリーグのアシスト王に輝いている宇都直輝

 もちろん、贔屓(ひいき)のチームや選手がいるファンからすれば、長かったオフシーズンが終わり、待ちに待ったバスケシーズンの到来だ。ただ、過去と比較すれば、Bリーグ関連のメディア露出は減少し、新シーズン開幕とはいえ新規ファン獲得のための話題にも乏しいと言わざるを得ない。

 逆にオフの期間、バスケ関連で世間を賑わせたのは、残念ながら多くのバスケファンを激しく傷つけたアジア大会での不祥事。

 ただ、明るい話題もあった。日本代表の男子はワールドカップ2019 アジア地区1次予選で、6月にオーストラリアを、9月の2次予選ではイランを撃破。オールドファンからしたら、まさに奇跡としか言いようのない連勝だった。

 ただし、アジアの強豪に連勝して話題をさらったのは、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)と八村塁(ゴンザガ大)の海外組の2選手。彼らをBリーグのコートで見ることはできない。

 きっとBリーグにとっての3年目は、いつの日か大輪の花が咲くことを信じ、下へ下へと根を伸ばすシーズンなのではないだろうか。

 しかし、”いつの日か”は確実に近づいている。

 当初、来年開催されるワールドカップの結果を受け、FIBA(国際バスケットボール連盟)が東京オリンピックでの自国開催枠を日本に与えるかどうか判断するとされてきた。しかしここにきて、今年12月の理事会で自国開催枠について審議されることが決まったと報じられている。

 これは、アジアの強豪国に連勝した直後の日本代表にとって、間違いなく強烈な追い風だ。12月の理事会で東京オリンピック出場が確定する可能性は、非常に高い。

 オリピック出場が決まるとすれば、今季のBリーグに新たな楽しみ方が増える。それは、3年目のBリーグで覚醒し、東京オリンピックで日本代表として躍動しそうな選手を探すことだ。

 3年目の覚醒を予感させる選手として、宇都直輝(うと・なおき/PG/富山グラウジーズ)、並里成(なみざと・なりと/PG/琉球ゴールデンキングス)、金丸晃輔(かなまる・こうすけ/SG・SF/シーホース三河)の3選手の名前を挙げたい。

 宇都直輝は191cmの長身PG。現在、日本代表のPGを務めるのは167cmの富樫勇樹(千葉ジェッツ)と178cmの篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)だが、国際大会でミスマッチは致命的になる。宇都の身長は、それだけで大きな武器だ。

 もちろん、その能力も間違いない。宇都は2季連続でBリーグのアシスト王に輝き、昨季は日本人選手最高、全体でも7位の平均17.0得点を記録している。

 宇都に覚醒の予感を感じるのは、富山グラウジーズの新ヘッドコーチ(HC)にドナルド・ベックが就任したことにある。ベックHCはJBL時代の2011-2012シーズンにトヨタ自動車アルバルクをリーグ優勝に導き、昨季までWJBLのトヨタ自動車アンテロープスを率いていた名将だ。

 トヨタ自動車時代の2年間、ベックHCは宇都を指導していた経験もある。3年ぶりの再会となる両者だが、ベックHCは宇都について、「日本人のガードとして、ちょっと違う技術を持っている。富山で会って大きな成長を遂げていると感じられた」と語っている。

 宇都のウィークポイントをあえて挙げるなら、ガードにしてはロングレンジのシュートを苦手とする点だろう。選手の個性を尊重し、長所を最大限に活かすのがベックHCのスタイルだ。ベックHCは宇都に、「修正してもらわなければいけない部分もある」とも語っている。それがロングシュートの改善なのか、それとも長身と身体能力を活かしたスラッシャータイプのガードとして特化するモデルチェンジなのか--。どちらにしても、長身PGの宇都の覚醒は、日本代表に大きな変化をもたらすはずだ。

 そして、並里もまた、日本代表に大きな変化をもたらす可能性を秘めたPGである。

 日本人選手屈指の技術と身体能力があることは、疑う余地がない。昨季の1試合平均のアシスト数7.4は、宇都の7.7に次いで全体2位。1試合16アシストというリーグ記録も保持しており、爆発力は宇都以上とも言えるだろう。また、昨季平均12.2得点と得点能力も申し分ない。

 これまでの並里の課題は、PGとしてのゲームメイクだった。昨季、所属していた滋賀レイクスターズはレギュラーシーズン最終戦でB1残留を決めているように、戦力不足は否めず、並里がワンマンプレーに走らざる得ないシーンも多かった。

 そんな並里が、出身地でもある沖縄を本拠地とする琉球ゴールデンキングスに3年ぶりに復帰。琉球の戦力は充実している。さらに琉球は、シーホース三河からPGの橋本竜馬も獲得した。橋本は自ら得点するよりもゲームをコントロールする能力に長けた選手だ。橋本とプレーすることで、並里が覚醒する可能性は非常に高い。

「ファンタジスタ」と呼ばれ、多くのファンが代表での活躍を期待してやまない並里。今季の変化と成長から目が離せない。

 そして最後に、ベテランながら金丸晃輔の覚醒にも期待したい。

 新生日本代表は、帰化した210cmのニック・ファジーカス(C/川崎ブレイブサンダース)、204cmの八村塁(PF/ゴンザガ大)、206cmの渡邊雄太(SF/メンフィス・グリズリーズ)の出現によって、アジアでは高さで見劣りすることなく、同時にこの3選手が絶対的な得点源にもなった。

 しかし、世界大会となれば、上記3選手も高さでは平均以下となる。3人のうちの誰かにボールを託し、1on1で得点を狙うというスタイルにも限界があるだろう。

 では、3人が抑えられた場合、誰が得点を獲るのか? 現在の代表には辻直人(SG/川崎ブレイブサンダース)がシューターとして君臨しているものの、やはり日本最高のシューター金丸に託したくなる。これまで金丸はケガなどで辞退し、代表には縁がなかったものの、多くのファンが日の丸を背負ってプレーしてほしいと思う選手の代表格だろう。

 29歳となった金丸にも、覚醒の余地はある。

 昨季までチームメイトだった比江島慎(SG)がオーストラリアのブリスベン・バレッツへと移籍。金丸と比江島が2枚看板だったシーホース三河は、金丸に今まで以上の得点を求めるだろう。昨季までは不調のときやタッチの悪いときなど、ゲームから消える時間帯があった。比江島がいればそれでも勝てたが、今季はそうはいかない。チームの勝敗をその双肩に担った天才シューターが、どんな進化を遂げるのか必見だ。

 3年目のBリーグ開幕直前。各チーム、各選手、それぞれがリーグ発展のためにたゆまぬ努力を続けている。それでも、この2年に比べて話題が少ないのは、ブームから文化へ、非日常から日常への変化のために必要な痛みだと信じたい。

 だが、再来年に迫った東京オリンピックの舞台に出場が叶うなら、今季Bリーグで活躍する選手が確実にその場に立っているだろう。2020年、JAPANのユニフォームをまとっているのは誰だ--。3年目のBリーグを観に行けば、きっと才能あふれるプレイヤーたちが覚醒する瞬間に立ち会えるはずだ。