「タイガーは終わった」 昨春、40歳を過ぎて4度目の腰の手術を行ない、5月末に処方された薬などの影響下で車を運転して逮捕されたタイガー・ウッズ。その際、朦朧とした彼の姿を見て、誰もが失望した。そして、ウッズの復活には悲観的な声が大勢を占…

「タイガーは終わった」

 昨春、40歳を過ぎて4度目の腰の手術を行ない、5月末に処方された薬などの影響下で車を運転して逮捕されたタイガー・ウッズ。その際、朦朧とした彼の姿を見て、誰もが失望した。そして、ウッズの復活には悲観的な声が大勢を占めた。

 しかし、今年1月にツアーに復帰したウッズは、3月のバルスパー選手権で2位タイ、続くアーノルド・パーマー招待でも5位タイと奮闘。その後、7月の全英オープンで優勝争いを演じて6位タイで終えると、8月の全米プロ選手権では2位に入って、着実に結果を残してきた。

 そうして、勝利への期待が高まるなか、フェデックスカップ・プレーオフ最終戦のツアー選手権で、見事な復活優勝を遂げた。

 頂点を極めた選手が、スキャンダルやケガなどによってどん底まで落ち、そこからまた這い上がる――ウッズの復活は、ゴルフ界だけでなく、世界のスポーツ史に残る”偉業”と言えるだろう。

 だが、ウッズのような華々しいカムバックは、稀(まれ)なこと。本来、かつて栄光を手にした天才が、その輝きを一度失ってしまうと、復活できずに終わることがほとんどだ。

 ゴルフ界で言えば、天才的なリカバリーショットで観客を魅了し、欧州ツアーの勝利数で歴代1位の記録を持つセベ・バレステロスや、ウッズと同世代で1998年にPGAツアーの賞金王となったデビッド・デュバルなどは、負傷などの影響もあって深刻なスランプに陥って、30代後半にはツアーの表舞台から姿を消した。

 では、なぜウッズは復活できたのか。

 さまざまな理由があると思うが、最大の要因は、コーチ選びに成功したことではないだろうか。

 その詳細を記す前に、”低迷したゴルファーがコーチに指導を依頼すること”について、少し触れておきたい。これには、ふた通りのパターンがある。

 ひとつは、”何かを変えたい”ときだ。

 自分でがむしゃらにがんばってみたが、それでもうまくいかず、「何かを変えなければいけない」と感じて、指導者に助けを求めるパターンである。

 ただしこの場合、自分はなぜ成績が低迷しているのか、その状態を打破するためには何をすべきなのか――そうした現状分析ができていないので、コーチの人選を適切に行なえていないことが多い。「実績があるコーチだから」とか、「知り合いで人柄がいいから」とか、技術的な部分でのマッチングを考えずに、依頼してしまいがちだからでもある。

 もうひとつのパターンは、”課題をクリアするために必要なものを取り入れるため”だ。

 この場合は、自らの現状分析を行なって、自分の進むべき道を理解し、そのためにコーチに習いたいことは何なのか――それが、明確であることが多い。そういう選手であれば、適切な指導者を選択できる。

 選手の成績の浮き沈みに関しては、一般的にコーチの指導力が問われることが多いが、実はそれ以上に、選手側の人材登用のスキルが、そのカギを握っているのだ。

 欧米には優れたコーチがたくさんおり、スイングだけでなく、ショートゲームやパッティングなど、分業制も進んでいる。また、コーチにもさまざまな種類があって、ひとつのメソッドを教えるタイプもいれば、選手に対して柔軟に対応し、さまざまなスイングモデルを提案するタイプもいる。

 つまり、選手が何をしたいのかによって、適切なコーチの人選は変わる。選手としては、たくさんの選択肢の中から、選手自身がコーチから何を教わる必要があるのか、それを明確にしてスタートを切らなければ、適切なコーチを選ぶことができないし、まして理想のゴールにはたどり着くことができない、ということだ。

 ウッズの話に戻そう。

 ウッズは、2014年にクリス・コモという、ほぼ無名のコーチと契約した。『ゴルフスイングコンサルタント』と名乗る彼は、全米中の有名なコーチたちに弟子入りしていて、さらに、テキサス女子大学のヤン・フー・クォン教授から学んだバイオメカニクス(生体力学)をゴルフのスイングに取り入れていた。

 無論、一部のプロゴルファーやメディアは、コモに懐疑的な目を向けていた。その論調の大半は以下のようなものだった。

 現在は落ちぶれているとはいえ、かつては世界のトップに君臨していたウッズである。その指導を、何の実績もなく、バイオメカニクスという訳のわからない話をする”若造”に任せていいのか、というものだ。

 だが、ウッズには「自分自身の持っている特性を生かした、体に負担をかけないスイングを確立したい」という明確なビジョンがあった。そのために必要なのが、コモであり、バイオメカニクスの知識だった。

 そして、ウッズは体に無理がなく、全盛期を超える飛距離の出るスイングを手に入れた。コモとは昨年の12月に契約を解消したが、スイングの土台となる部分は変わっていない。この契約解消は、ウッズがおよそ4年間、コモからバイオメカニクスを学んで、それが修了した”卒業”の意味合いが大きいのではないか。

 私は約2年にわたって、現地でウッズのスイングと球筋を実際に確認させてもらってきたが、ウッズとコモによる、終始一貫した合理的なスイングの構築――その過程を目の当たりにして、ウッズの復活を確信していた。



体に負担のかからないスイングを手に入れて復活を果たしたタイガー・ウッズ

 事実、見事に復活を果たしたウッズであるが、彼のようにすれば、誰にでも同様の結果がもたらされるわけではない。もしも、ウッズと同じように復活を期すプレーヤーがいるなら、まずはウッズのスイングを真似るのではなく、ウッズのスイング構築のプロセスを真似るべきだろう。

 今回のウッズの復活によって、改めてわかったことは、コーチ選びに大事なことは、名声や実績ではない、ということだ。

 もちろん、実績を残しているコーチはいいコーチである確率が高い。だからといって、ある選手、あるいはあなたにとって、必要な知識や気づきを与えてくれるコーチかどうかはわからない。

 重要なことは、コーチが与えてくれる知識やパフォーマンスによって、自らのスキルが高められるかどうか。それには何より、自らが最適な人材を見分け、採用することが成功のカギとなる。