WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス 2018年9月23日――この日は、ゴルフ界にとって”歴史的なカムバック”の日となった。 タイガー・ウッズ(アメリカ)が、ツアー選手権(9月20日~23日/…

WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 2018年9月23日――この日は、ゴルフ界にとって”歴史的なカムバック”の日となった。

 タイガー・ウッズ(アメリカ)が、ツアー選手権(9月20日~23日/ジョージア州)で1876日ぶりにツアー優勝。米ツアー通算80勝目を挙げたのだ。



ツアー選手権で見事な復活Vを飾ったタイガー・ウッズ

 ゴルフ界の”スパースター”は、かつて圧倒的な強さを誇り、世界ランキング1位の座にずっと君臨していた。しかし、そのランキングも一時、1193位まで落ちた。

 昨年4月に4度目の腰の手術を受けたあとも、ウッズは「痛みなしに歩くことも、座ることもできなかった。このまま痛みが続いたら、どうなるのか……。これからの自分の人生に不安を感じた」という。おそらく、世界トップレベルで戦えるゴルフを取り戻し、そしてその舞台で勝利を挙げることなど、1年前には夢物語だったに違いない。

 そのウッズが、ツアーに復帰したのは今年の1月だった。そのときから、復帰してもすぐに戦列を離れてしまうという、ここ数年の状態とは明らかに違った。プレーする姿から悲壮感が漂ってくることはなかった。

 その後、3月のバルスパー選手権で優勝争いを演じて2位に入ると、翌週のアーノルド・パーマー招待でも5位と健闘。世界トップレベルでも、十分に戦えることを証明して見せた。

 さらに7月以降は、メジャーの熱戦でも上位争いに加わった。全英オープンでは、最終的に6位だったものの、最終日には一時トップに立つ奮闘を見せた。

 8月のメジャー最終戦、全米プロ選手権でもブルックス・ケプカ(アメリカ)らと優勝を争って、2位という好成績を収めた。勝ったケプカに1打差まで迫るシーンもあって、コースを埋めた大ギャラリーはもちろん、テレビ中継を見ていた多くのファンを熱狂させた。

 ただ一方で、あと一歩で勝利を逃してきたため、「やはりウッズはもう勝てないのか……」という声も囁かれていた。

 そんな最中、ついにウッズは勝利を挙げた。はたして、その勝因はどこにあったのだろうか?

 大きな要因は、2つある。

 数字を見れば明らかだが、ティーショットとパッティングだ。ドライバーとパターと言ってもいいかもしれない。

 久しぶりの勝利を飾ったあと、「バラバラだったゲームがようやくひとつになった」とウッズは語った。ツアー選手権におけるスタッツでは、それがどういうプレーだったのか、明確に示されていた。

 まずは、ティーショット。フェアウェーキープ率が4日間を通じて64.3%と、大会3位の記録を残すほど非常に安定していたのだ。

 それを支えていたのは、フェデックスカップ・プレーオフ第2戦目から使用し始めたドライバーだ。シャフトを替えて、安定性を重視したことが大きかった。

 実際、全英オープンや全米プロでは、ショットの安定性を欠いていた。大事なところでショットが左右にブレていたことが、勝ち切れない原因のひとつになっていた。

 プレーオフ初戦のザ・ノーザントラストで、いくつかのシャフトをテスト。その結果、以前に使っていた三菱ケミカルのグラファイトシャフトを選択し、ウッズも「使い慣れたものに戻したことで、非常によくなった」と手応えを口にしていた。

 さらに、ウッズの攻め方にも大きな変化があった。

 ツアーに復帰して以来、ウッズは「若手らと遜色がないほど飛ばせる」と飛距離にも自信を見せていたが、ウッズの元スイングコーチであるブッチ・ハーモン氏は「(ウッズは)飛ばそうとするから、安定感に欠けている」と指摘していた。

 それが、ツアー選手権でのウッズは、安定性を重視したスイングで、力いっぱい振ることが少なかった。最終日に同組だったロリー・マキロイ(北アイルランド)と同じドライバーを使用し、30ヤード近く置いていかれるホールもあったが、ウッズはその差を気にすることなく、淡々とプレーしていた。

 反対に、マキロイのティーショットは不安定だった。最終日にフェアウェーをとらえたのは、わずか3回。そのため、マキロイはウッズを追い上げることができなかった。

 同コースでは、ティーショットを安定させることがいかに重要か、よくわかる対比となった。

 もうひとつの勝因は、パッティングだ。

 ウッズは、7月のクイッケンローンズ・ナショナルからマレット型のパターを使用。また、プレーオフ2戦目のデルテクノロジーズ選手権ではピン型のパターを使用して、それぞれ好感触を得ていた。しかし、プレーオフ3戦目のBMW選手権では、メジャー13勝を挙げ、長年使用してきた『スコッティ・キャメロン』に戻した。

 この変遷を見ると、試行錯誤を経て元に戻っているため、一概にパターのおかげ、とは言えないかもしれないが、ツアー選手権では使い慣れたパターで、パットを決めた距離が大会3位という好記録を残した。3日目には23パットで収めるなど、パッティングの貢献度も4日間トータルで大会2位だった。

 ウッズは今季、「ショットは、トップの戦いができている。あとは、グリーン上で決められれば……」と、何度も嘆いていたが、やっと「思った転がりで打てた」と、勝負どころのパットをことごとく沈めて、勝利を呼び込んだのだ。

 実はもうひとつ、勝因があった。

 それは、バンカーからのセーブ率だ。ツアー選手権では、4日間でバンカーに計9回入れているが、そのうち7回はパー以上をセーブ。これは、大会3位の記録だった。

 聞けば、ウッズは大会前、キャディーのジョー・ラカバに「特に調整しておくべきことは何だろう?」と問いかけたという。すると、ラカバは「バンカーショット」と答えたそうだ。

 6位でフィニッシュしたBMW選手権では、セーブ率が25%。「バンカーから(のショットで)セーブができていたら、タイガーは勝てる試合だった」とラカバは言う。

 2位に2打差で迎えた最終日の18番(パー5)。ウッズの勝利をこの目で見届けようと、大勢のファンがフェアウェーになだれ込んだ。

 第2打をバンカーに入れたウッズ。だが、3打目のバンカーショットを約2mにつけると、ウッズの表情からようやく笑みがこぼれた。

「最後まで何が起こるか、わからなかったからね。でも、バンカーからグリーンに乗せて、あれで勝てたと確信できた」

 バーディーパットは入らなかったものの、勝利を確実にしたのは、キャディーの助言で「最後に調整した」バンカーショットだったのだ。

 勝利の要因は、意外にもコンサバティブ。しかし、それこそがウッズの強さを引き出す起因となった。

 フェデックスカップ2位でシーズンを終え、世界ランキングは13位へと浮上したウッズ。早くも来季のマスターズでの、優勝候補の1番手に挙げられている。

 本当の意味でのウッズの復活劇は、ここから始まるのかもしれない。