バルボラ・ストリコバが咄嗟に打ち返したバックボレーのボールがネットにかかり、勝利が決まった瞬間、加藤未唯と二宮真琴は、両手を翼のようにいっぱいに広げ、思いきり喜びを爆発させてから抱き合った――。日本人ペアとしてPPOで初優勝を果たした…

 バルボラ・ストリコバが咄嗟に打ち返したバックボレーのボールがネットにかかり、勝利が決まった瞬間、加藤未唯と二宮真琴は、両手を翼のようにいっぱいに広げ、思いきり喜びを爆発させてから抱き合った――。



日本人ペアとしてPPOで初優勝を果たした、左から加藤未唯と二宮真琴

 東レ パンパシフィック オープンテニス(以下東レPPO)のダブルス決勝で、ノーシードから勝ち上がった加藤(WTAダブルスランキング54位、大会時、以下同)/二宮(27位)組は、第1シードのアンドレア・セスティニ フラバチコバ(6位、チェコ)/ストリコバ(12位、チェコ)組を、6-4、6-4で破り見事初優勝を飾った。大会35年目にして初めて日本人ペアによる優勝を実現したのだ。

 2018年東レPPOでは、USオープンでグランドスラム初優勝をした大坂なおみの凱旋試合が行なわれ、シングルス準優勝で大いに沸いたが、このダブルス優勝もすばらしい快挙となった。

 共に24歳の加藤と二宮も、すでにWTAツアーでのダブルス優勝はインターナショナルレベルの大会で1回ずつあるが、それぞれ通算2度目のこのタイトルはその上のグレードであるプレミアレベルでの初優勝となった。そして、”みゆまこ”としてのうれしいツアー初タイトルでもあった。

「すごくうれしいですし、プレミア大会でのタイトルなので、よりうれしさが増します。2人での1勝目なので、これから、2、3と重ねていきたい」(加藤)

「私は、WTAのタイトルを取ったのが、2、3年前(2016年ジャパンウィメンズオープン)が初めてで、それ以来なかなかタイトルを取れませんでした。今回、プレミアというのもうれしいですけど、こうやって2人でタイトルを取れたことがすごくうれしい。今後の自信にもなりますし、つながっていけばと思います」(二宮)

 加藤/二宮組は、東レPPOの1週前に開催されていたWTA広島大会では、惜しくも準優勝に終わっていたが、「知り合いに、広島か東京で優勝すると公言した」という加藤は、今週こそという思いが強く、二宮は、昨年の東レPPO準決勝で負けた雪辱を果たしたいという思いがあった。

 決勝では第1シードのペアとの対戦になった。フラバチコバは、グランドスラムのダブルスで2勝を挙げ、ダブルスランキングは最高3位まで上がったことのある実力者。ストリコバは、東レPPOのダブルスで2010年と2016年に優勝しており、ダブルスランキングの最高は10位で、経験や実績は、加藤/二宮組を上回る難敵だった。

 だが、プレーが始まると、リズムよくサービスゲームをキープしていく加藤と、前衛でしっかりポーチを決めていこうとした二宮のコンビネーションがすばらしく、第1シードペアのテニスを上回った。

 第1セット第6ゲームの加藤のサービスで0-40のピンチがあったが、デュースに持ち込んで、ディサイディングポイント(WTAツアーでは、デュースになったら、レシーバーがサイドを選択して、1ポイントでゲームを決める)では、二宮がバッククロスへのポーチを決めて難局を乗り切ってみせた。

 快進撃の要因として、リターンの時に入るサイドの変更が挙げられる。広島から変更し、東京でもデュースサイド(コートの右側)に二宮、アドサイドに加藤が入った。USオープンまでは逆パターンでプレーしていて、しかも2人共にどちらかといえばフォアハンドストロークの方が強力だが、この変更にはどんな狙いがあったのだろうか。

「真琴のよさを引き出すには、フォア(デュース)サイドに入った方がいいだろうなぁと頭では思っていました。やるのって結構勇気がいるので、とりあえずちょっと時間が空く時にしようと。US(オープン)が終わって少し時間が空いたので、(日本の)2大会でどう? と言ったのがきっかけでした。それがうまくいってよかったです」(加藤)

「もともとフォアサイドが多かったので、感覚的にはやりやすい。私もサイドが変わることはちょっと不安があったんです。けど、未唯ちゃんのバックハンドもすごくいいので、やってみて思ったよりもハマっているなと思いました」(二宮)

 今後もタイトルを勝ち取ったこのフォーメーションで戦っていく予定だ。

 二宮は、ローランギャロス(全仏オープン)の女子ダブルスで準優勝した直後に、ダブルスに専念する大きな決断を下したが、その後のグラスシーズンや夏の北米ハードコートシーズンで思うような結果を出せずにいた。そして、固定ペアとして組めるダブルスパートナーも探している最中で、そんなときに加藤の存在は大きかった。

「ケガもあって、ちょっと結果が出なくて、落ち込んではいたんです。けど、加藤さんとは、まだそんなに回数多く組んでいなかったので、今だんだん合ってきて自信もついてきた。私が一方的に思っているだけかもしれないですけど、未唯ちゃんとはこれからも組んでいきたい」

 今季だけではなく、来季以降のツアーでの戦いを見据えた二宮の申し出に、「現役の間はついていきたいと思います」と加藤は快諾。単複を戦う加藤と、ダブルスに専念している二宮とでは、当然スケジューリングが異なってくるだろうが、グランドスラムも含めて二人で戦う姿を今後は多く見ることができそうだ。もちろん2020年東京オリンピックを視野に入れてのことでもある。

「真琴と一緒に東京オリンピックでメダルと取りたい。グランドスラムでも優勝できるよう、2人で上を目指していきたい」(加藤)

「まだまだこれからたくさん課題もあって直さないといけないところがある。そこはさらに磨いて、ここ(東京)だけではなくて、グランドスラムや他の大会でもコンスタントに結果を残していけるようにもっと頑張りたい」(二宮)

 大会後に、二宮は22位に、加藤は43位にダブルスのランキングをそれぞれ上げ、二宮は、日本女子でダブルス最上位選手となった。

 まだ実現したことのないグランドスラムでの日本女子ペアによる優勝や、東京オリンピックでのメダル獲得は、この2人ならやってのけるのではないか。そんな予感を抱かせる東京での初優勝だった。