堀奈津佳(26歳)は今、どうしているのだろうか?――と、ふと思い出すときがある。 プロ3年目の2013年にツアー2勝を飾って一躍ブレイクしたが、ツアー通算3勝目を目指した2014年以降は、低迷の一途をたどっていった。 2014年は賞金…

 堀奈津佳(26歳)は今、どうしているのだろうか?――と、ふと思い出すときがある。

 プロ3年目の2013年にツアー2勝を飾って一躍ブレイクしたが、ツアー通算3勝目を目指した2014年以降は、低迷の一途をたどっていった。

 2014年は賞金ランキング44位となって、どうにかシード権を確保したものの、翌2015年には30試合に出場して、23試合で予選落ち(プラス1試合で途中棄権)。シードを喪失し、同年のファイナルQT(※)でも99位に終わって、2016年のツアー出場権を逃した。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。現在はファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの『リランキング』までの大半の試合には出場できる。

 そして、2016年は推薦出場の8試合すべてで予選落ちを喫した。続く2017年も8試合に出場したが、一度も予選を突破することができず、2年連続で獲得賞金ゼロという屈辱を味わった。

 迎えた今季、QTランキング237位という立場にあって、出場試合は下部ツアーのステップ・アップ・ツアーでも限られた状況にある。無論、レギュラーツアーの出場権はない。

 それでも今季、大会主催者から推薦を受けて、ここまで7試合に出場。4月のスタジオアリス女子オープンでは、久しぶりに予選を突破して59位と結果を残したが、他の6試合は予選落ちという憂き目にあっている。



「復活」を目指して、懸命に戦いを続けている堀奈津佳

 再びスポットライトを浴びる日は、はたして来るのか。堀は今、きっともどかしい日々を過ごしているに違いない――と、勝手な想像を膨らませていたが、予想に反して、彼女の声は意外にも明るかった。

「ツイてなかったりして、なかなか結果には結びつかないんですけど。まあでも、少しずつよくなっているのかな、と思います」

 開口一番、彼女はそう言って笑った。

 具体的には、どのような状態なのだろうか。

「ショットがうまくいっていない時期が長く続いていたので、そこが一番課題にしているところです。結構、左右に曲がることが多かったですけど、今年は少しずつよくなってきています。

 でも、それは昨年から同じで、ショットが少しよくなったからといって、試合ですべてうまくいく、というわけではないですよね。やはり、ゲームの中での組み立てが大事なので……。結局、試合も出られたり、出られなかったりですから、そうなると”結果(を出す)”というのも難しくなってきますよね」

 実戦の場がなければ、現在の自分の力を試し、推し量ることはできない。課題を見つけ、それを修正したり、克服したりするためには、試合を積み重ねていくことが重要になる。

 だが、今の堀にはその機会があまりにも少ない。練習を繰り返すばかりでは、さすがに限界がある。

 試合に出場することを優先に考えた場合、日本を離れることもひとつの手だろう。実際、堀は昨年、中国ツアーのQTを受けて出場権を獲得。今年5月のルコック・スポルティフ北京レディスクラシックと、オリエントマスターズ武漢チャレンジの試合に出場した。

 結果は2試合とも予選落ちに終わったが、初の中国ツアーの挑戦が、彼女にとっていい刺激になったことは間違いない。堀が言う。

「『試合に出たい』という強い気落ちがあったから、中国に行きました。他にも日本の選手が出場していたのですが、中国のツアーは想像以上にしっかりしていて、ゴルフ場の練習環境もよくて、日本と変わらなかったです。(日本で)試合に出られないなかで、中国で試合に出られたというのは、私の中で本当に大きかったです。それと……」

 堀はひと呼吸置いて、言葉をつなげた。

「中国に行って改めて感じたのは、日本ツアーで戦っている韓国人選手や海外の選手の”すごさ”ですね。日本の環境がいくらいいと言っても、彼女たちにとっては”海外”なので、慣れないことのほうが多いだろうし、そのなかでやり続けている人は、やっぱりすごいんだなって、思いましたね。

 私はまだ2試合しか出ていませんが、仮に30試合を中国で戦うとなると、どうなんだろう……やれるだろうかって(不安に思った)。それができるのは、本当にすごいと思います」

 中国に行って、新たな影響を受けた堀。海外で努力する選手たちの姿を見て、自分を見つめ直すいい機会にもなったはずだ。それらが、自らのゴルフをよくする、何かしらのきっかけになれば、このうえないことだろう。

 今季はもうひとつ、彼女の中で「もう一度勝ちたい」と思わせる出来事があった。2013年に、堀と同じく年間2勝を飾った比嘉真美子の存在だ。

 堀とはひと学年下になる比嘉だが、同じ年に2勝した者同士、ふたりはそろって脚光を浴びた。

 だが、比嘉も期待されながら、それ以降は低迷した。2014年は堀と同様、賞金ランキング45位で何とかシード権を得るが、2015年には17試合連続を含めて、年間32試合に出場して23試合で予選落ちを喫した。そして、2016年もシーズン序盤から予選落ちを重ねて、どん底の状態にあった。

 しかし、比嘉は2016年の終盤に復調気配を見せて、2017年には4年ぶりにツアー優勝を飾って完全復活。さらに今季も、ツアー通算4勝目を挙げ、賞金ランキングも4位につけて、賞金女王争いまで演じている。

 そんな比嘉の姿を見て、堀が何も感じないわけがない。

「そこまで意識はしていませんが、やっぱり真美子の活躍は、自分にとっても励みになります。(比嘉も)悪かった時期があって、今はそれだけの位置まで上がってきたということは、途方に暮れるような努力をしてきたからだと思うんです。人には見せていないだけで。たぶん、そう思います。

 だから、真美子ががんばっている姿を見ると、自分もがんばらなきゃっていうか、『がんばろう!』って思いますね。また、自分も”そこ”に戻りたいって、そういう気持ちがあるから、今もこうしてゴルフを続けているんだと思います。私も、もう1回勝ちたいです」

「勝ちたい」という気持ちが失せない限り、堀はどんな状況にあっても挑戦を続ける覚悟でいる。優勝という栄冠を手にして頂点に立った者だからこそ、再びその場に立てることを信じて戦っている。

 今季、堀に残されたレギュラーツアーは、推薦で出場する11月の1試合だという。その前には当面の目標となるQT、そのセカンドが10月31日から始まる。

「気持ち的にはあまり焦ってはいないんです。もう焦っても同じですから。結果が出ないことに対しては、何も思ってないわけではないですけど、そんなにつらいとかはありません。落ち込んでいる暇はないですし、今やるべきことをひとつずつこなしていくだけです。とにかく、セカンドQTに向けてやるだけ、ですね。それ以外はありません」

 再びツアーの出場権を得て、自らが優勝する姿を思い描きながら、練習とトレーニングを毎日黙々と続けている堀。それを「つらい」と思わずにがんばれるのは、「まだ、私なんかを応援してくれる人がいるからです」と言った。

「会場に来てくれるファンや応援してくれる人が、まだ私にはいるんだって。それで、がんばれる。こんなゴルフしかできなくて(申し訳ない)って気持ちもあるんですけど、それでもやっぱり、現場まで応援に来てくれる人がいるのでがんばりたい。

『ファンのために』っていうと、ありきたりに聞こえるかもしれませんが、成績が悪くなってからもずっと応援してくれるんですよ。ありがたくないですか? それに、自分のためにがんばって結果が出たら、そういう方々もきっと喜んでくれると思います。応援してくれる人がひとりになっても、そういう人がいる限りはがんばっていきたいです」

 復活のときは、まだ遠いかもしれない。それでも堀は、腐ったり、投げやりになったりしないで、日々努力を続けている。

 それが実を結び、彼女が満面の笑みを浮かべる日が来ることを今は願うばかりだ。その瞬間、一緒に喜んでくれるファンは、決してひとりだけではないはずである。