51歳の三浦知良(横浜FC)は別格としても、最近では40代で現役を続けている選手が珍しくないなか、世界トップレベル…
51歳の三浦知良(横浜FC)は別格としても、最近では40代で現役を続けている選手が珍しくないなか、世界トップレベルで活躍していた選手が30代で現役引退を決断すると聞くと、少なからずもったいないなという印象を受ける。
ただその一方で、世界的に見ると、40代後半の監督がもはやそれほど若くはないという現状を考えると、彼のような類まれなリーダーシップとカリスマ性を備えた人物が、若くして監督になることは自然のようにも感じる。
スティーブン・ジェラードのことである。

レンジャーズ指揮官としてヨーロッパの舞台に監督デビューしたジェラード
サッカーファンなら、ジェラードの名前を知らない人はいないだろう。リバプールではリーグ戦500試合超、イングランド代表でも国際Aマッチ100試合超に出場し、いずれのチームでもキャプテンを務めた、まさにレジェンド級の選手である。
ジェラードはユース時代からリバプール一筋でプレーし続け、2015年にMLSのLAギャラクシーへ移籍。2016年シーズンを最後に、36歳でスパイクを脱いだ。
現役引退後は、古巣リバプールでU-18のコーチ、監督を歴任し、38歳となった今年から、スコットランド・プレミアリーグの名門、レンジャーズの監督を務めている。
スコットランド・プレミアリーグでは、2勝1敗2分けの勝ち点8で4位(第5節終了時)と少々苦労しているが、UEFAヨーロッパリーグでは実に7月の1次予選から勝ち上がり、見事に本選への出場権を獲得。9月20日にグループリーグ初戦を迎え、敵地でビジャレアル(スペイン)と対戦した。
トップチームの監督就任からわずか4カ月ほどにして、早くも”ヨーロッパデビュー”である。
デビュー戦の結果は、2-2の引き分け。記念すべき試合を勝利で飾ることはできなかったが、試合内容を考えれば、勝ちに等しいアウェーでの貴重な勝ち点1だっただろう。
レンジャーズは試合開始直後、1分経たずに、ビジャレアルのFWカルロス・バッカに先制ゴールを許した。その後も苦しい展開を強いられたレンジャーズは、ほとんど攻め手を見出せず、前半のシュート数はゼロである。
だが、新指揮官が「ストロングパフォーマンスを見せた」と振り返った後半は、次第にカウンターからチャンスを作れるようになっていく。
すると67分、右サイドバックのキャプテン、DFジェイムス・タバーンアーが高い位置で奪ったボールをうまくつなぎ、MFスコット・アーフィールドが同点ゴール。直後の69分に再びリードを許したが、76分に左サイドをスピードのある攻めで破り、最後はFWカイル・ラファーティが決め、またしても追いついた。
ビジャレアルから見れば、「あまりに早い時間に先制したことで、過信が生まれた。追加点のチャンスもあり、2点目を取っていれば勝負を決められたのに、ゴールを奪うどころか、与えてしまった」(ハビエル・カジェハ監督)という、もったいない試合である。
しかし、それだけにレンジャーズにとっては、大きな勝ち点1だった。
ジェラードは早すぎる失点について、淡々と「国際レベルのゴールだった。バッカは大きな舞台での経験もあるので、驚きはなかった」。選手たちは浮足立っても不思議はない状況に陥ったが、「選手たちは早い時間に先制されても、自分たちを信じてゲームに戻ることができた。いいプレーができ、満足している」と振り返った。
ただし、一度同点に追いついた直後の失点については、辛口だった。数々の修羅場を経験してきた、かつての”闘将”らしく、「もっと落ち着いてゲームを進めなければいけなかった。彼らには経験が必要だった」。12月まで続くグループリーグの突破を目標に見据えるからこそ、「タフなグループなので、今日の後半のように自信を持ってプレーすることが必要だ」と厳しく語る。
この試合に関して言えば、選手個々の能力に加え、チームとしての戦い方を全員が共有できているという点でも、明らかにビジャレアルが上だった。
レンジャーズの選手は、無闇にロングボールに頼ることはせず、パスをつないで攻撃を組み立てようとするものの、足を止めてボールを見てしまう場面が多く、効果的なパスコースを作ることがなかなかできなかった。
しかし、クラブの破産というどん底を経験し、まだまだ復活途上にあるチームだからこそ、ジェラードの下、彼らがどう変わっていくのかは、注目に値する。
また、この試合に途中出場し、2点目のゴールの起点となった18歳のMFグレン・ミドルトンをはじめ、レンジャーズには若い選手が数多い。”ジェラード・イズム”を注入されていく彼らの成長も楽しみだ。
試合後には、自らピッチ内に足を運び、自チームの選手を出迎え、サポーターの声援にも応えたばかりでなく、ビジャレアルの選手たちとも一人ひとり握手を交わした。
バッカやサンティ・カソルラがひと言ふた言、親しげに言葉を交わす一方で、なかには、入念に手の汗をユニフォームで拭ってから、差し出された右手を握る選手がいたのは微笑ましかった。
記者会見に現れ、目の前で見たジェラードは、顔も体形も現役時代からほとんど変わっていなかった。そんな彼がすでに監督としてELを戦っていることに不思議な感覚もあったが、とにもかくにも38歳の新米監督は、自身のキャリアに新たな1ページを記したのである。