WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス 悪天候によって、最終ラウンドが月曜日に順延されたフェデックスカップ・プレーオフ第3戦のBMW選手権。小雨が振り続き、泥だらけのコースで行なわれた激戦は、通算20アンダーで並んだキ…

WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 悪天候によって、最終ラウンドが月曜日に順延されたフェデックスカップ・プレーオフ第3戦のBMW選手権。小雨が振り続き、泥だらけのコースで行なわれた激戦は、通算20アンダーで並んだキーガン・ブラドリー(アメリカ)とジャスティン・ローズ(イングランド)によるプレーオフへと突入した。

 その1ホール目、18番パー4でボギーを喫したローズを尻目に、ブラドリーはきっちりパーを奪って優勝。およそ60cmのパーパットを沈めると、ブラドリーは両手を力強く天に向かって突き上げた。その際、本当にうれしそうな笑顔を見せた彼の顔がとても印象的だった。



BMW選手権で6年ぶりの優勝を飾ったキーガン・ブラドリー

 今年で32歳となったブラドリー。今回の勝利は2012年の世界選手権シリーズ(WGC)ブリヂストン招待以来、実に6シーズンぶりのことだった。つらい日々を過ごしてきたその間に想いを馳せて、ブラドリーはこう語った。

「この6年間は、どれほど苦しい時間を過ごしてきただろう。長尺パターからの移行は、思っていたよりもずっと大変なことだった……」

 ブラドリーがブレイクしたのは、2011年。ルーキーシーズンのことだ。5月にバイロン・ネルソン選手権でツアー初勝利を挙げると、8月にはメジャー最終戦の全米プロ選手権をも制覇。ツアールーキーにして、メジャー優勝を飾る快挙を遂げた。

 だが、この勝利は米ゴルフ界にとって衝撃的な出来事でもあった。というのも、ブラドリーが長尺パターを使用していたからだ。

 そうした選手がメジャーチャンピオンになるのは初めてのことだった。それまでは長きにわたって、「長尺パターではメジャーで勝てない」というのが、ゴルフ界の通説となっていたのだ。

 ゆえに、それ以前は長尺パターや、体の一部を支点とするアンカーリングの使用が大きく取り沙汰されることはなかったが、このブラドリーの勝利をきっかけにして風向きが変わり始める。なぜか、長尺パターやアンカーリングを使用する選手が、次々にメジャー制覇を成し遂げていったからだ。

 2012年、ウェブ・シンプソン(アメリカ)が全米オープンを制し、同年の全英オープンではアーニー・エルス(南アフリカ)が長尺パターを使用して優勝した。

 その結果、その秋にはR&A(英国ゴルフ協会)とUSGA(全米ゴルフ協会)が、”アンカーリング禁止”について話し合うようになるが、さらにその後、2013年にはアダム・スコット(オーストラリア)がマスターズを制してメジャー初優勝を果たす。

 ブラドリーが全米プロを勝ってから、メジャー6大会中、4人が長尺パターやアンカーリングを使用して頂点に立った。そうして、ついに”アンカーリング禁止”が決定。2016年1月より、そのルールが施行された。

 当然、それまでアンカーリングで打っていた選手たちは、変更を余儀なくされることになる。そうした状況にあって、ブラドリーも出口の見えない”迷路”にはまっていったという。

「パターを替えることは、本当に大変だった。まるで、はしごを外されたかのように(調子が)落ちていったからね。そんな状態でライダーカップやプレジデンツカップを戦わなければいけないことがつらかった。通常の長さのパターを持つと、どうやって打っていいのか、わからなくなってしまった……」

 パッティングの不振により、ブラドリーはショットまでおかしくなってしまった。おかげで、2016年は11試合で予選落ちを喫した。

 そんなブラドリーが試行錯誤の末にたどり着いたのは、通常のパターよりも長い中尺パターを腕に沿わせて打つ、”アームロック”というスタイルだった。

 それは、同じくパターの変更を強いられたシンプソンとほぼ同じスタイル。シンプソンも長尺パターからの移行によって勝利から遠ざかっていたが、同スタイルを確立して今年5月、「第5のメジャー」と呼ばれるプレーヤーズ選手権で4年ぶりのツアー優勝を飾った。

 こうして、今年はアンカーリングから新たなスタイルを見いだした選手たちが、ようやく復活の兆しを見せ始めている。ブラドリーが語る。

「シンプソンの打ち方は、ずいぶんと勉強になった。そして、彼のプレーヤーズ選手権での勝利で、この打ち方に大きな自信を得ることができた」

 アダム・スコットも勝利にはまだ届かないが、一時の低迷からは脱出。全米プロで3位となって、プレーオフ初戦のザ・ノーザントラストでも5位と健闘している。

 ちなみに、アダム・スコットは一時、短いパターでプレーしていたが、現在は長尺と短いパターの2本をバックに入れて戦っている。基本的に「距離の短いパットは長尺パター、長いパットは短いパターと使い分けている」と話すが、実際には試合で短いパターを使用することはほとんどなく、長尺パターを使っている。

 アダム・スコットのパッティングスタイルは、以前とほとんど変わらない。ただし、グリップの先を体につけないで打っている。このスタイルが徐々に馴染んできて、上位争いに顔を連ねるようになった。

 まもなく”アンカーリング禁止”となって、2年の月日が経過する。その間、苦悩の日々を過ごしてきた選手たちも、それぞれ試行錯誤を繰り返してきた結果、やっと自分のスタイルを見つけて”復活”を遂げている――そういう時期を今、迎えているのかもしれない。