サッカーで言えばメッシ、クリスティアーノ・ロナウド級の「ラグビー界が誇る世界的スーパースター」が、ついに日本デビューを果たした。 9月14日にトップリーグ第3節が行なわれ、秩父宮ラグビー場では昨年の王者サントリーサンゴリアスと神戸製鋼…

 サッカーで言えばメッシ、クリスティアーノ・ロナウド級の「ラグビー界が誇る世界的スーパースター」が、ついに日本デビューを果たした。

 9月14日にトップリーグ第3節が行なわれ、秩父宮ラグビー場では昨年の王者サントリーサンゴリアスと神戸製鋼コベルコスティーラーズが激突。神戸製鋼は先週、札幌での試合が北海道胆振(いぶり)東部地震の影響で延期となり、この試合が2試合目である。


ついにトップリーグデビューを果たした

「レジェンド」ダン・カーター

 ニュージーランド代表で112キャップを誇る「DC」ことSO(スタンドオフ)ダン・カーターは、赤いジャージの10番を背負って登場した。トップリーグ16年の歴史のなかでも随一のレジェンドの初お披露目とあって、前売り券の指定席は完売。雨予報の金曜日夜の試合にもかかわらず、1万8千人近くの観客が集まった。

 カーターはオールブラックスの10番としてワールドカップに4度出場し、2011年のニュージーランド大会と2015年のイングランド大会でニュージーランドの2連覇に貢献した司令塔だ。代表からは引退しているが、現在もテストマッチ世界歴代最高1598得点の記録保持者である。また、スーパーラグビーでもクルセイダーズで3度優勝し、2004年と2006年には年間最優秀選手に選出された。今でも2015年までプレーしたスーパーラグビーの最多記録得点(1708点)を保持している。

 さらに、カーターは世界最優秀選手賞の候補に過去5回ノミネートされ、そのうち2005年、2012年、2015年で同賞を受賞。計3回の受賞は、すでに引退した元チームメイトのオールブラックスの主将だったFL(フランカー)リッチー・マコウと並んで最多タイだ。このように、今年36歳のカーターは現役選手ながら、すでにラグビー界のレジェンドである。

 試合早々、カーターが左足でタッチキックを蹴るだけで、ただタックルにいくだけで、秩父宮のスタンドは大いに沸いた。そして開始4分、さっそくゴールキックのチャンスを得る。だが、カーターもやはり人の子なのか、そのキックは残念ながら外してしまう。

「16年もプロを経験していて緊張するのかと思うかもしれませんが、4ヵ月ぶりの試合だったこともあって緊張しました。最初のキックはプレッシャーを感じた。今まで数千回、キックを成功していますし、このキックが入れば自信がつくと思いましたが、思うとおりにはいかなかった」

 ただ、さすがレジェンドである。カーターはその直後、世界中のラグビーファンを魅了してきたプレーを披露する。8分には得意の左足でPG(ペナルティゴール)を決め、さらに15-3とで迎えた前半22分には右タッチライン際を抜け出したWTB(ウイング)山下楽平をしっかりとフォローし、インゴール右中間に飛び込むトライをサポートした。

「通常、自信がつくまでは数試合かかりますが、今日スキルを出せたことに自分でも少し驚いています。ただ、それができたのは、今までやってきたハードワークと自分の経験が生かされたのではないかと。また、チームメイトも私がやりやすいような状況を作り出してくれた。自分の仕事ができたことがうれしい」

 ゲームキャプテンを務めた神戸製鋼のFL橋本大輝も、レジェンドのプレーに驚きを隠せない。

「カーターがいいゲーム運びをしてくれたので、いい流れを作ってくれた。(カーターとの)初めての試合は不安だったが、試合開始後、5分、10分すると、すぐにその不安はなくなった。オールブラックスは伊達じゃないなと思いました(笑)」

 このトライの後、カーターはすっかり落ち着きを見せて、パス、キック、ランと安定感あるプレーでゲームをコントロールしていく。周りの選手も彼のプレーに引っ張られるように、いいプレーを見せるようになっていった。この日はサントリーから移籍した元日本代表SH(スクラムハーフ)日和佐篤(ひわさ・あつし)も先発しており、ハーフ団が安定しているとチームのパフォーマンスは上がっていくものだ。

 元日本代表の指揮官エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(現イングランド代表HC)はかつて、「カーターは80分間、安定したプレーを続けることができ、一度だけ、ひらめきのあるプレーをする。だから効果的なのだ」と評していた。その言葉を裏づけるようなプレーがあったのは、24分のことだ。

 中盤でパスを受けたカーターは、左足のアウトサイドで相手ディフェンスの裏にショートパントを放つ。そのボールに元豪州代表CTB(センター)アダム・アシュリークーパーが反応し、それをキャッチしてゲイン。相手のペナルティを誘うことに成功し、PGをカーターが冷静に決めて23-3と点差を広げた。このひらめきのあるプレーによって、その後サントリーのディフェンスがカーターをマークしづらくなったのは間違いない。

 後半から雨が降り出したが、カーターは80分間プレーを続けた。結果、神戸製鋼は36-20でサントリーに勝利。まだコンディションは100%ではなかったかもしれないが、パス、ラン、キックと高いレベルのパフォーマンスはまさに圧巻だった。

 カーターのプレーに対し、負けたサントリーの元日本代表SO沢木敬介監督も賛辞を送る。

「すばらしい教科書が日本に来た。それは(日本ラグビー界にとって)すごくプラスです。ラグビーをやっているチビっ子全員がお手本になるプレーを見せてくれるのですから。スペースに対する判断がすごく速くて、キック、パス、ラン……すべての判断がすばらしい」

 カーターは1トライ、2ゴール、4PGで計21得点を挙げてMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選出された。「チームメイトが非常によくやってくれましたので、自分も自分の役割を果たし、すんなりとプレーをすることができた。MOMは誰が選出されてもおかしくない。チームメイトに感謝を伝えたい」。

 カーターはプレーだけでなく、コメントまでも格好いい。

 また、世界的司令塔は、ラグビーの普及についても貢献する心づもりだという。

「日本のラグビー界に貢献したい。ラグビーというスポーツは、本当に美しいスポーツです。そのスポーツがさらに成長できるようにやっていきたい」

 カーターのInstagramのフォロワー数は、なんと87万人。彼がトップリーグでも活躍すれば、日本でのラグビーの盛り上がりを世界にアピールすることにもつながるだろう。

 こうして日本のスポーツファン、そして世界中のラグビーファンの耳目を集めた「カーター劇場」のプロローグは幕を閉じた。カーターがこれからも高いパフォーマンスを続ければ、神戸製鋼の15シーズンぶりの優勝も見えてくるだろう。カーターも「ぜひとも新しい歴史を創りたい」と意気込んでいる。昨年の王者サントリーを撃破した神戸製鋼とダン・カーターから今後も目が離せない。