イタリア人選手にとって、イタリアのサーキットで優勝を飾ることは、他の大会にも増してスペシャルな出来事だ。とくにそれが自宅にほど近く、しかもメーカーの本拠地から近い会場ともなれば、なおさらだろう。 トップ争いを演じるドヴィツィオーゾ(左…

 イタリア人選手にとって、イタリアのサーキットで優勝を飾ることは、他の大会にも増してスペシャルな出来事だ。とくにそれが自宅にほど近く、しかもメーカーの本拠地から近い会場ともなれば、なおさらだろう。



トップ争いを演じるドヴィツィオーゾ(左)、ロレンソ(中央)、マルケス(右)

 第13戦・サンマリノGPの開催地ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェッリのあるエミリア・ロマーニャ州のリミニ近郊は、多くのグランプリ選手を輩出している。今回のレースで優勝を飾ったアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)も、会場からクルマで数十分ほど走ったところに自宅がある。まさに自宅の庭同然のホームコースだ。

 さらに、ボローニャに本拠を構えるドゥカティにとっては、本社がここから100kmほどの場所にある。だが、その地元コースでドゥカティは長い間、勝つことができなかった。当地でのレース開催が復活した2007年にはケイシー・ストーナーが圧勝を飾ったものの、それ以降はホンダとヤマハに凌駕されることが多く、ここは彼らにとって不得意コースと化していた。

 それだけに、スタート直後から完璧なレースコントロールでシーズン3勝目を挙げた今回の決勝後に、ドヴィツィオーゾが語った「今回の優勝はドゥカティにとって、いろんな意味で意義が大きい」「人生でそう何度もあることじゃないから、すごくうれしい」という言葉は、実に素直な心情の吐露だろう。

 ドヴィツィオーゾは土曜の予選を終えて、2列目4番グリッドというスタートポジションになった。ポールポジションを獲得したチームメイトのホルヘ・ロレンソから0.374秒というタイム差ではあったものの、レースを想定したペースは彼を含む上位数選手が拮抗しており、日曜には優勝候補の一角を占めるであろうことは容易に想像できた。

 予選を終えた土曜夕刻の、彼自身の話しぶりからは、日曜に向けた自信もうかがえた。

「明日は単独で逃げ切ることができればいいけど、おそらくそうはならないだろう。5、6台がトップ争いに絡んでくるだろうし、レースはおそらく、ホルヘが最初から飛ばして引っ張るような展開になると思う」

 さらに、このサーキットはいったんアドバンテージを築いてしまえば、以後はその有利な状況を維持しやすいコースだ、とも話した。その理由はどうやら、ブレーキングを武器とする彼のライディングスタイルにも関係があるようだ。

「ここは直線からのハードブレーキングが多いし、コース幅も狭いのでラインの自由度が少ない。(低速コーナーと切り返しが続く)前半区間は自分に有利だと思うけど、(ハイスピードの)11コーナーやコース後半はそうでもないと思う」

 この言葉どおりに、中低速区間での有利を存分に活かしたドヴィツィオーゾは、周回数が進むにつれてじわじわと差を広げてゆき、トップでチェッカー。レース終盤に追い上げを狙ったロレンソがラスト2周で転倒を喫したため、その背後につけていたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が2位でゴールした。

「ドゥカティについていくことはできても、抜くことまではできなかった」と、マルケスはこの日の展開を振り返った。

「レース中盤にホルヘを抜いたのは、向こうがミスをしたから。(その後ふたたび抜き返されて)残り3ラップで攻めたけれども、ついて行くのが精一杯だった」

 この結果、優勝で25ポイントを加算したドヴィツィオーゾはランキング2番手に浮上。トップのマルケスとは67点差で、シーズン前半に数戦のノーポイントレースがあったことが今さらながら悔やまれるが、現在の彼らの高いパッケージレベルを見れば、今後の終盤戦もドヴィツィオーゾが優勝戦線の一角を占め続けることは確実だろう。

 一方、ランキング首位を走るマルケスは、一戦を経るごとにチャンピオンを確実に地固めする状況が整いつつある。

 シーズン残り6戦でドヴィツィオーゾやロレンソが優勝を続けても、マルケスが3位を維持すれば、9点ずつ最大54ポイントの追い上げに終わるため、安全マージンを確保できる計算になる。とはいえ、転倒やノーポイントレースが2回あればこの優位は簡単にひっくり返るため、状況はまだ予断を許さない。