新監督にとって初陣というのは、所信表明の場だ。これから日本代表はこんなサッカーをしていきます、というメッセージをサッカーファンや日本代表サポーターに向けて発信する大事な機会で、単なるフレンドリーマッチ以上の重みがある。「ビルドアップの…

 新監督にとって初陣というのは、所信表明の場だ。これから日本代表はこんなサッカーをしていきます、というメッセージをサッカーファンや日本代表サポーターに向けて発信する大事な機会で、単なるフレンドリーマッチ以上の重みがある。



「ビルドアップの仕方は変わらない」と語るキャプテン青山敏弘(中央)

 その意味でいえば、9月11日に行なわれるコスタリカ戦には、森保一新監督がサンフレッチェ広島時代に愛用し、U-21日本代表にも取り入れている3−4−2−1で臨むのがセオリーだろう。合宿初日には指揮官自ら「(3−4−2−1は)私が長くやってきた形なので、基本的にはベースとして持っておきたい」と語ってもいるのだから。

 ところが、どうやらコスタリカ戦は4−2−3−1で臨むことになりそうなのだ。

 札幌合宿中に行なわれた紅白戦で4−2−3−1と4−4−2を採用すると、コスタリカ戦の前日会見でも「いろんな変化に対応力を持って、柔軟に臨機応変にやっていくという意味でも、紅白戦では今までやってない形でトライしてもらった」と説明し、さらに「選手個々の引き出しが増えるように、チームとしていろんな戦いができるようにしていければと思っている」と語ったのだ。

 そこで思い出すのは、西野朗前監督の初陣となった5月30日のガーナ戦である。

 当時、西野監督は「3バックをベースとして考えているわけではない」と語り、実際にワールドカップ本大会では4−2−3−1を主戦システムとして採用したが、初陣のガーナ戦では3バックを試したのだ。

 西野監督は、慣れ親しんだ4−2−3−1はいつでもできる、との考えから、苦手意識のある3−4−2−1にまずは着手した。森保監督は、3−4−2−1をベースと考えながら、選手たちが慣れている4−2−3−1を初陣で採用しようとしている。システムこそ違うものの、臨機応変に戦うためにオプションから手をつけるという手法においては、共通点が見いだせる。

 森保監督は前日会見で「西野さんから学ばせていただいたことをチームに落とし込んでやっていきたい」と語ったが、この初陣におけるアプローチは、前任者から学んだことのひとつかもしれない。

 もっとも、3バックだろうと4バックだろうと、「攻守ともに原理・原則は変わらない」と森保監督は言う。その原理・原則、チームコンセプトのベースの部分を指揮官のこれまでの言葉から探れば、こんな感じだろうか。

 ベースとなるボールの奪い合いのところで戦う姿勢を見せ、ひたむきに、タフに粘り強く、最後まで戦い抜く。攻守において連係・連動して、攻撃的に戦うが、守備をしなければならないときは守備をする、速い攻撃を仕掛けられるときは仕掛ける、相手に守られたらボールを握りながら崩していけるように、臨機応変にやっていく――。

 キャプテンの青山敏弘も「ミーティングでは両方やると言っていたし、試合中に変える可能性もあるとも言っていた。それでも縦パスや楔(くさび)のパス、ビルドアップの仕方は変わらないと思うし、チームコンセプトも含め、強く求められている」と語る。

 大阪入りしてから2日間続けて非公開練習が行なわれているが、選手たちのコメントから総合的に判断すると、おそらく9月7日に行なわれた紅白戦でビブスを着けていなかったチームが、コスタリカ戦のスタメンのベースになるのではないか。

【GK】
東口順昭(ガンバ大阪)
【DF】
室屋成(FC東京)
三浦弦太(ガンバ大阪)
槙野智章(浦和レッズ)
車屋紳太郎(川崎フロンターレ)
【MF】
青山敏弘(サンフレッチェ広島)
遠藤航(シント=トロイデン/ベルギー)
堂安律(フローニンゲン/オランダ)
南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)
中島翔哉(ポルティモネンセ/ポルトガル)
【FW】
小林悠(川崎フロンターレ)

 右サイドハーフに伊東純也(柏レイソル)、前線を2トップにして浅野拓磨(ハノーファー/ドイツ)が入る可能性もある。

 コスタリカ戦で注目したいのは、ディフェンスラインからの攻撃の組み立てと、アタッキングサードにおける崩しのクオリティだ。

「タッチ制限を加えたり、難しい状況を作っているなかで、縦への意識を持って後ろから前への組み立てですばらしいシーンが何度も出せている」と槙野が語ったように、攻撃のビルドアップについてはかなり入念に取り組んでいるようだ。

 そこから青山、遠藤のボランチ陣が緩急をつけたパスワークでボールを動かしながら、鋭い縦パスで攻撃のスイッチを入れてスピードアップさせる。

 前線でも小林が「2列目の選手たちがすごくいい距離感にいてくれるので、ダイレクトという制限があるなかでも、すごくいい崩しができている」と語ったように連係・連動を磨いているが、その一方で、青山は「海外でやっている選手は個の能力が高い。コンビネーションがなくても、しっかり預けてあげればイメージを膨らませてやってくれる」と、2列目のアタッカーたちを称賛する。中島、堂安、南野、さらに伊藤達哉(ハンブルガーSV/ドイツ)の打開力とイマジネーションにも注目したい。

 一方、コスタリカも日本と同様、世代交代の真っ最中だという。前線の核である33歳のFWブライアン・ルイス、レアル・マドリードに所属する31歳のGKケイラー・ナバスは今回、招集されていない。

 とはいえ、守備陣を中心にロシア・ワールドカップのメンバーが10人招集されており、グループステージの3試合すべてに先発した右アウトサイドのクリスチャン・ガンボアやボランチのダビド・グスマン、2試合で先発した左アウトサイドのブライアン・オビエドも来日している。

 コスタリカはオスカル・ラミレス監督がワールドカップ終了後に退任。現在はロナルド・ゴンザレス監督が暫定的に指揮を執っている。コスタリカといえば、ブラジル大会でもロシア大会でも独特な5−2−3が主戦システムだったが、9月7日に行なわれた韓国戦は4−2−3−1で戦った。もっとも、韓国の攻撃陣に面白いように崩されたため、日本戦では5枚に戻す可能性も低くない。その場合、まさに日本代表は柔軟性を求められることになる。

「みんなはその形(4バック)のほうがストレスなくできるんじゃないかと思う」

 青山はそう語った。その言葉を聞くと、森保監督には、まずは慣れ親しんだシステムで各々のよさを観察したいという考えもあるのかもしれない。9月7日のチリ戦が中止となり、貴重なテストマッチが1試合だけになってしまったのだから、なおさらだろう。

 コスタリカ戦では、チームコンセプトという枠組みのなかで、選手それぞれが自身の個性を存分に発揮して、ハツラツとプレーする姿が見たい。それこそが、新生・日本代表の船出にふさわしいゲームだろう。