昨シーズン終盤のことである。「チームは9月に入ってから勝てていない(この時点で7試合連続勝ちなし)。『タイトルがなくなったから集中できない』という言い訳はあってはならないこと。そういうときこそ、チームとしての真価が問われる」  当時、…

 昨シーズン終盤のことである。

「チームは9月に入ってから勝てていない(この時点で7試合連続勝ちなし)。『タイトルがなくなったから集中できない』という言い訳はあってはならないこと。そういうときこそ、チームとしての真価が問われる」
 
 当時、ガンバ大阪を率いていた長谷川健太(現FC東京監督)は、怒りと情けなさ、憂慮が入り混ざった表情で胸中を明かしていた。

 リーグ戦は下位に低迷、天皇杯、ルヴァン杯も敗退して無冠が決まっていたからか、選手たちには厭戦気分がありありと見て取れ、覇気が感じられなかった。その日はJ2降格まっしぐらだったアルビレックス新潟を相手に、本拠地でなす術なく敗れていた。

 2013年から5シーズン続いた長谷川ガンバは、1年目にJ2で優勝し、2年目はJ1優勝、ルヴァン杯優勝、天皇杯優勝の三冠を達成。3年目もJ1で2位、ルヴァン杯準優勝、天皇杯連覇、ACLベスト4と、王者の証を示している。ところが5年目、常勝チームの面影は消えていた。王者の驕りか、世代交代の失敗か。結局、昨シーズンのガンバは13試合連続で勝てず、10位に低迷した。

「我々はどんな試合でも、歯を食いしばって戦える姿勢を見せなければならない。甘さが出ている。だから今日のように、わかっていても対応できなくなる。日頃の練習に全力で励み、ピッチに立つ姿をサポーターに見せないと……」

 長谷川監督の言葉は暗示だったのか。



ルヴァン杯敗退が決まり、観客に頭を下げるガンバ大阪イレブン

 9月9日、日産スタジアム。宮本恒靖監督が率いるガンバ大阪は、ルヴァン杯準々決勝第2戦で横浜F・マリノスに挑んでいる。第1戦は本拠地で0-4と大敗しており、勝ち上がる可能性は低かった。しかし、そこで誇り高い戦いを見せられるか――。それはリーグ戦で17位に沈むなか、残留の試金石になるはずだった。

 立ち上がりから、ガンバは後手に回っている。3-4-2-1のような布陣だが、最終ラインがズルズルと下がり、綻びが埋まらず、とくにサイドのギャップを使われてしまう。前半12分の失点も、左サイドで遠藤渓太の独走を許し、ニアに走り込んだ伊藤翔に簡単に合わせられ、ボールがポストに跳ね返ったところを仲川輝人に詰められた。すなわち、3人が3人、ゴール近くでほとんどフリーになっていたのだ。

 ディフェンスが正しく機能していない証左だった。

 前半20分には、高いラインの裏を易々と突かれている。スピードのある仲川に走り込まれ、GKが飛び出したところで足を引っかけてしまい、やらずもがなのPKを与えた。DFとGKの呼吸が悪く、なによりパスの出し手の出どころを抑えられていない。

 各ラインの距離感も悪かった。DFラインに引っ張られ、MFラインが吸収されてしまう。FWラインだけが前線に残って、戦線が伸びきったところを分断され、中盤を席巻されている。ポジション的に不利に立っていた。

 前線に人が残っているだけに、いったん押し込むことができれば、優位に戦えるのだろう。アデミウソンのように、個人で打開できる選手も擁する。そこでセットプレーを得ることで、得点も望める。優れたキッカーもヘディングの強い選手も多いだけに、川崎フロンターレ戦(9月1日、2-0で勝利)などは、まさにそこが勝負のカギとなった。

 押し込まれながらも人海戦術で守り、カウンター一発(もしくはセットプレー)を浴びせ、勝ち点は稼げる。

 しかし、そうした場当たり的な戦いに、選手は消耗する。試合終盤の失点が多いのは、まさにロジックが確立していないからだろう。これは17節までチームを率いていたブラジル人、レヴィー・クルピ監督の無策のツケとも言えるが……。

「今日は今後のリーグ戦につながる『4点差をひっくり返す試合を』と挑みました。連動した守備から取り返して、攻めきる、というところをトライしたのですが……。ボールを持ったところで、もう少し崩しの質を高めたいですね」

 第18節から采配を振るう宮本監督は試合後の記者会見で語ったが、この夜で、今シーズンの無冠が決まった。

 はたして、”常勝”ガンバの末裔たちは反発力を見せることができるのか?

 リーグ戦では代表組のGK東口順昭、DF三浦弦太が合流することで、守りはいくらか改善するのだろう。横浜FM戦で一矢を報いた一美和成(いちみ・かずなり)、ボランチで定位置を争う高宇洋(こう・たかひろ)、高江麗央(たかえ・れお)、18歳の中村敬斗のように、新鋭は台頭しつつある。また、ヴィッセル神戸から渡邉千真、レノファ山口から小野瀬康介を迎えて、戦力アップも図った。戦力的に見たら、降格するようなチームではない。

 しかし、勝負の厳しさを失っているのだとしたら――。

「(チャンスを多く作った時間帯に)決め切ることができたら、引き分けにも持ち込めたと思います。後半は、0-2のままでは終われないというところを、選手たちが見せてくれました」

 3-1と完敗した試合後、宮本監督は努めて前向きに語っている。