Tリーグの岡山リベッツへの所属を表明している吉田雅己。吉田は全中、インターハイを制し、一躍日本卓球界でも名が知られるようになった。ただ、自らのキャリアを「勝ちきれない選手だった」と意外なコメントで振り返る。一体どういうことだろうか。実はその…

Tリーグの岡山リベッツへの所属を表明している吉田雅己。吉田は全中、インターハイを制し、一躍日本卓球界でも名が知られるようになった。ただ、自らのキャリアを「勝ちきれない選手だった」と意外なコメントで振り返る。一体どういうことだろうか。実はその背景には大きな転機があった。



水谷隼からの「指名」

2016年、吉田に2度目の転機が訪れる。憧れの大先輩、水谷からのダブルス指名があったのだ。それまで水谷の相棒だった岸川聖也から突然の変更があった。吉田が青森山田に入学した時に高3だった大先輩・水谷からのダブルス指名が断れるわけない。嬉しかった反面、緊張もする。胸中は複雑だった。「リスクしかないって思っちゃいましたよ(笑)。水谷さん・岸川さんペアは全日本で5回も日本一になっている。これで負けたら『やっぱ岸川じゃないとだめか…』って言われるし、勝っても『やっぱ水谷は強いな!』って言われるし。それでも大先輩からの指名は断るわけにはいかなかったです」と明かす。吉田と水谷ペアは周囲の期待通り、全日本選手権で見事優勝を果たした。

そして吉田が大学4年の時、リオ五輪を迎える。リオ五輪では団体で日本男子としては初めてとなるメダルをもたらした。勝ち取ったのは青森山田の先輩でダブルスパートナーでもある水谷と、大学の1つ上の先輩吉村、そして中高6年間の同期である丹羽。いずれも吉田とは関係が深い3人だった。見知ったメンバーが一夜にして国民的なヒーローになった。「もちろん羨ましさがないと言えば嘘になる。でも、悔しいって思いはなかった。そこまで3人と伍しているつもりもなかったですから」でもすぐさまこうも思った。「“次”は、俺だ、」と。



2020年を見据えれば自ずと足りない点も見えてくる。「やっぱり勝てないっていうのは、絶対、理由はある。一方で強い選手って、必ずどこか長けてる部分がある。僕は、“絶対、負けない”っていう部分はなかった」と分析する。サーブ、台上テク、パワフルなドライブ…。吉田はどこをとっても安定しており穴らしい穴はない。だが、裏を返せば華もないとも言える。「突き抜けられないことが勝ちきれなさにつながっているのかもしれない」。そう考えた吉田は一つの武器を身に着けた。それがサーブだ。

秘技・ハラキリサーブとは

「実はインドでもこのサーブを試したんですが、なかなかの破壊力です。インドリーグの中でサービスエースの得点率はずっと1位でした。かなり手応えがあります」と自信を見せる。まだ無名のこのサーブは、文字で表すのが難しいほど独特だ。動き自体はYGサーブと似ているが違いはインパクトの瞬間、手首を腹の前で真一文字に切るのだ。「逆回転のスピンを同じフォームから出せる」のが強みだ。つまり、順横回転かと思いきや逆横回転を繰り出すことができる。さらに同じフォームからスピードのある直線的なロングサーブも精度が上がってきているだ。

YGサーブとの違いはトスの高さにもある。「YGに比べてだいぶ高いトス。高いところから落ちる勢いも回転を強めてくれます。今の所、初見だと8〜9割はとれないですね」と不敵に微笑む。だが、名前がないのではスター選手がひしめくTリーグでは注目は集まらない。「新YGサーブだとなんか芸がないですね…」と悩む吉田。「侍」というあだ名と手首を腹部の前ですばやく切る動作から「ハラキリサーブってのはどう?」と冗談めかして提案してみた。「いいっすね、それ(笑)」意外と好感触だ。Tの舞台で「侍・吉田のハラキリサーブ」が見れるかもしれない。

岡山リベッツにも順調に馴染んでいるようだ。チームのメンバーは青森山田時代の先輩。上田仁、そして同じく後輩・森薗政崇がいる。岡山の地で「侍」はどんな躍動を見せるのか。Tの幕開けはすぐそこだ。



文:武田鼎(ラリーズ編集部)
写真:伊藤圭