「我々は、トレーニングするようにゲームをします。それを日々重ねるなかで、徐々に自信が満ちてきました。攻撃も、守備も」東京ヴェルディ監督に就任して2年目となるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督 試合後、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は明る…
「我々は、トレーニングするようにゲームをします。それを日々重ねるなかで、徐々に自信が満ちてきました。攻撃も、守備も」
東京ヴェルディ監督に就任して2年目となるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督
試合後、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は明るい口調で語っている。スペイン人指揮官は就任2年目。まだ確信には至っていないが、手応えは感じているのだろう。
「今シーズンは、選手の間であまり差がなくなっています」
スペイン仕込みが、功を奏しつつあるのか。
9月8日、味の素スタジアム。J2リーグ第32節、5位の東京ヴェルディは3位の横浜FCと一戦を交えている。1、2位の自動昇格、3~6位のプレーオフ圏内入りをかけ、決して落とせない。ヴェルディは出足から優っていた。
「作戦と言うほどのことではありませんが、ボールを持つことを主眼に戦いました。とにかくボールを回して、相手を走らせる。イニシアチブを持つことで、危険な前線の選手(イバ、レアンドロ・ドミンゲス)を封じる狙いもあった。前半はそれがはまりました」
ロティーナは淀みなく語っている。
指揮官が意図したとおり、ヴェルディは機先を制する形で、横浜FCのラインを押し下げた。とりわけ、左サイドに守備の乱れを見つける。そして5分だった。センターバックの井林章が蹴ったロングボールは左サイドの裏を狙い、この処理に戸惑った横浜の選手が自軍ゴールに蹴り込んでしまった。オウンゴールだったとはいえ、ヴェルディの攻勢がもたらしたものと言えるだろう。
その後も、前半はヴェルディがペースを握っている。軽快なパス回しでディフェンスを幻惑。ドウグラス・ヴィエイラが決定機をつかみ、ニアサイドへの際どいシュートを放っている。選手の立ち位置がよく、コンビネーションで上回った。
「Salida de balon」
ロティーナは象徴的に、このスペイン語フレーズを使う。「ボールの出口」が直訳で、ビルドアップと訳されることが多い。しかし、むしろ直訳のほうが意図は伝わるだろうか。ボールの出口を作るには、それぞれの選手が正しい立ち位置を取って、スペースをうまく使う必要がある。適切な距離感が生まれることにより、それは攻撃だけでなく、守備でのポジショニングを修正し、改善することにつながる。
いわゆる「ポジション的優位」がピッチに生まれるのだ。
ロティーナ・ヴェルディはそれをトレーニングし続けてきた。ポジションという準備動作で勝つことにより、先手をとる。その成果は出ている。
ところが、後半は様相が一変した。
「後半は正直、なにが起こったのか、うまく説明がつきません」
ロティーナはそう言って肩を竦(すく)めている。ヴェルディは完全に流れを失った。横浜FCにボールを明け渡し、いたずらに波状攻撃を受け、失点は時間の問題。一気に天秤が傾いてしまった。
J2は、選手もチームもあらゆる面で成熟しきっていない。そのためプレーが不安定で、しばしば瓦解現象が起きてしまう。流れを制御できないのだ。
もっとも、スペインで戦術家として名を馳せたロティーナは、然るべき策を用意していた。
「(ガンバ大阪から夏に移籍してきた泉澤)仁はJ2レベルでは突出したプレーヤーです。本来は先発起用すべきところですが、今日はあえてベンチに置きました。なぜなら、チームとして反発力となる選手をベンチに残しておく必要がありましたから」
59分、泉澤は切り札として交代出場している。そして70分だった。エリア内でボールを受けると、DFの間隙を縫うようなシュートを流し込んだ。ロングボールから左サイドでウィングバックが幅と深みを作ると、MFとDFラインの間に入った泉澤の動きは巧みで、シュート精度も高かった。
そして、この追加点が大きく物を言うことになる。
横浜FCも戸島章、齋藤功佑と、交代出場選手が攻撃のインテンシティを高め、81分にイバが1点を返している。彼らも打つ手は打った。しかし、前半のツケを返しきれなかった形だろうか。
最後は消耗戦の末、ヴェルディが勝利した。順位は暫定で3位の横浜FCと同勝ち点の4位に上げている。残り10試合、仕上げの段階に入る。
「チームは自信を深めつつあります」
ロティーナは不敵な面構えで言っている。
「いいトレーニングをしていれば、いいプレーができる、というのが我々の信条です。チームは個人としてもグループとしても改善を見せ、毎日、要求は高くなっています。これから必要になるのは、同じ集中力で、相手をリスペクトして戦えるか。いつも主導権を握られるものではありません。そこで屈することなく、強いディフェンスを見せ、次の攻撃に備える。攻守は一体なんですよ」