錦織圭の快進撃は、またもや高い壁となって立ちはだかったノバク・ジョコビッチによって止められた――。 グランドスラム今季最終戦・USオープン準決勝で、第21シードの錦織(ATPランキング19位、8月27日づけ/以下同)が、第6シードのノ…

 錦織圭の快進撃は、またもや高い壁となって立ちはだかったノバク・ジョコビッチによって止められた――。

 グランドスラム今季最終戦・USオープン準決勝で、第21シードの錦織(ATPランキング19位、8月27日づけ/以下同)が、第6シードのノバク・ジョコビッチ(6位、セルビア)に、3-6、4-6、2-6で敗れ、4年ぶり2度目の決勝進出はならなかった。



今大会もジョコビッチが錦織圭の前に立ち塞がり、結果はベスト4

 USオープンで、錦織はトップ10選手との対戦成績がよく、6勝1敗(全豪3勝6敗、全仏0勝4敗、ウィンブルドン0勝3敗)なのだが、この好データも今回のジョコビッチ戦には全く当てはめられなかった。

「彼(ノバク)とプレーするための、たくさんのエネルギーが自分にはなかった。今日は(自分)らしさを出せず、彼のレベルについていけなかった場面もあった」

 こう語った錦織は、準々決勝で4時間8分におよんだマリン・チリッチ(7位、クロアチア)戦との5セットマッチから体力が回復しきれておらず、彼本来の素晴らしいショットメイクも影を潜めた。錦織は、ジョコビッチのサービスゲームを一度もブレークできず、22本のウィナーを決めたものの、彼にしては多い51本のミスを犯した。さらに試合終盤では、フットワークがいいはずの錦織の足が動かなくなり、半ば自滅するような形になった。

 一方、ジョコビッチは、錦織の一次攻撃を守備範囲の広い驚異的なディフェンスで深く返球。ミスも少なく的確にコントロールして、錦織を劣勢に追い込んだ。とりわけ、この日のジョコビッチは、コートのコーナーに決まるバックハンドのダウンザラインへのショットがすばらしかった。

 そして、ファーストサーブでのポイント獲得率が80%に達し、本来リターンのいい錦織につけ入る隙を全く見せなかった。精度の非常に高いテニスを一貫して実行したことについて次のように語っている。

「今回のような大きな試合では、経験に基づいたテニスをしようとした。圭とはこれまでたくさん対戦してきたことを踏まえたコンビネーションです。実際よく実行できました」

 錦織は、「さらに上書きされて鋭い球が飛んできたので、なかなか主導権を握ることができなかった」と力なく敗戦を振り返り、今回もジョコビッチの牙城を崩せなかった。

 今年のウィンブルドン準々決勝で、ジョコビッチに4セットで敗れた後、錦織は、「やっぱり何かが足りないんだろうし。(それが)何かこれから見つけていかないといけない」と自ら課題を口にしていたが、その自分なりの答えをニューヨークでも見つけることはできなかった。

「まず、今日は自分のミスがすごく早かったので、そこ(答えを見つける過程)に辿り着くまでいけなかった。出だしこそチャンスはありましたけど、なかなか後半はついていけなかったので、何かを試す前にミスが出てしまっていた」

 これでジョコビッチには、2014年USオープン準決勝で勝って以降、一度も勝てず14連敗となった。

「自分とやるときは、画面で見るより強いと感じるときはある。一段階、二段階レベルを上げてくるのは何となく感じますね」と錦織は、コート上でジョコビッチのメンタルタフネスを感じながらも、錦織なりのポジティブな姿勢も決して忘れない。

「彼(ジョコビッチ)との戦いは楽しみにしています。彼と戦うのは、自分が強くなれる戦いでもある。今日の敗戦も教訓として持ち帰って、また次の戦いを楽しみにしたいですね」

 今後、グランドスラム初優勝を目指すために、錦織は準々決勝から準決勝までに回復しきれなかった体力や、2週間で7試合をこなす戦い方が課題となる。

「グランドスラムの決勝にいって、優勝するまでには体力もいるし、メンタル的にも疲労はくる。そういう強さがまだまだ足りないのかなと痛感させられました」

 だが、昨年の右手首のケガから復帰したシーズンの中で迎えた今回のUSオープンでベスト4に進出したのは評価すべきだ。実際海外メディアからは、28歳の錦織が、準決勝に進出したことは驚きの目で見られていたほどだ。

「夏はあんまりよくなくて、ちょっと自分のテニスを見失いかけていた中で、やっと取り戻してきた」

 こう振り返った錦織は、大会後のATPランキングで12位前後に上昇する予定で、いよいよトップ10復帰が現実味を増してきた。

 実は、来年からグランドスラムのシードが32人から16人に戻るため、16位以内に入っておくことは、来季のグランドスラムでの戦いにおいてとても重要なこととなる。

 さらに、錦織がシーズン後半の目標にしている、年間成績上位8人しか出場できない男子ツアー最終戦・ATPファイナルズへの出場にも望みをつないだ。ファイナルズの出場争いである「Race to London」で錦織は、10位前後に上がる予定で出場圏内を視野に収めた。

 シーズン終盤で好成績を収めることができれば、2年ぶりの出場権を獲得できるかもしれない。

「(昨年はプレーできなかった)ニューヨークに来られて、再び準決勝まで進めて本当にうれしいです。いいテニスで、この2週間やりきれたとは思います」

 錦織のテニスのレベルは、ここに来て確実に上がっており、少なくともケガさえなければ、来季のグランドスラムで優勝争いに加わることができるだろう。それをこのUSオープンの戦いの中で証明して見せた。

 もちろん彼の悲願であるグランドスラム初優勝を成し遂げるためには、まだまだ課題はある。

 だが、強い錦織圭が戻って来たことは間違いない――。

 日本男子として、初めてグランドスラムで優勝できるかもしれないというワクワク感を抱かせるような存在として、再び燦然(さんぜん)とした輝きを放ち始めている。