ロシアW杯で日本代表が見せた、数々の好ゲームはまだ記憶に新しいところ。しかし、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任から、そこまでに至る過程でのドタバタは、すっかり忘れ去られてしまってはいないだろうか。 W杯初戦まで、実質的な活動期間は…
ロシアW杯で日本代表が見せた、数々の好ゲームはまだ記憶に新しいところ。しかし、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任から、そこまでに至る過程でのドタバタは、すっかり忘れ去られてしまってはいないだろうか。
W杯初戦まで、実質的な活動期間は2週間ほどというタイミングで、突然指揮権を委ねられた西野朗監督は、就任後初めてのキャンプから積極的に3バックの導入に取り組んだ。実際、壮行試合のガーナ戦(0-2)では3バックで臨み、W杯本番への不安を大いに掻(か)き立てる内容と結果に終わっている。
はたして、紆余曲折の末、フォーメーションは従来の4-2-3-1に落ち着き、メンバーの組み合わせも首尾よく見つかり、戦前の予想を覆(くつがえ)す、ロシアでの躍進につながったわけだ。
さらに遡(さかのぼ)れば、アルベルト・ザッケローニ監督時代にも、日本代表には3バックの導入が図られている。
ザッケローニ監督にとって3-4-3は、伏兵・ウディネーゼを率いてセリエAで旋風を巻き起こして以来、自身の”代名詞”と言ってもいいフォーメーションだった。日本代表監督在任中も、それをチームに落とし込むべく、何度か挑んでいる。
しかし、いずれも頓挫。3-4-3をベースにするどころか、まともなオプションにすらならなかった。
さて、これらを踏まえて、新たに森保一監督が就任した日本代表である。
森保監督は、サンフレッチェ広島監督時代に2連覇を含む、3度のJ1優勝を成し遂げているが、当時の主戦フォーメーションは、これもまた森保監督の”代名詞”と言っていい、3-4-2-1。実際、監督を兼任する五輪代表(U-21代表)でも、すでにこれをベースにチーム作りが進んでいる。
となると、当然、日本代表(A代表)にも3-4-2-1の導入が図られるのだろう。そうでなければ、ひとりの監督が両代表を兼任する意味がない。
では、日本代表に先駆けて活動がスタートし、すでにいくつかの国際大会に出場している五輪代表での、3バックの浸透具合はどれほどのものなのか。
今年1月のアジアU-23選手権ではベスト8に終わったものの、先ごろ行なわれたアジア大会では準優勝。結果だけを見れば、悪くない成果を残しており、選手それぞれの成長も感じられる。
しかし、組織的、戦術的な視点で内容を振り返れば、まだまだ心もとない試合が続いている。
3バックのビルドアップはポジショニングが中央に偏りがちで、相手の布陣を左右に広げることができない。そのため、ボランチがボールをもらっても、効果的な縦パスを入れられない。前線の1トップ2シャードが前を向いてボールを持ち、コンビネーションを作り出すような形には至らず、高い位置にボールが収まらないため、左右のアウトサイドMFも高いポジションを取り切れない。
結果、森保監督が率いた当時の広島で見られたような、最終ラインからテンポよくボールを動かし、相手のプレスをかいくぐり、生まれたスペースへ次々に選手が飛び出していくような分厚い攻撃は、ほとんどお目にかかれない。
また、守備においても、3バックに後ろを固める意識が強すぎるのか、全体が間延び、あるいは後退してしまい、相手が強くなるほど、ボールへ寄せられないシーンが増える。これでは、相手に労せずしてゴール前にボールを運ばれてしまい、ペナルティーエリア付近でのピンチを増やすばかりだ。
正直、どれだけフォーメーションの特性が生かされているかと聞かれれば、首をひねらざるをえないのが現状だ。
U-21日本代表では、まだ浸透し切れていない
「森保スタイル」
もちろん、五輪代表と日本代表とでは、プレーする選手の能力が異なる。また、9月の2試合に向けて招集された日本代表メンバーには、DF佐々木翔、MF青山敏弘、FW浅野拓磨と、森保監督のもと、広島でプレーした選手が各ポジションに選ばれており、3-4-2-1の浸透を手助けしてくれるはずだ。ほぼ同じスタイルのサッカーを、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督時代の浦和レッズで経験している、DF槙野智章、DF遠藤航を加えれば、援軍はさらに増える。
それに合わせて森保監督は、広島時代に採用していた、攻撃時には2ボランチの1枚がDFラインに落ち、実質4-3-3を形成する可変システムを採り入れるかもしれない。
五輪代表では、あくまでも3-4-2-1の陣形のままビルドアップすることにこだわっているが、日本代表では選手自身の柔軟な判断に委ねる部分が大きくなる可能性はあるだろう。特に指揮官の懐刀、青山の存在は”森保スタイル”に柔軟性という幅をもたらし、その浸透にひと役買うに違いない。
とは言え、である。
現在は代表チーム、クラブチームを問わず、世界的に見て4バックが主流だ。そのなかでは、Jリーグは異例なほど3バックの勢力が強いが、それでも大勢を占めるとまでは言えない。要するに、海外組も含めて、4バックのフォーメーションに慣れている選手のほうが多いのだ。
まして、過去に日本代表が”3バックアレルギー”を発症してきた歴史も含めて考えると、森保スタイルへの不安は決して小さくない。
新監督の”代名詞”、3-4-2-1は日本代表にどこまで浸透するのだろうか。仮にうまくいかなったとして、森保監督はどこまでこだわり続けるのだろうか。
本人は「システムにこだわっているわけではない」と言い、実際、先のアジア大会でも、4-4-2や4-2-3-1も採用している。だが、それはあくまでも緊急事態のオプションという位置づけにすぎなかった。
10月の親善試合以降、経験のある海外組が加わってくるとすれば、決して世界的に主流とは言えないシステムに、チーム内に起きるアレルギー反応はますます強くなるかもしれない。それまでに、現状の国内組+若手海外組で「こういうサッカーを目指している」というサンプルになりうるような内容の試合ができれば、手っ取り早く説得力が増すのだが……。
森保監督の手腕とこだわりに注目である。