世界屈指の超高速サーキット、モンツァでトロロッソ・ホンダは苦戦必至と思われていた。いや、彼ら自身ですらそう思っていた。 時速300kmを超えるストレートが4本もあり、全開率は80%近くに達する。それがモンツァなのだ。好タイムを記録して…

 世界屈指の超高速サーキット、モンツァでトロロッソ・ホンダは苦戦必至と思われていた。いや、彼ら自身ですらそう思っていた。

 時速300kmを超えるストレートが4本もあり、全開率は80%近くに達する。それがモンツァなのだ。



好タイムを記録して9番グリッドを獲得したピエール・ガスリー

 しかし、フタを開けてみればピエール・ガスリーはQ3まで進出し、9番グリッドを獲得してみせた。これは、完全にトロロッソ・ホンダの予想を大きく上回る結果だった。

「予選前はQ2に行くのも難しいんじゃないかと思っていたんだ。ターゲットはQ2だって言っていたけど、それすらかなり難しいはずだった。行けてもせいぜい15位とか16位くらいだろうってね。

 でも、それがQ3まで進んで9位だからね。おそらく僕の今シーズン最高のアタックラップだろうね。それをチームのホームレースであるイタリアで果たすことができたんだから、なおさらうれしいよ」

 他3パワーユニットメーカーの新スペックが出揃い、最大出力におけるホンダの不利はさらに大きくなったはずだった。しかし、現状のマシンパッケージからすべてを引き出すことで、それができなかったチームを上回ることに成功した。

「セットアップを変えたんだ。金曜フリー走行ではリアがすごく不安定で、マシン挙動に一貫性がなくて、マシンを信頼してドライブすることができなかった。とくにこういう超高速サーキットでは、マシンの限界を引き出すのが難しかったんだ。

 でも、今日はFP-3(フリー走行3回目)からフィーリングが格段によくなって、予選でもマシンバランスはとてもよかった。金曜から土曜に思いどおりのセットアップ変更の効果が得られないことも今シーズンここまで何度かあったけど、今回はそれが完璧にうまくいったよ」

 多くのチームがスパ・フランコルシャンとモンツァで同様のリアウイングを採用し、フロントウイングのフラップを薄く削ることでモンツァへ対応する「ハイブリッドパッケージ」を採用してきた。

 そんななかで、トロロッソ・ホンダだけはモンツァ専用のリアウイングを投入してきた。ただそれは、さらにダウンフォースを削ってきたというよりも、ベルギーにこのウイングが間に合わなかっただけのことだ。

 しかし、ベルギーでもそうだったように、F1界全体が高速サーキットでもダウンフォースをつけるのがひとつのトレンドになったことが、トロロッソ・ホンダに味方した。

 つまり、ダウンフォースと空気抵抗を削ってストレートでタイムを稼ぐよりも、ダウンフォースをきちんとつけてコーナーを速く走ってタイムを稼いだほうがラップタイムは速くなる。それが今のF1マシンなのだ。

 フリー走行1回目が雨で有益な走行ができず、専用リアウイングはフリー走行2回目で試しただけ。そのため、シミュレーションに基づくイニシャルセットアップのまま走行し、さまざまなフラップ角度比較やその他のセットアップ調整ができなかった。そんな背景もあって、金曜日はマシン挙動が不安定で苦戦したトロロッソ・ホンダの2台だったが、金曜の夜にデータを精査し、ダウンフォースを増す方向にセットアップを変更して、これがうまくハマったのだ。

 それに加えて、”トウ”をうまく使うことができたのも大きかった。前走車の背後について走り、空気抵抗を減らして最高速を稼ぐ。自転車競技や中距離陸上競技でも多用される技だ。

 ストレートでは空気の薄いところを使い、コーナーでは前走車の生み出す乱気流でダウンフォースを失わないようにしなければならない。その絶妙なタイミングが難しい。

 中には最初からチームメイト同士で前後してコースインし、前走車がメインストレートからトウで引っ張って最高速を稼がせ、次の直線区間でも引っ張ったうえで、第2シケイン手前で譲ってセクター2のコーナー区間に送り出すということをやっているチームもあった。しかし、トロロッソ・ホンダはそういった戦法は採らず、他チームの背後についてトウを使う戦略だった。



セッティングが見事にハマり、決勝も期待が高まったが......

 実はQ1、Q2ではなかなかトウを使う戦略がうまくいかず、ガスリーは「次はちゃんとしたタイミングでコースインさせてくれ」と苛立ちを見せていた。

「フリー走行でいろんな(前走車との)ギャップをトライしていて、2秒とか2.5秒とか3秒とか3.5秒とか、どのくらいのギャップだとストレートでこれだけゲインできて、コーナーでこれだけロスするというのをチェックしていたんだ。ただ、最後のランでは、カルロス(・サインツ)の後ろで理想的なギャップを得ることができた。

 あるコーナーでは、ブレーキングでフロントロックしそうになったけど、エイペックスから出口ではなんとかまとめることができた。それはフロントのターニングインなどマシンのレスポンスが、僕の望んだとおりに仕上がっていたからこそできたこと。僕はそういうシャープなマシンが好きだし、今日はそういうマシンに仕上げることができた」

 Q1では8位カルロス・サインツから18位ブレンドン・ハートレイまで、11台がわずか0.2秒のなかにひしめいた。ほんのわずかなタイム差が、大きな順位の差になる。

 そんななかでトロロッソ・ホンダは、ハートレイが1回目のアタックランで3周アタックを行なったために残り時間が乏しく、アウトラップもクールダウンラップもほぼ全力で走った。結果的に終了直前に最後のアタックを間に合わせる状況となり、うまくアタックラップをまとめきれず18位に沈んだ。それに対してガスリーは、余裕を持ってアタックしたことで前走車のトウもうまく使い、0.002秒差でQ3に進んでみせた。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう振り返る。

「初日の出だしに比べて、今日はマシンが格段によくなって『安心してプッシュできるようになった』と、ふたりとも言っていました。基本的にまだまだ改善の余地はあるんですけど、安心して乗れるクルマにはなったというところですね。

 ストレートとコーナーのバランスを見ながらクルマの細かいところをセットアップして、最後に予選でうまくまとめられたのがよかったです。我々の車体とパワーユニットが持つパフォーマンスを、ドライバーとチームが最大限に発揮できた結果だと思います。

 ここはトウの影響が大きいサーキットで、Q1ではマシンを送り出すタイミングをうまく掴み切れなかったのですが、Q2とQ3ではうまくいったので、そこが大きく影響したと思います。中団グループは熾烈で、100分の1秒、1000分の1秒の戦いでしたが、ドライバーがうまくまとめてくれました。トウを使えば最高速は10~15km/hは確実に上がりますからね。そこをうまく利用するのは不可欠だと思います」

 決勝では、ガスリーのマシンはフェルナンド・アロンソやダニエル・リカルドと接触。そのダメージで、オーストリアGPと同じようにダウンフォースを失ったマシンはあちこちで挙動を乱して、まともに戦える状況ではなかった。

「クルマは完全に壊れている感じで、あちこちでスライドしまくっていたよ。ダウンフォースのロスを感じたし、左右でダウンフォース量が違うからコーナーの左右でマシンバランスも違うし、すごくトリッキーだった。ただでさえモンツァではダウンフォースが少ないのに、マシンはダメージを負っていて、さらに前走車のスリップストリームに入ると大幅にダウンフォースを失ってしまうわけだから、前のクルマに近づくのはほとんど無理だった。今日は本当に長い、長い1日だったよ」

 ハートレイもスタート直後の集団の混雑のなかで左右を挟まれ、サスペンションを壊してリタイア。2台ともに決勝では本来の力を試すチャンスを得られないまま、レースを終えた。

 しかし、こういったアクシデントに巻き込まれてしまうことも含めて、それが今のトロロッソ・ホンダの実力だといえる。中団グループで他を圧倒して勝ち上がっていく力はなく、中団の大混戦のなかでの戦いを強いられ、ちょっとしたタイム差や運が結果を大きく左右する。

 ハンガリーやバーレーンではできたことが、普通のサーキットではできない。しかし、シーズン序盤のアゼルバイジャンのロングストレートではまったく戦えなかったのが、今ではスパやモンツァの高速サーキットでも中団で戦える。

 結果にはつなげられなかったが、着実に進歩している。トロロッソ・ホンダのそんな姿が見えたスパ、モンツァの高速2連戦だった。