福田正博 フォーメーション進化論 フェルナンド・トーレスがJリーグ初ゴールを決めるまで、少し時間がかかったなというのが正直な感想だ。リーグ戦でここまで1ゴールのフェルナンド・トーレス 8月26日に開催されたJ1リーグ・第24節のガンバ大…

福田正博 フォーメーション進化論

 フェルナンド・トーレスがJリーグ初ゴールを決めるまで、少し時間がかかったなというのが正直な感想だ。



リーグ戦でここまで1ゴールのフェルナンド・トーレス

 8月26日に開催されたJ1リーグ・第24節のガンバ大阪戦で、Jリーグ初得点を決め、その4日前にあった天皇杯4回戦でもゴールを決めていたので、2戦連発だった。

 J1第25節のFC東京戦では得点はなかったが、トーレスは注目度の高さや、得点を求められていることは自覚しているはずで、得点が増えていけば、今後はより肩の力を抜いて本来のプレーができるのではないだろうか。

 第17節の仙台戦に途中出場してJリーグデビューしてから、初ゴールまで8試合を要したが、この間のトーレスは得点こそなかったものの、献身的なプレーでチームに貢献してきた。

 前線から守備をして、ときには自陣まで引いて守り、味方がボールを奪えば長い距離を走って相手ゴール前にポジションを取る。まわりの味方を使うのもうまい。

 もともとエゴイスティックにゴールを狙うというイメージを持っていなかったとはいえ、もう少しゴールに対して貪欲にプレーすると思っていたが、あれほどの実績を持つ選手が、献身的にプレーするのはすごいことだ。

 もちろんストライカーとしてのエゴは持っているはずだが、それはチームが勝利するためのエゴであることを、プレーで示している。見方を変えると、トーレスは経験豊富な34歳のベテランで、まわりを上手に使いながら、自分が生きる術を身につけているということだ。

 惜しむらくは、鳥栖のチーム状態があまりよくないことだ。トーレスがまわりを使って自分が生きようとしているのに、それにチームがまだ十分応えられていない。データによれば、トーレスにパスを出している味方の上位に、GK権田修一の名前がある。GKからのパスが多いというのは、ストライカーにとってはなかなか苦しい状況だ。

 G大阪戦では、トーレスからのパスを受けた金崎夢生がゴールを決めているが、この一連の流れも権田からトーレスへのパスが起点だった。トーレスがヘディングで競って、金崎にボールが渡り、金崎からのリターンパスを受けたトーレスが、ふたたび金崎にパスを出してシュート。攻撃の形がGKからのフィードというのは、トーレスにとってはフラストレーションが溜まる状況といえる。

 そうした場合、チームや味方選手を批判するケースもあるものだが、得点が取れない原因を押し付けられた側はいい気はしないし、それではチーム状況は好転しない。

 その点、トーレスは、どんな状況にあっても他人を責めたりはせず、冷静に状況を受け入れて、できることを最大限やろうとしている。受け答えも紳士的で、常に周囲をリスペクトしている。

 これは誰かを責めれば、最終的に自分に跳ね返ってくることを知っているからだ。そうした彼の真面目さがピッチでのプレーのすべてに出ているし、その姿は鳥栖の選手たちに、トーレスにもっと点を取らせたいと思わせるものだ。

 トーレスがもっと輝くためには、「トーレスの足もとにつけるパス」が打開策になると私は思っている。チーム状態が悪く、トーレスにいい形でボールが入らないし、入ってもサポートが遅く、なかなかシュートに持ち込めなかった。

 さらに、ほとんどのハイボールをトーレスがヘディングで競り合っているイメージがあるくらい、彼へのパスは頭を狙ったロングボールが多い。たしかに彼の身長は186cmと高く、リーグ戦初ゴールもクロスからのヘディングだったが、トーレスの最大の持ち味は、DFラインの裏に抜け出すスピードや駆け引き、ゴール前のフィニッシュワークにある。へディングだけの選手ではないからこそ、彼の足もとにスパっと入るパスがもっと増えれば、彼のストライカーとしての迫力も増していくはずだ。

 ここからシーズン終盤にかけて気候は涼しくなっていく。また、秋冬制度の欧州リーグで長く活躍してきたトーレスにとって、コンディションを上げていくのはこれからということもある。

 体力的にきつい暑い夏の連戦で、トーレスは献身的に走ってきており、夏場の疲れが出る可能性も否めないが、パフォーマンスはこれからよくなってくるはずだ。そのとき、ストライカーとしての天賦の才を存分に発揮するトーレスが見られることを期待している。