ニューカッスル・ユナイテッドの武藤嘉紀に出番は訪れなかった。 9月1日に行なわれたマンチェスター・シティとのプレミアリーグ第4節。ベンチスタートの武藤は前半から断続的にアップを行なったものの、最後まで出番の声がかからなかった。ニューカ…

 ニューカッスル・ユナイテッドの武藤嘉紀に出番は訪れなかった。

 9月1日に行なわれたマンチェスター・シティとのプレミアリーグ第4節。ベンチスタートの武藤は前半から断続的にアップを行なったものの、最後まで出番の声がかからなかった。ニューカッスル入団以来、初めてピッチに立つことなく試合を終えた。



武藤嘉紀はベンチからチーム状況をどう見ていたのだろうか

 試合は1-2でニューカッスルが敗れた。スタッツを確認すると、ボール保持率はマンチェスター・Cの78%に対し、ニューカッスルは22%。シュート数も24本(マンチェスター・C)対3本(ニューカッスル)と大差がついた。スコア以上に力の差は大きかったと、そう言わざるをえないだろう。

 昨シーズンの覇者であるマンチェスター・Cに対し、ニューカッスルは5-4-1の守備的な布陣。前節のチェルシー戦に続き、自陣深い場所で5DFと4MFの2ラインを敷き、相手にスペースを徹底して与えない戦術で挑んだ。

 しかし、その目論見は8分に早くも外れる。左サイドからカットインしたFWラヒーム・スターリングが鮮やかに先制ゴール。その後も、ピッチのサイド幅を目いっぱい広く使いながら攻めるマンチェスター・Cがボールを保持し、一方的に攻め立てた。ボールを奪われても、前線の選手がすぐに回収に走るマンチェスター・Cを目の当たりにし、武藤は「チェルシーよりも強かった。全員が献身的ですし、前もサボる選手がいない」と舌を巻いた。

 その一方で、自軍の守備的な戦術については「どうやっていくべきなのかな」とつぶやいた。

 ホームゲームでありながら、超守備的なアプローチを用いた前節のチェルシー戦では、ラファエル・ベニテス監督の采配に英国内でも賛否両論の声があがった。一部報道では、試合前に主将のDFジャマール・ラセルズがベニテス監督の戦術に異論を唱えたという。

 そして、今回のマンチェスター・C戦。相手が8割近いポゼッションを記録したことに、武藤は「こういう戦いをしたら、そうなると思います」と語り、次のように言葉をつないだ。

「自分たちが引いているのもあるけど、プレスに行くのか行かないのか(わからない)。ああなると、自分としては本当にやりづらい。行くところと行かないところで難しさがある。行き過ぎでも言われるし、そうかと言ってプレスに行かないと、得点の気配は生まれない。5バックとか引いた戦いになると、やっぱり難しいですね」

 ニューカッスルは、8月26日にプレミアリーグ第3節チェルシー戦(1-2)、29日にリーグカップ2回戦ノッティンガム・フォレスト戦(1-3)、そして9月1日にプレミアリーグ第4節マンチェスター・C戦(1-2)と、この1週間で公式戦3連敗を喫した。

 リーグ戦に限定しても、開幕4試合で1分3敗の未勝利。苦しいスタートになったが、トットナム・ホットスパー、チェルシー、マンチェスター・Cと強豪クラブとの対戦が続き、厳しい日程であったことは確かだ。ただ、武藤によれば、チーム内の雰囲気は決してよくないという。

 武藤自身の状況も芳(かんば)しくない。ノッティンガム・フォレスト戦で2トップの一角として初先発したものの、シュート1本で77分に交代を命じられた。敗戦後、ベニテス監督は「武藤はチームのためにハードワークをしていたが、イングランドサッカーは他の国に比べてプレースピードが速い。そのスピードに適応する必要がある」とコメント。武藤の序列は、やや低下したように思われた。

 ただし、ノッティンガム・フォレスト戦は、肝心のチーム自体が機能していなかった。武藤が前線からプレスをかけようとも、中盤以下の選手がついてこない。また、パスもうまく回らず、どのように攻めるのかという明確な意図が見えてこなかった。ユース所属選手も入れた即席チームであったため、連係もままならなかった。

 さらに、ベニテス監督はチェルシー、マンチェスター・Cとの連戦で守備的な戦術を用いたが、その間に行なわれたイングランド2部リーグ所属のノッティンガム・フォレスト戦で「攻撃的に振る舞えたか?」と問えば、決してそうではなかった。

 武藤は、チーム内に迷いがあると明かす。

「2部の相手にも、ああいう戦い方をしてしまう。自分ともうひとりのFWが(プレスに)行っても、後ろがついてこない。強い相手との連戦で用いた引いた戦い方が、染みついちゃっている。だから、チーム内でも『どうすればいいのか?』みたいな空気がある。これで結果が出ていればいいんですけど、出ていないから、チームに不安が蔓延していると思う」

 それでも、武藤は焦ることなくアピールを続けていくと力を込めた。

「ここで『出られない、出られない』と焦ってしまうと、本当にハマっていってしまう。とにかく、ワンチャンスをモノにすることが重要だと思います。自分のコンディションも上げていかなければいけない。

 自分としては、強い相手との試合で点が獲りたかったので。ただ、アーセナル戦で自分がいきなりスタメンで出られるかといえば、難しいと思う。でも、とにかく前を向いて。出たときに、少ない時間でもアピールしてないと、スタメンのポジションは確保できない」

 9月に行なわれる日本代表の強化試合では招集が見送られた。海外組の主力は招集されなかったが、その件について森保一監督から連絡を受け、「しっかり(自分を外した)意図は伝えてもらえました」(武藤)という。国際マッチウィークは英国に残って、チーム練習のなかからアピールしていくことになる。

「ここでアピールして、悪い状況のチームを自分が救えたらベスト。チームは勝てていない。それは逆に言ったらチャンスですし。出番が来たときに、いいプレーができたらそれがベストかなと。

 出ていない身としては、このチャンスをモノにしなくてはいけない。こういう悪いときこそ、成長できるチャンス。そのために、わざわざイギリスに国を変えて、環境も変えたので。この逆境をはねのけたい」

 次節は9月15日に行なわれるホームでのアーセナル戦。武藤はアピールに成功し、この状況を打破することができるか。