2013年U-17ワールドカップでも、2017年U-20ワールドカップでも、三好康児(北海道コンサドーレ札幌)は不動のレギュラーだった。 2年後の東京五輪でメダル獲得を目指すU-21日本代表でも、押しも押されもしない存在だった。今大会…
2013年U-17ワールドカップでも、2017年U-20ワールドカップでも、三好康児(北海道コンサドーレ札幌)は不動のレギュラーだった。
2年後の東京五輪でメダル獲得を目指すU-21日本代表でも、押しも押されもしない存在だった。今大会を迎えるまでは……。
キャプテンマークを託された
「背番号10」三好康児の心境は......
背番号10を背負い、今大会ではキャプテンマークまで託されていたが、大会中に三好はサブ降格を経験した。
そのきっかけは、グループステージにあった。
先発したネパールとの初戦は1-0で勝利したものの、6バックで守る相手に苦戦し、三好だけでなく、チーム全体のパフォーマンスが低かった。メンバーを変更して臨んだパキスタン戦では三好もスタメンから外れ、チームは4-0と勝利した。
先発に返り咲いたベトナム戦では、とくに前半、チーム全体が腰の引けた戦いしか見せられず、0-1と敗れてしまう。三好自身、納得のいくプレーを見せられたわけでなく、試合後、悔しさを押し殺すようにして言った。
「こういう試合でチームをしっかり引っ張っていくようなプレーをしていかなければ、この先はないなって思いました」
5日後、ラウンド16のマレーシア戦のスターティングリストに三好の名前はなかった。パキスタン戦での好パフォーマンスを見せた前田大然(松本山雅)、岩崎悠人(京都サンガ)、旗手怜央(順天堂大)の3人が前線に起用されたのだ。この試合で三好に出番が回ってくることはなかった。
とはいえ、準々決勝のサウジアラビア戦は、中2日で迎える厳しいスケジュール。ターンオーバーが採用される可能性は低くなかった。
また、低調なパフォーマンスには、エクスキューズもあった。これまでの4試合で使用されたチカランとブカシのスタジアムはいずれもピッチ状況が悪く、ボールが真っ直ぐ転がらないほどだった。前田や岩崎のようにスピードが武器の選手たちならある程度カバーできるが、三好のように足もとの技術やショートパスによる打開を特徴とする選手は、その影響を強く受けるのだ。
その点、準々決勝以降の会場となるボゴールのスタジアムはピッチコンディションがよく、スタジアムでの前日練習のあと、岩崎が「まるで日本のピッチみたい」と語るほどだった。それゆえ、三好も「これまでよりもボールを動かしやすいし、仕掛けやすくなると思います」と力強く語っていた。
サウジアラビアは2016年のU-19アジア選手権の決勝で顔を合わせ、PK戦の末に下した相手でもあった。その試合に出場していた三好は、「あのとき出ていた選手もいますし、また、この舞台で戦えるのは楽しみだなって」と笑顔をのぞかせた。「攻撃の選手は得点で評価が決まってくるところがある。点を獲る準備はしています」とも。
受け答えの際の明るい表情と、中2日という厳しい日程――。だからてっきり、サウジアラビア戦では三好がスタメンで起用されるものだと思い込んでいた。
ところが……。
サウジアラビア戦のスターティングリストに、三好の名前は、またしてもなかった。60分からシャドーに入って2-1の勝利に貢献したが、この試合で左足首を痛めると、準決勝のUAE戦ではアップをすることなく、ベンチから戦況を見守り続けた。
三好の期する想いと覚悟について聞けたのは、決勝の韓国戦前日のことである。
「自分たちも人生をかけてサッカーをやっている。韓国には韓国の理由がありますけど、自分たちもしっかり戦わなければならない理由があるので、気持ちの部分でしっかりと上回れるようにやっていければな、と思います。
この大会が自分たちの人生において、すごく大きな大会になると思っていますし、ここで人生を変えるくらいのつもりで全員がやってきた。優勝することでしか見えない景色があると思いますし、その先には自分たちの描いている夢があるので、韓国にも負けない気持ちはあると思っています」
韓国の選手たちは金メダルを獲得すれば兵役が免除されるが、自分たちもサッカーに人生をかけている――。そうきっぱり言い切り、高いモチベーションと示したのだ。
また、その前日に発表された日本代表のメンバーに同世代の堂安律(フローニンゲン)、冨安健洋(シント=トロイデン)、伊藤達哉(ハンブルガーSV)が選出されたことについて、こう語った。
「いや、もう刺激しかないです。自分たちが目指す舞台なので、悔しい気持ちもあるし、やってやろうっていう気持ちもある。監督は森保さんだから、この大会、次の1試合で変わる可能性があると思うので常にチャンスですし、自分たちはできるんだぞっていうところを見せるしかないなと思っています」
韓国戦での三好のパフォーマンスからは、覚悟がしっかりと伝わってきた。取り囲む韓国選手を切り裂くようにドリブルを仕掛け、ノールックで左足からスルーパスを放った。日本の最初の決定機も、三好の単独突破からのシュートだった。
「スタートから出してもらったので、ベンチに座っているメンバーの分もやろうと思っていたし、自分が出る価値をピッチで証明するため、勝つつもりでやっていました」
120分に及んだ激闘は、1-2で敗れた。試合後、三好は悔しさをにじませながら、視線を前に向けた。
「この悔しさを今後に生かさなければならない。この悔しさを味わったのは僕たちしかいないし、この悔しさを晴らせるのも僕たちしかいないので、これから先、もっと大きな舞台で戦えるように自分たちが成長できれば、と思います」
今大会中に三好と交わした会話のなかで、とくに印象深いものがふたつある。
ひとつは、0-1で敗れたベトナムのあと、「U-21代表の活動も5回目になり、コンセプトも浸透してきたなか、ピッチ内での自主性が求められる段階になってきたが」という言葉を投げかけると、うなずきながら聞いていた三好は、強い口調で語った。
「僕らはもう子どもじゃないですし、プロ選手としてやっているので、その責任感というか、ピッチの上で結果を残していかなければ先がないっていうことを、それぞれが感じないといけない。監督も指示をしてくれるけど、プレーするのは僕ら。自分たちがもっと大人にならないといけないと思います」
もうひとつは韓国戦前日のことである。「サウジアラビア戦の前日、すごく明るい表情だったから、先発だと思っていた。あの時点で試合に出られないかもしれない、とわかっていた?」と訊ねると、「だいたいわかっていました。でも、出られないからといって、それで取材対応の態度を変えることはないですから」と柔らかな表情で返してきた。
川崎フロンターレのアカデミー出身で、しかもU-12チーム創設の1期生である三好は同期の板倉滉(ベガルタ仙台)とともにクラブによって大切に育てられ、サポーターからたくさんの愛情を注がれてきた。
だが、プロ4年目の今季、自らの意志で居心地のいい環境から飛び出し、新天地でポジションを掴み取り、J1での試合経験を積んでいる。そして、今大会ではキャプテンに任命され、レギュラーの座をいったん失い、韓国との決勝で自身のパフォーマンスを取り戻し、韓国の選手たちが喜びを爆発させる姿を脳裏に焼きつけた――。この経験は、三好にとってかけがえのない財産となるのは間違いない。
これまでとは異なる経験を積んだこの8ヵ月間で、三好は好青年から大人のフットボーラーへと変貌を遂げている。