不祥事に揺れた男子バスケットボール日本代表が、アジア大会最後の試合となる7、8位決定戦で、地元・インドネシアを84-66で下した。最終順位は7位にとどまったが、有終の美を飾り、”残された8人”による過酷な戦いを…

 不祥事に揺れた男子バスケットボール日本代表が、アジア大会最後の試合となる7、8位決定戦で、地元・インドネシアを84-66で下した。最終順位は7位にとどまったが、有終の美を飾り、”残された8人”による過酷な戦いを締めくくった。



残ったメンバーで最後まで奮闘した男子バスケットボール日本代表

 それは前代未聞の出来事だった。

 アジア大会予選ラウンド第2戦を終えた夜、代表メンバーの4人、永吉佑也(京都ハンナリーズ)、橋本拓哉(大阪エヴェッサ)、佐藤卓磨(滋賀レイクスターズ)、今村佳太(新潟アルビレックスBB)が日本選手団の公式ウエアを着たまま、ジャカルタ市内の繁華街に出かけて買春行為を行なったことが発覚。選手団からの追放処分を受けたのである(その後、1年間の公式試合出場資格はく奪処分となった)。

 事件については、すでに多くのメディアが報じているのでここで細かくは触れないが、これによってチームは、12人の登録メンバーのうち、4人を失うこととなった。

 今大会でチームの指揮を執った、エルマン・マンドーレ・ヘッドコーチ代行が、厳しい口調で振り返る。

「我々は不祥事が起こる以前から、選手には(私生活に)気をつけるように伝えていたにもかかわらず、こういうことが起きてしまった。今回はこうやって新聞記事になってしまい、残念だが、もしこれが記事にならなかったとしても、自分は絶対に選手たちを叱っている。

 代表というのは、それだけ大事なところだということは、常に言っているつもりでしたが、今後も気をつけていかないといけないと思っています。起きてしまった過去は変えられないので、残った選手がこれからも立派に代表選手としてやっていけるように教育していきたいと思います」

 とはいえ、不祥事を起こした選手が罰せられるのは、自業自得なのだから仕方がない。とんだ”とばっちり”を受けたのは、残された8人のほうだ。

「やっぱり最初はショックでした」

 事件発生直後の心境をそう語るのは、チーム最年長の34歳、太田敦也(三遠ネオフェニックス)である。彼の言葉を待つまでもなく、チーム内に少なからず動揺が生じたことは、想像に難くない。

 それでも、「僕らがうつむいてやっているよりも、顔を上げて、楽しんでやっているところを見せたほうがいいのかなと思ったので。そういう(気持ちの)切り替えはできたかなと思います」と太田。

 マンドーレ・ヘッドコーチ代行も、「4人がいなくなったことを理由に、今までやってきたことをやめるな。みんなは日本全国で見られている。日本を背負って戦っている以上、8人だろうとしっかりと戦って、結果を出そう」。選手たちに、そう叱咤したという。

 もちろん、残された選手への影響は、精神的なものだけではなかった。12人が8人になったということは、単純計算でひとり当たりの出場時間は1.5倍に増える。2試合やれば、通常の3試合分の出場時間になる計算だ。体力的な負担増は相当だったに違いない。

 だが、太田は恨み言を口にせず、今回の出来事を前向きにとらえる。

「(選手交代して)ベンチに帰ってきても、3人しかいないんで(苦笑)。でも、ケガで離脱だとか、(8人で戦う状況も)ないことではない。初めての経験でしたが、いい勉強をさせてもらったし、(8人でも)最後まで戦えたこと自体がよかった。日の丸を背負って勝つということを、そんなにみんなで話し合ったりはしてないですけど、各々がしっかり自覚してコートに立てたんじゃないかと思います」

 最後のインドネシア戦後のミーティングでは、「みんな、お疲れさま」と、まずは互いを労ったという。太田が続ける。

「大変なこともあったんですけど、周りの人たちから手助けしてもらい、日本国民のみなさんから応援してもらって、そのなかでチームのメンバー、スタッフが一緒になって戦えたことはうれしかったし、お礼を言いたいと思います」

 インドネシア戦は、序盤こそ地元の大声援を味方につける相手にリードを許したものの、離されることなく食らいつき、第1クウォーターのうちに逆転。その後はじわじわと差を広げて振り切った。

 マンドーレ・ヘッドコーチ代行は、「いい結果で終わったことがすごくうれしい」と、最終戦の勝利に笑顔。「もし12人だったら間違いなくメダルを獲得できただろう」と悔しさをにじませながらも、「8人になったことを言い訳にせず、この結果を出したことをうれしく思っている。こうやって選手たちがどんどん成長していることは、日本バスケット界にとってすごくいいニュースだと思います」。

 そう言って、最後まで必死で戦った8人の選手を称えると、追放処分を受けた4人の選手についても、「チームに残ってほしい気持ちもあった」と複雑な胸の内を明かし、彼らへの期待の言葉も口にした。

「間違ったことはしっかり償って、今回はチャンスを逃してしまったが、これからも成長していってほしい。いつか代表に戻ってほしい4人なので、これからも努力を続けてほしいと思います」

“8人の勇者たちの戦い”は、大きな拍手のなかで幕を閉じた。その一方で、”4人の愚か者たちの戦い”はこれから始まる。長く厳しい戦いになるはずである。