いつの時代もモンツァは、熱狂的なティフォージで溢れかえっている。しかし今年は、木曜から例年以上の熱気がヒシヒシと伝わってきた。それも、圧倒的に若い世代が多い。 ここ数年はイタリア国内でもサッカーに押され、イタリアGP存亡の危機に直面す…

 いつの時代もモンツァは、熱狂的なティフォージで溢れかえっている。しかし今年は、木曜から例年以上の熱気がヒシヒシと伝わってきた。それも、圧倒的に若い世代が多い。

 ここ数年はイタリア国内でもサッカーに押され、イタリアGP存亡の危機に直面するほどF1とフェラーリの人気低迷が叫ばれていた。その最大の要因は、2008年以来タイトルから遠ざかっているフェラーリの低迷だったと言っても過言ではない。



フェラーリのピットガレージ前に押しかけるティフォージ

 しかし、今年は強いフェラーリがモンツァに帰ってきた。パワーサーキットのスパ・フランコルシャンでメルセデスAMGに完勝し、この超高速モンツァへ勝利の可能性を持って凱旋を果たしたのだ。

 木曜のピットウォークでは、フェラーリのピットガレージ前が数え切れないほどのティフォージで埋め尽くされ、ドライバーたちが登場すればすさまじい熱狂に包まれた。警備員が総出で必死に柵を押さえて押し戻さなければならなかったほどで、例年にない熱狂ぶりと若者の多さが印象的だった。それだけ、イタリア全土にわたってフェラーリへの熱気が高まっているということだ。

 スパ・フランコルシャンで勝利したフェラーリには、スペック3のパワーユニットでも引き続きメルセデスAMGを凌駕したとの見方がなされた。ルイス・ハミルトン自身が負けを認めたのだ。

「フェラーリはとにかく、週末を通して僕たちよりも速かった。彼らのパワーは去年とは比べものにならないくらい優れていて、なんとか抑え込もうとしたけど、ストレートで抜き去られてしまったんだ」

 セバスチャン・ベッテルも、パワーで優位に立ったことを認めている。しかし、その差はわずかでしかなく、フェラーリも決してモンツァで独走できるとは考えていない。モンツァに姿を見せたベッテルは、むしろ厳しい表情を見せた。

「パワーで優位に立っているのが、スパでも確認できたことはとてもよかった。この5年間、メルセデスAMGは完全にF1を支配していたし、とくにパワーユニット面が果たした役割は大きかった。その彼らが今や、もうパワーで最強ではないと考えているというのは、僕らにとっても喜ばしいことだ。

 しかし、僕らとしても油断はしていられない。今の僕らはまだ、去年までのメルセデスAMGほどのアドバンテージを持っているわけではないし、勝利を掴み摂るためには、まだまだ懸命な努力が必要なんだ」

 フェラーリはパワーユニットのバッテリーに特殊な制御システムを採用していて、それが大きなアドバンテージを生み出しているという説がまことしやかに囁(ささや)かれている。ふたつのバッテリーを持ち、MGU-H(※)からの充電とMGU-K(※)への放電を同時に行なうことができるとか、1周あたり放電4MJという制限を回避する特殊な電子制御ユニットを持っている……などなど。しかし、どれも眉唾(まゆつば)で証拠に欠ける。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。
※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。

 フェラーリが他社に比べて、1周あたり長いディプロイメント(エネルギー回生)時間を実現しているのは事実だ。そこに特殊な制御が介在していることは確かだが、FIA(国際自動車連盟)が合法と判断した以上は、1周4MJを超えるバッテリーからMGU-Kへのディプロイメントは行なわれていない。

 となれば、放電4MJ・充電2MJの制限対象外であるMGU-HからMGU-Kへの直接のディプロイメント、もしくはバッテリーとMGU-Kの間にMGU-Hを介しての電気のやりとりを巧みに制御していることになる。

 いずれにしても重要なのは、ERS(エネルギー回生システム)のディプロイメントは120kW(約160馬力)以上にはならないということだ。つまり、最大出力でフェラーリがメルセデスAMGを上回っているのなら、それはICE(内燃機関エンジン)とTC(ターボチャージャー)の純粋な性能が上回っているということに他ならない。バッテリーや特殊な制御うんぬんの話は、あくまで決勝でのディプロイメント時間に関連することでしかないのだ。

「2016年がカギとなるシーズンだったんだ。パフォーマンスではすばらしいとは言えないシーズンだった。コンストラクターズ2位になったとはいえ、もっとトップに近づけたはずだった。

 でも、将来に向けた立て直しという意味では、2016年はとても重要な意味を持っていたんだ。2017年にレギュレーションが変わり、それがチーム再構築の効果を発揮する機会になった。それ以来、僕たちは大きく前進することができたんだ」(ベッテル)

 そのチーム再構築を指揮したのは、親会社フィアット会長のセルジオ・マルキオンネだった。

 テクニカルディレクターをはじめ技術部門を徹底的に再構築し、チームが目指すべき指針を明確に定め、それをシンプルに目指し、実現できる組織に改めてきた。マシンが不作だった2016年を早々に捨て、2017年のレギュレーション大幅改正に向けて専念することができたのも、彼が大ナタを振るってきたからだ。

「僕たちにはすばらしいクルマがある。そのことはわかっている。しかし、これは僕たちが賢明な努力の末に手に入れたものであって、そこに胡座(あぐら)をかいているわけにはいかない。ここから、さらに努力を続けなければならないんだ。

 僕たちのマシンがものすごく優れているサーキットもあれば、ほんのわずかな(差の)サーキットもあり、そうでもないサーキットもある。だから、マラネロの開発陣もサーキット現場のエンジニア部隊もキミ(・ライコネン)も僕も、チーム全員がすべてをひとつにまとめ上げて、最大限の結果を掴み取らなければならない」(ベッテル)

 ベッテルがモンツァでも慎重な姿勢を見せたのは、チームが一丸となって、わずかな綻(ほころ)びも見せることなく戦わなければ勝てないという危機感を持っているからだ。シーズン前半戦に何度も戦略ミスや不運、トラブルでチャンスを失ったことを考えれば、それも当然だ。

 スパ・フランコルシャンでの車速を分析すれば、フェラーリはストレートが速いものの、メルセデスAMGもほぼ同等の最高速を記録している。しかしフェラーリが強いのは、ストレートエンドでディプロイメントが切れるのが遅く、減速が少ないことだ。

 ずっと苦手にしていた低速コーナーも、スパではメルセデスAMGと同等の速さを見せた。タイヤに優しいぶん、決勝での立ち上がりではメルセデスAMGを凌駕していた。

 その一方で、プーオンのような高速コーナーや、ファーニュのような中速コーナーでは、メルセデスAMGに対してボトムスピードが5km/hほど遅い。つまり、ダウンフォース量と空力効率ではメルセデスAMGにまだ劣っている。

 こうした点を総合して、ハミルトンはスパで負けたからといって、必ずしもモンツァでも負けるとは限らないと見る。

「モンツァでは、僕たちの不利はスパほど大きくはないだろう。僕たちのマシンパッケージがモンツァにはもう少し合ってくれると期待しているよ。スパでは超低速コーナーからのトラクションに苦しんだ。しかし、モンツァは第1シケインを除けば他は高速のシケインなどで、トラクションはそれほど大きな問題にはならない。タイヤマネージメントも彼らは僕とは違い、ほとんど必要に駆られることなく全開で走り続けたけど、モンツァではそれも大きな問題にはならないはずだ」

 果たして、今年のモンツァでフェラーリは悲願の優勝を手にできるだろうか。2010年以来の地元優勝へ、ティフォージの期待は最高潮に高まっている。

 フェラーリを改革し、強くしてきたマルキオンネは、今年7月に還らぬ人となった。彼が切に願った「跳ね馬の復活」を地元イタリアで果たすことが、彼への最大限のはなむけとなる。

「僕たちはイタリアにおいて、もっとも特別なシートに座っている。このクルマに収まるとき、本当に特別な気分になるんだ。そして今年は、日曜に表彰台、そして優勝を目指して戦えることがわかっている。本当にすばらしい気分だよ。マシンをドライブするのが楽しみで仕方ない。僕らはこれまで、ここで何度もいいレースを見せてきたし、表彰台にも上ってきたけど、今年僕たちがほしいのは表彰台以上の結果だ。僕はここで、フェラーリのマシンで勝ちたいんだ」(ベッテル)

 超満員に膨れ上がった大観衆がチェッカードフラッグと同時になだれ込むメインストレート上、その天高くにそびえるモンツァの表彰台――。その中央に立つのは、果たして誰だろうか。