カタールW杯は2022年の11月、12月に開催される予定なので、準備期間は4年以上ある。焦る必要はまったくない。来年1月に行なわれるアジアカップも、これまで優勝チームに付与されてきたコンフェデレーションズ杯の出場権が、今回はコンフェデ…

 カタールW杯は2022年の11月、12月に開催される予定なので、準備期間は4年以上ある。焦る必要はまったくない。来年1月に行なわれるアジアカップも、これまで優勝チームに付与されてきたコンフェデレーションズ杯の出場権が、今回はコンフェデそのものが開催されない可能性が高くなったため、特段、優勝にこだわる必要もない。どれほど冒険できるか。森保一新監督を評価する、それはひとつのバロメータと言えた。

 それが高いレベルを示していることは、発表された日本代表のメンバーの顔ぶれを見れば一目瞭然だ。頑張ってよく変えた。一番の感想はこれになる。しかし、初めて選出された選手や代表歴の浅い選手がずらりと並ぶその唐突感のある顔ぶれを眺めていると、一方で寂しい気持ちに襲われることも確かなのである。

 日本サッカー界の層の薄さを思わずにはいられない。ハリルホジッチが3年間の在任期間中、Jリーグ軽視、海外組重視の政策を取った影響もあるのだろうが、日本サッカー界という畑が、計画的に耕されていないことをあらためて痛感する。



起用法が注目される中島翔哉(ポルティモネンセ)

なぜFWは3人しかいないのか?

 とはいえ、これは森保監督には関係ない問題だ。今回、彼が判断を下した新生メンバーについて言及しようとしたとき、単純に目に飛び込んでくるのがFWの少なさだ。小林悠(川崎)、杉本健勇(C大阪)、浅野拓磨(ハノーファー)の3人だけだ。

 GK、DF、MF、FW。発表されたメンバーは、この4つのポジションに分類されているが、布陣はいまや、GKを除いた3ポジションを4列表記するのが当たり前の時代だ。

 ここ何年かの日本代表で最もポピュラーだった4-2-3-1でいえば、FWは「3-1」か「1」だ。センターフォワードのみをカウントするか、2列目の選手もFWと見なすかで分かれる。特に2列目の両サイドはFWに分類されることが多かった。それが今回は3人。森保監督が使用する布陣はおそらく3-4-2-1だ。以下、それを前提に話を進めるが、3人しか選んでいないFWは1トップ候補を意味するのだろう。

 だとすれば、「2」に該当するいわゆるシャドーストライカーは、MFから選ばれることになる。どっちでもいい話かもしれないが、監督のこだわりを探ろうとしたとき、こうした部分は思いのほか見過ごせない要素になる。

 では、シャドーストライカー候補は誰なのか。発表されたMF枠から守備的MF候補を除いた以下の選手になる。伊東純也(柏)、中島翔哉(ポルティモネンセ)、南野拓実(ザルツブルク)、伊藤達哉(ハンブルガー)、堂安律(フローニンゲン)の5人。このシャドーストライカーには、どのような適性が求められているのか。この5人に共通する武器はドリブルだ。

 しかし、ドリブルはサイドで発揮するならリスクは少ないが、真ん中で奪われると危ない。レベルの高い相手に、逆襲を食う典型的なパターンだ。同じ3バックでも、3-4-3の両ウイングならサイドに開いて構えるので、奪われても大きな問題になりにくいが、3-4-2-1のシャドーストライカーは、構える位置は真ん中寄りだ。サイドアタッカーではない。

 選んだ選手と使用しそうな布陣との関係がよく理解できない。なぜ4-2-3-1ではなく3-4-2-1なのだろうか。

車屋、室屋は「ウイングバック」なのか?

 4-2-3-1をメインに戦ったハリル時代、伊東純也は右で、中島翔哉が左でテストされた。そしてその後ろにはサイドバックが構えていた。サイドの選手は両サイドに各2人いた。それが3-4-2-1では各1人になる。

 選ばれた選手は車屋紳太郎(川崎/左)と室屋成(FC東京/右)。

 疑問はふたつある。ひとつは彼らがDFとして選ばれていることだ。所属クラブでは4バックのサイドバックを務めるのでDFで構わないが、3-4-2-1上では「4」の両サイドに当たる。MFでなければおかしい。

「ウイングハーフ」なのか「ウイングバック」なのかと問われ、「ウイングバック」と答えてしまったようなものだ。3バックではなく5バックです、と。3バックは相手に両サイドを突かれると5バックになりやすい傾向がある。5バックになりやすい3バックほど守備的だと言われるが、車屋、室屋をDFとして発表することは、「我々のサッカーは守備的です」と述べたも同然だ。

 しかも、発表されたメンバーを見る限り、この2人の他に候補者はいない。いるとすれば、先述の伊東、中島らになる。彼らをサイドで使えば「ウイングハーフ」色は強まるが、適性には疑問符が付く。一瞬のキレはあるかもしれないが、持久力、馬力、直進性といった、このポジションに不可欠な能力を持ち合わせているとは思えない。

 サイドアタッカーが1人しかいない3バックのウイングバックは、ピッチの縦幅105mを1人でカバーしなければならないので、ポジション的にはチームで最も過酷だ。そこに控えが見当たらないというこの現実。人選に無理を感じずにはいられない。

 さらに言えば、左で先発出場が濃厚な車屋は、4バックのサイドバックには適性があっても、ウイングバックに適性があるとは思えない。このポジションに向いているのは槍系の選手。将棋で言えば”香車”タイプだ。

 車屋は長駆攻め上がるというタイプではない。ジワジワ、ヒタヒタ、周囲と連携を図りながらコンビネーションで攻撃参加を図るタイプだ。室屋にも車屋ほどではないが、そうした傾向がある。サイドアタッカー各1人のサッカーをしたいのなら、例えば元広島のミハエル・ミキッチ(湘南)のような選手が、少なくとも周辺にゴロゴロしている必要がある。

 森保監督がこれから代表でやろうとしている3-4-2-1は、とりわけJ2を中心に流行しているが、J1では少数派だ。欧州組がプレーする欧州各国のリーグではその割合はさらに減る。10%程度だろう。

「代表のサッカーは、その国に浸透している標準的なスタイルで戦うことが望ましい」、「代表チームが唐突なサッカーをすることは好ましい傾向ではない」とは、これまでの欧州取材で多くの評論家らから聞かされてきた言葉だが、今回、森保監督が選んだメンバーを眺めていると、その台詞を思い出す。

 日本人監督ながら、森保監督には、外国から突然、日本にやってきた監督を見るような気さえする。穏やかそうな顔をしているが、案外、独善的。発表されたメンバーを見てあらためて思う次第だ。