専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第169回 今回は、メジャーリーグからちょっとネタを拝借して、ゴルフレッスンのあり方を考えてみたいと思います。 伝説の300勝投手、ランディ・ジョンソンってご存知ですよね。マリ…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第169回

 今回は、メジャーリーグからちょっとネタを拝借して、ゴルフレッスンのあり方を考えてみたいと思います。

 伝説の300勝投手、ランディ・ジョンソンってご存知ですよね。マリナーズやダイヤモンドバックス、ヤンキースにも在籍し、サイヤング賞を5回受賞。メジャーリーグの歴史に残る左腕で、野球殿堂入りも果たしているレジェンドです。

 その偉大なるレジェンドが、NHKの番組『奇跡のレッスン』の「野球・ピッチャー編~ランディ・ジョンソン」収録のため、8日間も日本に滞在したのです。

 6月にオンエアされた番組の冒頭は衝撃的でした。「さあ、今日の先生を紹介しましょう」というナレーションで、何の前振りもなく、突然身長2mの大男がグラウンドの片隅に現れるのです。

 その瞬間、「誰だ?」「誰だ?」と大騒ぎ。その大男がグラウンドの端から近づいてきて、ランディ・ジョンソンだとわかると、その場にいた誰もが驚愕。異次元の大スターの登場に声も出ません。むしろ、周囲の大人たちのほうが興奮しまくっていましたからね。

 そして、ランディ・ジョンソンは子どもたちに向かって、「キミたち、僕のことを知っている?」なんて、茶目っ気たっぷりに自己紹介。まさかの”超大物”が目の前にいるんですから、それはもうイチローや松井秀喜などもぶっ飛びそうな、凄まじいインパクトでした。

 ランディ・ジョンソンのレッスンは、初対面でいきなり腕試しから始まります。生徒となる中学生の選手たちが、どれほどの腕前かそれぞれ見極めるため、「2~3球ずつ投げてみて」とリクエストしました。

 その際、ランディ・ジョンソンは「何か、悩んでいることはあるかい?」と、生徒たちに聞くのです。すると、ひとりの選手が「ボールが上ずって(コントロールが)安定しません」と言います。

 ランディ・ジョンソンはその選手の投球フォームを見て、「軸足の重心をかかと寄りから、センター寄りにしたほうがいいよ」と軽くアドバイス。そうしたら、本当にその選手の制球が安定し出したから、びっくりです。

 番組ですから、オイシイ部分を編集しているのでしょうが、それにしても初対面の子どもに的確なアドバイスができるなんて、こういう素晴らしい人、ゴルフ界にもいませんかね。

 というわけで、長い前振りとなりましたが、ここからはそれを受けて、日本のゴルフレッスンについてどうあるべきか、いろいろと述べていきたいと思います。

 旧来のゴルフレッスンというのは理論先行で、たとえば「世界一のコーチ」と言われるデビッド・レッド・ベターのボディターンとか、ノーコックとか、詳しいことはよくわかりませんが、そういう流行りの理論を教える、というのが主流でした。

 個人的には、後藤修先生という「ドローボールの神様」と言われた方に、雑誌の企画で5年間教わったのですが、さほどうまくなりませんでした。まあ、プロに教える先生なので、レベルも、理想も高くて、アマチュアにはついていけなかったみたいです。

 だいたい、こっちが「シャンクが出て、困っています」と言えば、「ひたすら打てば、治るから」というようなことを言って、まともに取り合ってくれませんでした。結局、後藤先生のレッスン企画が終わって、1~2年かけて自分なりにその教えを解釈してから、ようやく成長し始めました。

 それからすると、ランディ・ジョンソンのレッスンの即効性は”神の領域”です。しかも、中学生の目線まで降りて語ってくれますから、すこぶるありがたいです。

 思うに、プロ選手は技術を感覚的に覚える人と、理論的に覚える人がいるってことです。もちろん、その両方をミックスした人もたくさんいます。

 ただそのうち、理論的に学習した人のみ、他人に技術を伝えることができるのです。感覚的な人は、他人に教えるとき「こんな感じで握って」なんて言うんです。そう言われてもね、こちらはピンときませんよね。



感覚的に言われても、アマチュアはなかなか理解できないんですよね...

 現在、ゴルフ練習場に在籍しているレッスンプロの方は、ワンポイントの30分くらいのレッスンで、どんなことを教えているのでしょうか。以前、そういうレッスンプロの方のところに何度か企画で行ったことがあるので、それを思い出してここで再現してみましょう。

 まずは軽く挨拶をして、ハンデなどを言って、そして自らの問題点を述べます。当時って、今もですが、「シャンクが出て、困っている」とか、「アイアンが苦手」みたいなことを言うと、とりあえず「打ってみて」と言われます。

 そこで、5~6球打ってから、ワンポイントアドバイスとなります。マンツーマンですから、”理論”を押し付けるというより、”対処型”といいますか、症状を見て、それを克服するミニレッスンという感じで行なわれます。

 今じゃあ、そこで教わったことはすっかり忘れましたが、「目からウロコが落ちる」というようなことはありませんでした。

 あぁ~、ここにランディ・ジョンソンのような、天才レッスンプロがいたらなって思いますね。素晴らしいひと言をいただいて、その瞬間、ハンデ15の自分がシングルプレーヤーになれるんじゃないか……そんな気がしてなりません。

 というわけで、日本の練習場レベルでは、対処型のレッスンを受けたとしても、なかなか的を射た回答を得ることは難しいんですね。

 しかも、ほんの些細なことでもいいから、褒めてくれればいいのに、そんな対処もしてくれません。明らかに「このお客さん、下手で悩んでいるんだなぁ~」って目線でしたから。

 その点、ランディ・ジョンソンは褒め上手です。全員は褒めませんが、そこそこできていると、「バランスがいいねぇ~。このまま成長したら、楽しみだよ」と言って、褒めてくれるのです。

 とまあ、レッスンの難しさや素晴らしさをつらつらと記してきましたが、現状ではどうなっているのでしょうか。

 ゴルフ雑誌での売りは、いまだレッスン企画が根強いです。有名ツアープロやレッスンプロ、そしてトップアマの練習法など、その企画も多彩です。そこには女子選手も加わっていますから、華やかさもあって、見応えも十分です。

 けど、それが読者の結果に反映されるかというと、甚だ疑問です。

 というのも、1回読んで、すべてを理解して実践できたら、次回からゴルフ雑誌は買わなくなりますからね。なかなか覚えられないから、次回も買って読むという、定期購読的な商売をゴルフ雑誌はしているのです。

 一方、レッスン業界は、スクール形式を取るパターンは従来どおり、ビギナーからお年寄りまで万遍なく、丁寧に教えています。そうしたなかで、有名レッスンプロに定期的に指導を受けるお客さんは、やはり上級者で、対外的な試合にも出ている人たちです。

 そして、一番勉強しないのが、我々のようなハンデ15前後の、単なるゴルフ好きなオヤジです。この層は、若いときから散々いろいろな理論に染まり、ことごとく裏切られてきたので、「レッスンはもういい」と思っているのです。”裏切られた”という表現も微妙で、単に本人が習熟できないだけなのですが……。 

 ただ、ゴルフ場を一番利用するのが、この頑固で、わがままなオヤジ連中であることは間違いありません。彼らはレッスンを受ける代わりに、高性能な飛ぶクラブや飛ぶボールを手に入れ、レッスンを上回る成果を挙げています。

 結局のところ、ゴルフはスポーツですが、趣味、道楽という捉え方もできます。さすれば、最少の努力、少ない手間、そこそこのお金で、スキルアップするという考えが真っ当なのです。

 そもそもランディ・ジョンソンのような、優秀なコーチがゴルフ界に何人いるのか? たとえいたとしても、安く気軽に教えてくれるのか?

 そういうことですよね。