両チームとも内容的には見るべきものに乏しく、ゴールが生まれる可能性をほとんど感じさせなかったが、だからといって責められない。そんな試合だった。 アジア大会の男子サッカーは準決勝が行なわれ、日本がUAEに1-0で勝利した。 ジメジメとし…
両チームとも内容的には見るべきものに乏しく、ゴールが生まれる可能性をほとんど感じさせなかったが、だからといって責められない。そんな試合だった。
アジア大会の男子サッカーは準決勝が行なわれ、日本がUAEに1-0で勝利した。
ジメジメとした蒸し暑さのなかで、互いに中1日での試合。しかも、それまでに中1~4日の試合間隔で、すでに5試合もこなしてきているとあって、どちらにとっても、わずかに残されたエネルギーを出し尽くす消耗戦だった。
「前の(延長戦まで戦った準々決勝の)北朝鮮との試合がキツく、体力的に回復が間に合わなかった。プレーするのに十分なパワーがなかった」(UAEのマシエイ・スコルザ監督)
「昨日はほぼ練習をしていない。疲労を抜き切ることはできないが、少しでも抜き、リフレッシュできるようにした」(森保一監督)
体力的な厳しさは、両チームの監督がそろって口にしたとおりだ。
概ね、日本が優勢に試合を進めてはいたが、決定機と呼べるチャンスは数えるほどで、得点ムードは高まらず。また、UAEにしてもカウンターから攻撃機会をうかがうも、中東のチームらしいスピード感は最後まで見られなかった。
通常のリーグ戦なら、お互い0-0のドローでよしとする試合だっただろう。残り15分あたりから、暗黙の”手打ち”がなされ、試合は引き分けに向かって進んだはずである。森保監督も「(後半の)75分あたりから、延長戦もあるかなと考えた」と言い、90分で決着がつきそうにない雰囲気を感じ取っていた。
しかしながら、この試合はトーナメントの準決勝であり、どこかで勝負をかけなければ決着しない。決着を長引かせれば、さらに体力的消耗が激しくなるばかりだ。
はたして、”機を見るに敏”だったのは、日本である。
78分、UAEが自陣で日本の攻撃を食い止め、奪ったボールをカウンターにつなげようとした、そのときだった。
パスを受けたUAEのMFアルダルムキに、MF渡辺皓太(東京ヴェルディ)が激しくスライディングタックル。ボールを奪い取った渡辺は、すぐさま立ち上がり、フリーで待つFW上田綺世(法政大)へパスすると、GKと1対1になった上田は落ち着いてゴールを決め、これが決勝点とった。
決勝ゴールを落ち着いて決めた上田綺世
殊勲の渡辺が「チーム全体で球際は強くいくと、森保監督からも言われていた」と語れば、対する指揮官は「皓太が集中して、相手がボールを動かすところを狙って得点につなげてくれた。疲れているのに、気迫が表れていた」。森保監督は、チームのベースとなるものとして「攻守の切り替え」と「球際は強く」を強調し、選手に働きかけているというが、まさにそれがゴールに直結したシーンだった。
すでに記したように、内容的には見るべきものに乏しく、はっきり言えば、退屈な試合だった。2試合連続で延長戦をこなしてきたUAEは、日本以上に消耗が激しく、前半からダラダラと時間稼ぎを行なったことも、その印象を強めた。
だが、それでも日本の選手たちは焦(じ)れて攻め急ぐことなく、守備のバランスを保ち、相手のカウンターを防ぎながら、攻め続けた。もちろん、思うように体が動かず、そうせざるを得なかった面もあるだろうが、コンディションを踏まえたうえで、落ち着いて試合を進めたことは評価されていい。
この大会に出場しているU-21日本代表は、事前キャンプがなく、ほぼぶっつけ本番で大会に臨み、大会中も短い間隔で試合が続いた。当然、じっくり時間をかけて戦術的な練習に取り組む余裕もなかった。
しかし、選手にとっては、「試合こそが最良の実践トレーニング」になっているのだろう。例えば攻撃を見ても、ボールを保持して攻撃を組み立てることと、1本の長いパスで相手DFの背後を突くこととが、うまく使い分けられるようになってきた。森保監督も「選手は試合ごとに、明確に成果と課題を次に生かしている」と語り、彼らの成長ぶりを称える。
さて、苦しみながらも2大会ぶりに決勝進出を果たした日本が、金メダルをかけて対戦するのは、韓国である。
日本が2年後の東京五輪を見据え、21歳以下の代表チームで今大会に臨んでいるのとは対照的に、韓国はU-23代表をベースに、FWソン・フンミンら、A代表の中軸選手をオーバーエイジ枠で加えている。間違いなく、今大会の優勝候補筆頭だ。
そんな韓国も、率直に言って、チームとしての成熟度はかなり低い。急造チームなのだから、仕方がないとはいえ、攻撃の組み立てや守備の連係には拙(つたな)さが目立つ。だが、その一方で、ワールドクラスのソン・フンミンの他にも、FWファン・ウィジョ、ファン・ヒチャン、イ・スンウと、得点能力の高い選手がそろい、前線の個人能力だけでいえば、今大会に出場している他国のレベルとは別次元にある。
残念ながら、日本も急造という点では大差なく、組織的な戦いで対抗するのにも難しさはあるが、試合ごとに成熟度を高めてきたチームが、現状でどこまで戦えるのか、胸を借りるには絶好の相手だろう。
両チームの力を客観的に見比べれば、日本の劣勢を予想することにはなる。それでもこうした強敵と、しかも決勝という舞台で対戦することが、成長途上にある選手たちの潜在能力を、またひとつ引き出してくれるのではないか。そんな期待をもって頂上決戦を待ちたいと思う。