アジア大会、準決勝の韓国戦は複雑な勝利だった。主導権は奪えず、シュートは4本しか許してもらえなかった。得意のパス回しは韓国のものとなり、プレッシングも、攻撃の組み立てもすべて後手に回った。勝利の要因を見つけるのは非常に難しい内容である…
アジア大会、準決勝の韓国戦は複雑な勝利だった。主導権は奪えず、シュートは4本しか許してもらえなかった。得意のパス回しは韓国のものとなり、プレッシングも、攻撃の組み立てもすべて後手に回った。勝利の要因を見つけるのは非常に難しい内容であるにも関わらず、それでも、なでしこジャパンは粘りと不屈のプレーでゴールを呼びこみ、アジア大会4大会連続の決勝進出を決めた。
準決勝で韓国を相手に、前半早々点を決めた菅澤優衣香(右から2番目)
日本の出だしは好調だった。開始最初のビッグチャンスを菅澤優衣香(浦和レッズレディース)がしっかりと決めて早々に先制点を奪う。その直後にもチャンスが到来。岩渕真奈(INAC神戸)が、味方の駆け上がりをギリギリまで待って出したパスを菅澤は外してしまうが、先手を取った日本が乗っけから一気に波に乗るかと思われた。しかし、徐々に韓国の攻撃に押され、受け身に回っていく。
グループリーグを合わせても、格下との対戦続きだった韓国は日本戦に照準を合わせて、万全のコンディションに整えていた。ボコボコのピッチで力の拮抗した相手との連戦で疲労が蓄積しまくっている日本との差は歴然だった。
韓国のシステムは4-1-4-1。1ボランチの両脇のスペースを狙って、そのままサイド攻撃へ――。日本に目論見はあった。しかし実際のピッチでは、思うようにボールを運ぶことができない。
ポイントとなったのは、やはり対戦前から危険視していたインサイドハーフのチ・ソヨン、チョ・ソヒョン、1ボランチのイ・ミナのトライアングル。フィジカル、ボールコントロール、パスセンス、決定力……、それらを兼ね備えている3人で、誰につくべきか的を絞り切れなかった。さらに、この3人が自由に動き回るため、マークの受け渡しなどにも混乱が生じた。
先制点後、さらなる追加点を挙げようと、積極的に攻撃に絡もうとしたボランチの空いたスペースを韓国が使い出すと、日本守備陣は一度ブロックを引く道を選んだ。
それでもセカンドボールが拾えず、一向に流れを呼び戻すことができない。要注意人物の1人であるチョ・ソヒョンを泣く泣く自由にさせ、ボランチの有吉佐織、中里優(ともに日テレ・ベレーザ)でチ・ソヨン、イ・ミナの2人を抑えるなど、ピッチ上ではいろいろと対応しながら、好転させる試みを尽くしていた。それでも「難しかった……」(有吉)と、厳しい現実がそこにあった。
「マッチアップしたことがないんですよ」
有吉は韓国戦を前に、韓国のエース、チ・ソヨンとの対決を楽しみにしていた。前半は、相手がポジショニングを下げていたことで実現しなかったが、その後ガップリ四つに組み合った。「剥がせるときもあった」と手応えが残った。韓国戦で苦しんだことも含め、ようやくボランチというポジションの良し悪しがわかり始めたという有吉。
「紙一重のところの判断や、引き出しが課題。今はからっぽの引き出しにいろいろ詰め込んでる最中です」
失念していたが、彼女はボランチに入ってまだ5試合目だ。7月のアメリカ遠征でアメリカ、オーストラリアと戦い、今大会ではタイ、北朝鮮、韓国と戦ってきた有吉の考えるボランチの形が決勝の中国戦で表現されるはずだ。
高倉麻子監督は、この準決勝でまたしても新しい試みを持ってきた。左サイドバックにまさかのセンターバックとして呼んでいた國武愛美(ノジマステラ)を据えた。もちろん國武は初サイドバックだ。
「見える景色が(CBとは)全然違いました」と戸惑いながらも、懸命にビルドアップに挑戦していく姿を見ることができた。なぜ準決勝という場でリスクのある起用をするのか。それは目先の勝利だけでは選手の成長は促せないからだ。
今大会の女子サッカーの登録人数は18名。これは他国よりも少ないがオリンピックと同じ条件である。今大会を2020年東京オリンピックと想定して戦っているのだ。
「過密日程の中でチームの力や選手のやりやすさを落とさず、出場時間を増やしながら成長させていくことはいつも頭にある。目先の勝利だけで組み立てているとチームの膨らみはなくなってくると思います」(高倉監督)。
この点からいくと、韓国の中盤を前に、新たなボランチコンビと新戦力で45分を失点ゼロに抑えたことで、機会を与えられた選手は準決勝でしか味わうことができない経験ができ、連戦してきた選手は休むことができた。
チームが崩れないギリギリのラインを指揮官は攻め続けている。決勝はこれまでと同様に中2日。ここまでくれば重要なのは過密日程のなかでのリカバリーだ。韓国戦のようなコンディションでは決勝の中国とはまともに戦えない。どこまで疲労を回復させることができるのか。なでしこジャパンの最大の壁はここにあるのかもしれない。