森保ジャパンを語る~杉山茂樹×浅田真樹(後編)前編を読む>>杉山 では、具体的にどういう選手を選ぶべきかという話になると、実はすぐ名前が出てくる選手はいないんですよ。国内組で戦った去年のE-1選手権のメンバーを見ても、24歳以下はそれほ…

森保ジャパンを語る~杉山茂樹×浅田真樹(後編)

前編を読む>>

杉山 では、具体的にどういう選手を選ぶべきかという話になると、実はすぐ名前が出てくる選手はいないんですよ。国内組で戦った去年のE-1選手権のメンバーを見ても、24歳以下はそれほど多くなかった。脚光を浴びたのは伊東純也(25歳/柏レイソル)くらいじゃないですか。現状でも、Jリーグで「思い切りキラキラ光っている23歳、24歳がいるか」と言われると、確かにそんなにいないんです。

 それでも、僕は無理してでも選んだほうがいいと思う。化ける人もいるから。5人選んでおいて、その中からひとりかふたりでも出てくれば、「なんでこの選手を呼んだの?」と言われても、それでいい。昔、アギーレやオシムはそれをやっていたし、ファルカンもそれに近いことをやっていたんです。「なんで実績のない選手や若手を選ぶの?」と言われていたんだけど、4年というところから逆算すると、スタートはそれでいいんです。



代表の中核を担う選手になると期待される三竿健斗(鹿島)

浅田 ロシアW杯に関しては、ヨーロッパに選手が多く出て、その選手たちの経験が生きて「今回の結果につながった」と言われているけど、本当に確固たる地位を築き、ヨーロッパのトップクラスのクラブでやっている選手が現段階でどれだけいるのかといったら、そんなには多くはないわけです。

 だったら、ロシアで活躍した選手たちの実力はもうわかっている、と。とりあえずヨーロッパはシーズンが始まったばかりだし、彼らには「クラブに専念してくれ」と伝えて、代わりに「誰よ、この選手」というような選手をいっぱい呼んでいいと思うんです。少なくとも年内の6戦は、代表キャップ0みたいな選手をガンガン試すべき時期だと思うんですけどね。

杉山 そうすると、アジアカップは結果が出ない可能性もあるじゃないですか。でも、それはしょうがないですよ。「俺たちは4年後を考えているんだから、ここはちょっと新戦力を発掘しましょう」と。実績のある選手をまったく無視するわけにはいかないかもしれないけど、「強化の場に充てることにしました」と考えればいいんです。

浅田 具体的なメンバーでいうと、わかりやすいところから言えば、まず三竿健斗(22歳/鹿島アントラーズ)とか井手口陽介(22歳/グロイター・フェルト)とかになりますよね。ただ、井手口の場合、クラブを離れることが不利益になるんだったらクラブに集中してもらったほうがいいのかもしれない。この夏ヨーロッパに移籍した他の若い選手もそうです。一方で、三竿などは、「4年後はお前が主役にならなきゃいけないんだよ」という意味でも、アジアカップのような国際大会を、フルに経験させるというのはすごく大事だと思う。

杉山 長谷部誠と同じスタイルである必要はないけれど、やはりあのポジション、セントラルMFにいい選手がいないとサッカーは機能しないんです。そういう意味で長谷部の後継者を誰か育てなきゃいけない。それをまずやらないとダメですよね。僕は三竿、いいと思います。鹿島で彼を見たとき、東京ヴェルディにいたときより急に伸びたと思った。

浅田 長谷部でいうと、キャプテンをどうするかという問題もあります。順当なところでは吉田麻也(29歳/サウサンプトン)なんでしょうけど、吉田だって年齢的に4年後はどうなっているかわからない。若くてもリーダーシップをとれる選手が必要で、長谷部だって初めてキャプテンになった2010年の段階でいえば、ベテランではなかったし、特別な経験もなかったのに、ああなったわけだから。

杉山 あと、浅野拓磨(23歳/ハノーファー)とか、そのあたりは入れてくるんだろうと思います。

浅田 ほとんど無名でも伸びていく可能性がある選手でいうと、古橋亨梧(23歳)はこの夏、ヴィッセル神戸に移籍して初めて見ましたが、意外にドリブルにキレがあって、そういうちょっと磨けば光るような選手をうまく取り込んで伸ばしていってほしいと思います。あとは清水エスパルスの北川航也(22歳)、金子翔太(23歳)、松原后(21歳)、名古屋グランパスの宮原和也(22歳)とか。

杉山 エスパルスにはそのぐらいの年齢の選手が結構いる。あとは鹿島のサイドバックの安西幸輝(23歳)。ずっとケガをしていたけど、ヴェルディ時代からプレーに活気があって、左右ともにプレーできる。遠藤渓太(20歳/横浜F・マリノス)はU-21代表ですね。

 日本は右サイドのドリブラーが少ないんです。ロシアW杯では原口元気がやっていたけど、右ウィングは世界的にも少なくて、右利きで縦に抜いていくのは技術的に難しい。原口も本当は左のほうが絶対に合っていて、ベルギー戦のシュートは見事だったけど、それ以外はどちらかというとディフェンス要員になっているようなところがありました。右サイドの攻撃が左と同じぐらいあれば、日本はもうちょっとチャンスの数が増えたと思うんです。遠藤の名前を出したのはそのためで、右サイドの選手を育ててほしい。

浅田 あとは左利きですね。どういうフォーメーションを組むにしても、ひとりかふたりは左利きがほしい。ロシアでは23人のうち左利きは本田圭佑ただひとり。ちょっとこれは異常です。たとえば横浜F・マリノスには、年齢的にはちょっと上ですが、山中亮輔(25歳)、扇原貴宏(26歳)、天野純(27歳)と、左利きが結構、多いんです。若手でいうと杉岡大輝(19歳/湘南ベルマーレ)もいい。遠藤同様、U-21代表ですが、堂安律(20歳/フローニンゲン)、三好康児(21歳/コンサドーレ札幌)も、左利きで能力の高い選手です。

杉山 西野ジャパンの選考に最後で漏れてしまった実力者の車屋紳太郎(26歳/川崎フロンターレ)、同じく川崎で大島僚太と中盤でコンビを組んでいる守田英正(23歳)も技術は高い。

浅田 守田は大卒1年目。そのぐらいの年齢だと、それこそ中村憲剛のように、それまではそんなに目立たなかったのに、少しずつ出場機会を得て経験を積んで、ちょっとしたことで才能をブレイクさせる可能性は十分あると思うんです。

杉山 ロシアW杯であらためて感じたのは、日本は大きくて鈍い選手より、小さくて俊敏な選手のほうがよくて、それで負けちゃったらしょうがないということです。小さくて俊敏だと、意外にベルギーのような大男たちも嫌になっちゃうところがあって、それを生かしていったほうがいい。

浅田 僕もそっち派です。日本人だと、身長185cmといえば大型選手じゃないですか。でもW杯で見たら、センターバックは190cm以上なんて当たり前。ベルギーなんてエデン・アザールを除いたら全員185cm以上のようなチームになるわけです。そこに185cmの日本人を入れて勝てるのかというと疑問で、変にそこを求めるよりは、小さくてもちゃんとボールを扱えるとか、そういうことを優先したほうが得策だと思っているんです。

杉山 身体の大小ではなくて、プライオリティが高いのは俊敏性と技術。ロシアW杯のドイツはみんな大きくて、小柄な技巧派がいないから、リズムがドタドタして昔のドイツに若干戻ってしまったようなところがあった。日本はあれと対照的な方向性でいったほうが、サッカーの面白みも出ると思うんです。そういう国は他にあまりないから。意外に世界の人に「日本、面白いね」と言ってもらえそうなサッカーです。そこで勝負していったほうがいいと僕は思う。

 別の言い方をすると、ハリルホジッチとまったく考え方を逆にしたほうがいい。ハリルホジッチは日本に足りないところを、「これが足りない」「これではいけない」といっていろいろやった。日本の現状を見て、「こう料理しよう」と思ったのだろうけど、料理の仕方をまったく間違えちゃったというのが最大の問題だったんです。

 おそらく西野さんには、そういう日本人のいいところが、ハリルホジッチを反面教師として鏡のような形で見えたのでしょう。ロシアW杯の日本代表で収穫があるとすればそこじゃないですか。でも、それを「日本人らしい」とかいう言葉でくくるのことやめてほしい。それはあくまで選手個人の話であって、戦術とはまた別の話ですから。